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田中さえいなければ

 「はあ……はあ……。参りました。僕の、負けです」


 冷たいリングに膝をつき、滴る汗を拭う。

 僕の敗北宣言を聞いて、両隣にいた審判が白い旗を上げる。

 勝敗は火を見るよりも明らかだった。完全に僕の負けだ。何だか不思議な気分だ。観客の歓声も悲鳴も、どこか遠いものに感じる。気が付いたら目の前に対戦相手の手が差し出されていた。僕は半ば呆然としたまま立ち上がった。


「それまでッ!! 勝者、白コーナー・田中十太郎君ッッ!!」


 遠くの方から聞こえていた大歓声が、耳元にワッと押し寄せてくる。こうして、僕の”全国高校生異能力者バトル選手権”は二回戦で幕を閉じた。僕自身、”不老不死”の能力を手に入れてからは負け知らずだったが、やはり上には上がいるものだ。


「いい戦いだったよ。ありがとう」

「いえ……こちらこそ」


 戦いを終え、僕らは握手を交わした。どこまでも爽やかな対戦相手だ。とても同じ高校生とは思えないほど、彼は落ち着いていた。


「君の”不老不死”、とても良かったよ。すごい能力だね」

「そんな……貴方の”未来予知”ほどじゃありませんよ。現に負けましたし」


 僕は肩をすくめた。

 実際、僕の攻撃は”未来を予知する”能力を持つ彼にことごとく躱された。対して、”死なないけれども痛みを感じない訳ではない”という”不老不死”の弱点を突かれた僕は、彼の怒涛のラッシュに耐え切れず早々にリングに沈んでしまったのだった。


「そんなことないさ。どうだい?良かったら、今僕と”能力交換”しないか?」

 彼は白い歯を見せて僕にそう提案してきた。僕は目を丸くした。

「え? でも……貴方はこれから三回戦、四回戦とあるじゃないですか!? 何もこんなところで……」

「”未来予知”程度じゃ不満かい?」

 僕は慌てて首を振った。試合後、相手を讃えるための慣習である、”能力交換”。決して強制ではないし、強い能力を持った選手はむしろ嫌がることの方が多かった。


「とんでもない! むしろ最強クラスの能力じゃないですか! 手放すには惜しすぎますって!」

「いいじゃないか。僕は君の”不老不死”で必ずこの大会優勝してみせる。約束だ。僕の”未来予知”を受け取ってくれ」

「!」


 彼はそう言って”未来予知”をユニフォームみたいに脱ぎ始めた。

「…………!」

 僕でいいのだろうか、なんて疑問もありつつも、僕も急いで”不老不死”を脱いだ。お互い”能力交換”をした後で、もう一度がっちり握手を交わす。観客達の声援のボリュームがさらに大きくなった気がした。万雷の拍手に包まれながら、僕らはリングを降りていった。


□□□


「伊地知相太くん。来年の夏、今度は決勝の舞台で会おう」

「は、はい!」


 そう言い残して、彼……いや、田中十太郎くんは颯爽と三回戦のリングへと姿を消した。

 悔しいけど、最後まで格好いいやつだ。負かされた相手だというのに、不思議と怒りは湧いてこない。むしろ彼のファンになったくらいで、応援するために急いで僕は試合会場へと向かった。

 会場はもちろん、熱気で包まれていた。次の田中くんの対戦相手、瑞穂さんの”時間停止”は今大会屈指の優勝候補だ。田中くんに戦略はあるのか? もしかしたらそれも加味した上で、僕に”能力交換”を持ちかけたのかもしれない……。


 ”時間停止” 対 ”不老不死”。


 一体どんな試合になるのだろう。始まる前から観客のヴォルテージはもちろん、僕もだいぶ興奮していた。


 そうだ!ちょっとだけ、さっき手に入れた”未来予知”を使ってみよう。

 そう思い立った僕は早速”未来予知”を身につけ、これから訪れる未来を覗き込んだ。さすがに試合の結果まで見てしまうと興ざめなので、控えめに三分後の未来に設定しておく。やがて、僕の頭の中に鮮明なイメージが現れ始めた。これは……。


「……なんだこれ?」


 そこに写っていたのは、荒れ果てた試合会場だった。

 三分後の未来で、この辺りに巨大な大震災が発生し、僕らは皆崩壊したコンクリートの下敷きになって死んでいた。どんな能力者達も、突然襲ってきた自然災害には為す術もないようだった。ただ一人、”不老不死”の能力を持つ少年を除いて……。


「ありがとう、”不老不死”のおかげで助かったよ」


 突然、イメージの中の彼がこちらを振り向いて、嬉しそうに嗤いかけてきた。僕が驚く間もなく、三分はすぐにやってきて……。

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