19踏み 激闘! 盗賊団!!
「なんだよ……みんなで、よってたかって」
泣きそうになる。いや、既に半べそかいている。
僕じゃないよ。ヤラシがだ。
エルを筆頭にみんなから(サラは除く)言い寄られて、半べそって……最初から言わなきゃいいのに。
ほら、ウッド先生も口元を手で隠して笑いを堪えているじゃないか。
「ぷぷ……むっつり……」
「えっ!? そっちかい!」
思わず僕はサラと繋いでいた手を振り払い、平手の甲で先生を軽く叩く。
「先生、先へ行きましょう。時間無いのでしょう?」
「ぷぷ……あ、そうだな。エルくん」
僕達は、ウッド先生が先行し後ろからはヤラシが半べそで付いてくる。近くの森周辺を見廻っていると、森の影からナイフを持った1人のみすぼらしい格好をした痩せ細った男が出てきた。
「ヒャッハー! ここは、通さねぇぜ!!」
僕とグレイスは、リックの肩に手を置く。
「え? えっ!?」
「リック、あれが正しい『ヒャッハー』を使うべき人だ」
如何にもな盗賊っぽい男は、ナイフを舌で舐める。
「ヒャッハー!! 有り金全部置いてきな、でないと可愛いおべべが切り刻まれるぜ!!」
再び僕とグレイスは、リックの肩に手を乗せる。
「見ろ! リック! あれこそ『ヒャッハー』の達人だ。キミみたいな、イケメンが使う『ヒャッハー』などない!」
リックは、頭を抱えながら座り込んだ。これで『ヒャッハー』を使わなくなればいいのだけど……
「くっ……オレはまだまだ未熟だ!」
駄目だ……どうやら、手遅れらしい。
「何、ごちゃごちゃやってやがる! 早く有り金置きやがれ! このローレル・ハインツ・シュナイダー盗賊団が怖くねぇのか!?」
え! 何、その盗賊団。なんか凄く貴族っぽい名前なんだけど。
エルが、大剣を構えながら一歩前に出る。
「えぇ……と、ローレル……なんでしたっけ?」
「ちっ! よく聞け! ローレル・ハインス・シュタイナー盗賊団だ! おれ様は、その頭領ゲルグだ!」
微妙に名前が変わってる!! そして盗賊団の名前にゲルグ要素が全く無い!!
僕は、辺りを見回すが人の気配が全くなく、仲間は上手く隠れているみたいだ。
「まぁ、まだ、おれ様1人だけどな!」
違った。
ゲルグは、胸を張りながら回りに仲間がいない事を自分で話した。
ウッド先生をチラッと見ると困り果てた顔をしている。
「ウッド先生、どうしますか?」
「うーん、困ったね。特にまだ悪い事をしているようには見えないし……」
僕の質問にも、やはり困った表情のまま動かない。
「よし。すいません、ゲルグさん! あなたの実績を教えてください」
思い切って僕は、ゲルグに聞いてみた。周りは、そんな事話すわけないと呆れる。
「ふふん! よく聞けよ、小僧。“万引きゲルグ”とは、おれ様の事だ!!」
知らない。そして、小者過ぎる。万引きは、犯罪だ。だけどそれ以上に見た目言動から、小者感に溢れている。
ウッド先生が一歩前に出ると、ゲルグは一歩下がった。
「悪いけど、これで手を打ってくれないか?」
ウッド先生は懐をゴソゴソ探る。正直僕達は、ウッド先生の言動が理解出来ない。どうしてこんな奴に……
そして、ウッド先生はゲルグに向かって放り投げる。ゲルグの足元にコロコロと銅貨1枚が転がった。
銅貨1枚。僕の住んでいた町だと、お酒のエール1杯分。多分、王都だとエールも買えないだろう。
ゲルグは、サッと銅貨を取り懐へ入れた。
「そうだよ、大人しく有り金出せばいいんだよ」
ゲルグは下卑た笑みを浮かべている。ウッド先生も僕らも思わず顔を伏せて笑いを堪えていた。
なんで、9人もいて有り金が銅貨1枚なんだよ。ゲルグもゲルグだが、ウッド先生もウッド先生だ。
ゲルグは、すぐに立ち去るかと思ったが、まるで品定めするように僕らをジッと見ている。そして、再び下卑た笑みを見せてきた。
「ふーん、ガキばっかりかと思ったが中々上玉じゃねぇか。よし、決めた。お前ちょっと来い!」
ゲルグは、そう言うとサラに近付いていく。それを見たエル、フローラ、セリカが軽くショックを受けたのを、僕は見逃さなかった。
大丈夫だよ、3人とも。ゲルグは、ただの少女愛好家だ。
ゲルグがサラの腕を掴もうとする。
ドゴオッ!!
サラは持っていた細長い棍で、ゲルグを突き、一撃を与える。それを目の当たりにした僕、リック、グレイス、ウッド先生、そしてヤラシも股間がキュッと締まる感じがした。
もちろん、音は脳内補完だ。それほどの一撃だった。
ゲルグは、ピクピクと泡を吹き倒れる。
「先生、この人どうしますか?」
「うーん、万引きしているみたいだし、放って置く訳にもいかないか。エルくん、そこの木にでも縛っておいてくれ」
僕とグレイスで、木の根元までゲルグを運び、エル達が縄で縛りつける。
サラが、何やら紙と筆を取り出し、何かを書いて縄で紙の端を挟み張り付ける。
そこには……
『この者、少女愛好家で万引き犯の変態です。ただいま、放置中。餌を与えないでください』
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