田中男
「……では、次のニュースです。先日発生した、通り魔事件の続報です。
犯人は【日頃から暴力的なゲームや漫画に熱中】していて、【部屋にはアニメのポスターやDVD】が見受けられ、【ネットの掲示板に攻撃的な書き込みをしていた】との情報が入っています。
犯人は十四日頃、街中で突然包丁を取り出しフラフラしていたところ、偶然出くわした被害者に”危ないですよ”と声をかけられ、何故か激昂し犯行に及びました」
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「またか」
「非常に由々しき事態ですな」
「残念だが、こうも多発するのなら我々【組織】が直接規制せざるを得まい」
「そうだな……」
「早速、【不審者に”危ないですよ”と声をかける】ことを規制しよう!」
「えっ!?」
「んん? 何だね?」
「あ……!」
「君は確か、新入りの……」
「あ……す、すいません、会議中に……!」
「ふむ。何か意見があるなら言いたまえよ」
「こういう時は、はっきりと言ったほうがいい」
「いや、あの……分かりました。田中所長、こういう時は、ゲームや漫画の暴力表現をまず規制するべきでは?」
「何を言ってるんだ。ゲームや漫画の暴力表現なんて、数十年前からとっくに規制してるじゃないか」
「…………」
「もうこれ以上ないってくらい規制してやっただろう」
「折角夏の大型DLC、楽しみにしていたのに……日本版だけ……」
「えっ!?」
「いや……こちらの話だ。とにかく、これほど締め上げても犯罪が発生するというのなら」
「これ以上の規制は、最早効果が薄いということじゃないかね?」
「えぇ………」
「逆に、危なそうな人にわざわざ声をかけるなんて危険な真似を、即刻規制すべきなんだ」
「そうすれば、犯罪も減るかもしれない」
「逆転の発想だよ」
「敢えて逆を突いてみる……ほら、漫画やアニメでもよくあるじゃないか」
「えっ!?」
「いや……こちらの話だ。とにかく、”君子危うきに近寄らず”と言うだろう?」
「えぇ……でも……。その考え方はちょっと……」
「”ちょっと”……なんだね?」
「ちょっと……その、何ていうか……」
「危なそうな人に、”危ない”と言ってしまう……」
「この規制案に、君はどんな意見があるんだね? んん?」
「えーっと……」
「我々の考え方を、君はどう思っているんだい?」
「聞かせてくれたまえよ」
「あの…………」
「……あ、”危ない”と、思います」




