1踏み 僕の名前はタイヤー=フマレ
僕の住む町リンドウは、人口三百人ほどの小さな牧歌的な町だ。この町の町長の息子として、僕ことタイヤー=フマレは生まれた。
僕の家族は、優しい父と怒ると怖い母、そして二歳年下の妹ルカとの四人家族だ。
町の子供は十歳になると、馬車で片道半日くらいの距離にあるリズボーン王国の王都にある、全寮制のリズボーン学園に入ることになる。
今日、僕は馬車に乗って学園に入園する。僕の見送りには、家族の他に町の人たちも来ていた。
「おにーちゃん、ルカも一緒にいくー」
「ルカは、あと二年だね」
「やー! いくのー!」
僕は、妹ルカの頭を撫でてやる。
かわいい妹だ。母親に似た金髪のストレートの髪と碧眼。整った目鼻立ち。
兄である自分が言うのもおかしいけど、将来はお母さんみたいな美人にきっとなるだろう。
一度、お母さんに、なぜお父さんみたいな平凡な人と結婚したのか聞いたことがある。
お母さんは、笑いながら一言「相性かしら」とだけ言った。
僕がこの意味、いいや正確には現場を見たのは、だいぶ後になっての話だ。
僕は、相乗りの馬車に乗り込み、お父さんとお母さん、そしてルカに手を振り王都へ向かった。
この時迄は、僕は普通の人だと思っていたんだ。
普通に卒業して、普通に仕事して、普通に結婚する。
そんな人生を歩むものだと…………
◇◇◇
僕の学園での生活は、三年間を順調に過ごした。
僕には剣や魔法の才能があまりなかったが、勉強は頑張ってトップクラス。
十二歳の夏に告白をされてかわいい彼女もできた。
あとは、卒業するだけ────のはずだった。
大概の人は、卒業後実家に戻る。
ただ、剣や武器の才能があればリズボーン剣術学院に、魔法の才能があればリズボーン魔法学院に進む事ができる。
僕は実家組の予定だった。
だけど、この二つの学院に進むには、もうひとつ方法がある。
それがスキル検査。
人は、十二歳以上でスキル検査により投薬を受けて基本的に一つだけスキルを覚醒することが出来る。
僕は以前に、十二歳前だと薬の副作用が働きやすくなるって聞いた。
だから、この学園では卒業前に行う。
スキルには多数の人が持つ一般的なスキルと一人限定の固有スキルがある。
二つの学院に進む別の方法、それが固有スキルだった。
◇◇◇
「次、タイヤー=フマレ!」
先生に呼ばれ、スキル検査のために教壇に上がると先生にステータスプレートを一旦渡す。
ステータスプレートっていうのは、名前や出身、年齢などが書かれている身分証明書みたいなもの。
そして、スキルもここに刻まれる。
先生は名前を確認すると、目の前にある紫色の液体を飲む様にと僕に渡してくる。
怪しい色をした薬を、僕は一気に飲み干した。
先生からステータスプレートを受け取ると、両手で挟み込み魔力を注いていく。
ステータスプレートが熱くなるのを感じて手を開いてみると、スキルの欄に固有スキルを示す赤文字で《麦》と書かれていた。
「お、固有スキルじゃないか! タイヤーなら勉強も出来るし先生も安心して推薦出来るよ」
先生が、僕のステータスプレートを見て喜んでいる。
僕は、卒業後にリンドウの町へと帰り、仕事をしながらゆくゆくは今の彼女と……そんな将来を思い描いていたのに、この《麦》のスキルのせいで砕かれるとは思ってなかった。
「先生、この《麦》っていうスキルは何ですか?」
「ああ、指でスキル名に魔力を注ぐと効果がわかる。やってみろ」
僕は、指先を赤文字に置くと魔力を注いでみる。
この時、僕は1人で確認するべきだったと後悔する。
ステータスプレートの赤文字が光り、プレートの上の空間に浮かび上がる。
固有スキル
スキル名《麦》
効果 自己身体強化と自己魔力強化の複合スキル。異性に踏まれると発動。踏まれれば踏まれるほど効力が上がり時間も伸びる。
僕は、クラス中の目の前で自分のスキルの効果を晒してしまった。
いや、スキルの効果とかはどうでもいい。問題は、発動条件だ。
案の定、僕はクラスの男子の嘲笑と女子の侮蔑の視線に晒される。
その中には、僕の彼女もいた。
◇◇◇
それから、卒業までは地獄の日々だった。
親友と思っていた男子には無視され、離れた所で笑われる。
クラスの女子だけでなく学園中の女子に気持ち悪がれ、近寄りもしない。
最悪なのは、その中には彼女も、そして二つ下の学年にいる妹のルカもいた。
先生は、体面を保つためだろう。明らかな態度ではないが、侮蔑している視線がわかる。
僕は早く学園を卒業し、町へ戻りたかった。
しかし、現実は残酷で僕にはリズボーン魔法学院の推薦が決まったのだ。
もちろん断りに行ったが無理だった。
表向きは推薦だが、貴重な人材確保のため事実上強制という事だった。
◇◇◇
僕は卒業し、そのままリズボーン魔法学院に入学する。
そして、新しく僕の地獄が始まろうとしていた。
リズボーン魔法学院に入学した僕は、初日から最悪だった。僕の事は、既に周知されていて入学式当日、教室へと入るなり空気が一変する。
クラスの女子からクスクスと笑い声が聞こえる。
「あれでしょ、変態スキルの」
「さいあく~、せっかく学院に入ったのに、あんなのと同期だとわかったら、いい笑い者よ~」
「とっとと、辞めればいいのに」
「無理よ~、固有スキルでしょ~。一応、あんなのでも」
学院に入る生徒は、優秀か固有スキル持ち。
プライドが高く、しかも実力がある為、僕への罵詈雑言も堂々と言ってくる。
まだ、遠巻きで笑うだけの学園の方がマシだった。
「どけ!」
僕の背中に蹴りが入り、思わず転びそうになるが踏ん張り留まる。
「ん? お前、もしかして例の固有スキルの奴か?」
僕を蹴った男子……もはや、同じ年には見えないほど背が高く体つきもガッシリしている。
(絶対魔法学院じゃなくて剣術学院の方だろ!)
「あ? 何見てんだよ!」
そいつは、更に僕を蹴飛ばし倒すと、顔を踏みつけてきた。
「お前、踏まれれば強くなれんだろ? ほら、踏んでやったんだから強くなってみろよ!」
僕が起き上がろうとする度に、踏む力が強まる。周りは、ただ遠巻きに笑うだけ。
結局、先生が来るまで、僕は踏まれ続けた。
「ほら、自己紹介始めるぞ! そっちから順番に言っていけ」
「××××××××」
「××××××××××」
自己紹介が続く中、僕には最早クラスメイトが何を言ってるのかもわからない。
だけど、無情にも自分の番は回ってくる。
みんなの視線が僕に集まる。それはただの好奇の視線。
「タイヤー=フマレです」
僕は一言だけで座ろうとするが、先生が止めた。
「おい! 名前だけじゃ自己紹介にならないだろ? 自分の固有スキルぐらい言ったらどうだ?」
ドクン。心臓が締まる。僕は先生の顔を見るなり、絶望する。その顔はニヤニヤと笑っていたからだ。
少なくとも先生が僕の固有スキルを知らない筈がない。
先生も周りと同類だった。
嘲笑に晒された自己紹介も終わり、寮へと戻る。
一人部屋だったのが唯一の救いだ。相部屋だったら、居場所がなくなっている。
僕は一晩中泣いた。
7/3改稿




