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僕は踏まれたい~踏まれるほどに強くなる~  作者: 怪ジーン
第1章 学院と女子寮での生活編
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3踏み 赤鬼姫と蒼鬼姫

 僕の転校の手続きは、アエリア先生が手を回してくれたので速やかに終わった。


 両親は心配していたが、僕が辞めると両親に迷惑がかかりそうで、心配ないと強がって見せる。

妹のルカにも心配してくれありがとうと、伝えてくれるように両親に頼んだ。

母さんは、最後に僕を抱きしめ、両親は町へと帰って行った。



◇◇◇



 魔力暴走で部屋ごと吹き飛ばしてしまい、僕の荷物は一つも残っておらず、その日は指導室という名の独房で一晩過た。


 次の日、僕を迎えに剣術学院の男性の先生がやって来る。まだ、若く体のガッシリした先生だった。


 魔法学院にいるのが気まずいみたいで、そそくさと一緒に剣術学院に向かう。

剣術学院と魔法学院は、理由は不明だが、余り仲良くないと聞いた事はあった。


「タイヤー君、俺は君のクラス担任のウッドだ。話は色々聞いているが、君を特別扱いする訳じゃない。それはわかって欲しい」


 特別扱いをしない……それは僕にとっては嬉しい事。優遇はしない、だけど冷遇もしないと言う事だ。


「はい。タイヤー=フマレです。固有スキルは『麦』です。これからよろしくお願いします、ウッド先生」


 こうして、僕の新しい生活が始まった。



◇◇◇



「悪い、タイヤー君。職員室に忘れ物をした。先に教室に入っていてくれ」


 ウッド先生はそう言って僕を教室の前に置いて、職員室へ戻って行った。


「え!? 転校初日で一人で教室に入るって難易度高過ぎる」


 困惑していた僕が教室の前で立っていると、横開きのドアが突然開き一人の女子生徒が現れた。


 僕は、その子を知っている。学園時代で、最も有名だった女の子。

学園で過ごす三年間生徒会長。勉強も常にトップ。大剣と綺麗な長い赤い髪を振り回すその荒々しい姿から、ついた渾名は“赤鬼姫”。


 本名エル=ハーバード。

 

 腰まであるストレートの赤い髪。瞳は輝く様な金色。

何処に大剣を振り回す力があるのかと、思うくらい細い腕にスラッとしたスタイル。


 決して痩せている訳ではなく、出る所は出ている。何より特徴的なのは薄紅色の小さな唇を、左の口角をだけ上げて笑う癖。


 そこから覗く八重歯()が“鬼”と呼ばれる所以の一つだ。


「何、ボーッとしてるの? 入れば?」


 彼女は、じろじろと僕を舐めまわす様に見たあと、左の口角を上げ笑みを浮かべると僕に八重歯()を見せつけてきた。


「あなたでしょう? フマレタイってのは?」

「え!? 僕、そんな事言ってない」

「? いや、あなたの名前よ」

「違うよ! フマレタイじゃなくて、タイヤー=フマレ!」

「………………冗談に決まってるでしょ、タイヤー」


 彼女は“鬼”の渾名から怖いかと思っていたけど、良く言えば気さく、悪く言えば大雑把だった。


「ほら、教室に入りなよ」


 彼女は、僕の腕を掴み引っ張り込む。


(む、肘に胸が……)


 僕は動揺するが、彼女エルは気にしていない様子だった。


「みんなぁ! 今日から転校してきたタイヤーが来たよ」


 ドクン。僕は魔法学院の初日を思い出し、思わず目を瞑ってしまう。しかし、教室の反応は予想外だった。


「おー。もうすぐ授業始まるぜ。ギリギリじゃねーか」

「あれ? ウッド先生と一緒じゃないの?」

「え、エルちゃん……む、胸が当たってるよ……」


 教室には、エルも含めて6人しか居なかった。


「人数少ないだろ、タイヤー君」


 突然、僕の後ろからウッド先生が現れる。


「剣術学院って人気ないのよ。それに魔法に比べて個人個人扱う武器が違うし教えるのが大変だからね」


 エルが腕にしがみつきながら、説明してくれた。


「タイヤーの席はここ。私の隣だから、何でも聞いて」


 案内されて席に着こうとするが、エルの席の横に立てかけられている大剣が気になって仕方がない。


「あ、この剣、邪魔になるわね」


 軽々と大剣を持ち上げ教室の後ろに放り投げ、ガラガラと物凄い音が教室に響く。


「こらぁ! エル君! 剣を投げるんじゃない」

「あ、すいませーん」


 ウッド先生に怒られたエルは、僕に向けて舌を少し出すお茶目な顔をした。


「ほらほら、あんまり時間ないぞ。各自タイヤー君に自己紹介しなさい」

「じゃあ、オレからな。オレはリックだ。得意な武器は短剣だ。よろしくな、タイヤー」


 リックという少年は、僕の前までわざわざ来て肩をバンバン叩きながら自己紹介をしてきた。

苦手なタイプだ。爽やかな笑顔で明るく人当たりもいい。身長も僕より高く、細身で男前。

多分、モテるのだろうなと思った。


「次は、私ですね。私はセリカと言います。タイヤーくんとは、話した事はないけど、同じ学園にいました。得意な武器は鉄扇です」

「鉄扇?」

「見たことありませんか? コレです」


 セリカという少女は、肩までの黒髪で眼鏡をかけていて、いかにも優等生って感じがする。

そのセリカが、胸元から鉄扇を出して、広げて見せてくれた。

何故、胸元に鉄扇を仕舞っているのか理解できなかった。


「ぼ、ボクはグレイス。得意なのは双剣です。タイヤーくん、よろしく」


 グレイスという少年……とても同じ年には見えない。

ガタイもいいし、ウッド先生より背も高い。

だけど、その顔は穏やかな優しい顔をしている。

友達になれそうな気がする。


(あれ? でも双剣てスピード命のイメージなんだけど、その体格で得意なの?)


「……サラ……(こん)


(え? それだけ?)


 サラという少女は、クラスで一番背が低く前髪で目がちょっとしか見えないし、暗い雰囲気ではあるが自己紹介を終えてリックと気さくに話している所を見ると、そんな事は無いのだろう。

リックがサラの肩を気安く組むと棍で股の間を殴られ、うずくまる。


 リックが残念な男前ということはわかった。



◇◇◇



 そして、僕の前の席の少女。僕……というよりかは学園出身ならエルと並んで知らない人は居ないだろう。


 彼女は、コバルトブルーの髪と瞳をしている。

少しふっくらとした身体に見えるのは、太っている訳ではなく、決して高くは無いその背丈に、不釣り合いとも言える豊かな胸のせいだった。


 今もそうだが、学園の頃から彼女はその胸のせいで、制服が上に持ち上がり、お腹が見えてしまう。

それを隠すように常にエプロンみたいに髪と同じ色のカーディガンを腰に巻き着けていた。


 怯えた小動物のような可愛さと、その抜群なスタイルから彼女に告白する男子は多かったが、全て断られていた。


 お断りの言葉がとても鋭く厳しく、多くの男子が斬られていく。そして屍となって積み重なる。


 その死屍累々となった男子の上に立つようなイメージから、彼女は髪色なども相まって“蒼鬼姫”と呼ばれていた。


「あ……あの、わたしはフローラ=ルーデンス……です。よ、よろしく……と、得意な武器は……ありません」

「え!? 無いの?」


 彼女特有のおどおどした喋りで、“蒼鬼姫”ことフローラが自己紹介をしてくれた。


 ところが僕は、剣術学院は何かしら得意な武器を持っているという思い込みから、自分が魔法学院の自己紹介で、からかってきた担任と同じ事をやってしまった。


 フローラは突然顔を伏せ涙をポロポロと流すと、エルが慰めるように割って入ってきた。


「ほら、泣かないの。あのね、タイヤー。フローラはね、あなたと同じ固有スキル持ちなのよ。固有スキルは“オールマイティー”。得意な武器が無いのではなくて、苦手な武器が無いのよ」


 エルに説明された僕は謝ろうとすると、両手で胸を押された。


「あなたなんか、大っ嫌い!!」


 泣き腫らした顔で、バッサリと言われた鋭い言葉が、僕の胸に突き刺さる。

誰かが言っていた……フローラに振られると屍のようになると。

まさに今の僕がそうだった。



◇◇◇



「あとは、エル君だな。どうする? やるか?」

「はい。もちろんやります」


 エルは僕の席の前に立ち、自己紹介を始めた。


「私は、エル=ハーバード。得意な武器は、そこの大剣よ。私の事は知っていると思うけど、私もタイヤーの事は知っているわ。もちろん例のスキルの噂の前からね」


 意外だった。


 彼女は生徒会長だし目立つ存在だったから知ってはいたけど。

以前から知っていたとは思わなかった。


(こ、コレって、もしかして僕の事を……)


「いっつもいっつも、成績の発表で金魚のフンみたいに私の後ろにいたでしょ」


 金魚のフン扱い。思っていた言葉と違い僕は肩を落とす。

 だが、今まで明るい雰囲気から急に神妙な面持ちになり、彼女は突然頭を下げた。


「タイヤー! ごめんなさい!!」


 エルの突然の謝罪に僕は困惑してしまう。エルに何かをされた覚えは無いし、話をするのも今日が初めてだ。


「私は、学園の頃、タイヤーが苦しんでいたのを知っていたわ。本当なら生徒会長として生徒会を動かすべきだったのに。本当にごめんなさい……」


 頭を下げているエルの足元にポタポタと涙の跡ができる。 


 今思うと、確かに生徒同士で何かあれば生徒会は動いてきた。

だけど、僕の時には動いた痕跡はない。


 フローラがハンカチを取り出しエルに渡すと、代わりに事情を話してくれる事になった。


「た、タイヤーくん……その……エルちゃんは……その頃余裕が本当に無くて。

本当は魔法学院に入りたい……けど、魔法は使えない……頼みの……固有スキルも……持ってなかったから」


 確かに、魔法が使えなければ魔法学院には入れないし、固有スキルがあれば僕でも入れた。


 だけど、エルの大剣の技術だって、大して剣術を使えない僕でも凄いというのはわかる。

何で、そこまでして魔法学院に入りたいのか。


 僕は思い出した。 


 エルの家だ。ハーバード家は国家魔法団に何人も輩出している名家だ。

当然、彼女も期待されてる筈……


 けど、なんで剣術学院じゃ駄目なんだろうか。

彼女なら国家騎士団の方に入れてもおかしくない。


「フローラ、ありがとう。後は私が話すわ。タイヤーも驚かせて、ごめんなさい」

「う、うん。ちょっとビックリしたけど大丈夫だよ」


 エルは、涙を拭い明るく振る舞う。


「フローラの話の続きになるけど、ようやく落ち着いた時は、もう卒業間近で。タイヤーが魔法学院で受けた仕打ちを聞いた時、私は後悔したわ」


 エルは僕をしっかりと見据えてくる。


「だから、タイヤーが剣術学院に来るという話が来た時、引き受けるように頼んだの。クラスの皆も説明したら、賛成してくれた」


 エルは、僕を剣術学院に転校できるように、そして、クラスに馴染むように皆に説明までしてくれていた。


 嬉しくて、嬉しくて僕は泣き出しそうになる。


 僕が望んだ場所。それは“赤鬼姫”と“蒼鬼姫”の二人の鬼が住む天国だった。


 そして、この二人の鬼との出会いが、暗く先の見えない未来を明るくしてくれるとは、この時は思っていなかった。

ちょっと歪な形でだけど……

7/24改稿

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