最強への第一歩
6話
いち早く、最強になるためには、とにかく、実践で経験値を稼ぐしかないと言われた俺は、近場の森に、魔物討伐依頼を受けて来ていた。もちろん、沙羅先輩も一緒だ。
「グァアアアア‼︎」
俺が、今戦っているのは、ゴブリンだ。この世界で、最弱の魔物。
「案外、強いんですね」
予想以上にゴブリンは強かった。まぁ勝てないほどではないけどさ。武器を持った、小学生くらいかな。
「ケンカ慣れしてないと、最初はそう思うよ。でも、徐々に経験値を積めば、ゴブリンも弱く思う!」
「そうですか」
ゴブリンの攻撃はあんまり速くないので、躱せるが、武器を持っているから危ない。ちなみに、武器は短剣だ。多分、そこらへんに落ちてたのを使ってるんだろう。
俺の武器はロングソードなので、こっちの方が有利なはずなのに、なかなか攻撃できない。ゴブリンが攻撃の手を止めず、俺は、躱すだけに専念していたからだ。
「先輩、ちょっとヤバイんで助けてもらっていいですか?」
俺は、今まさに、ゴブリンに追い詰められていた。後ろを見ると、そこには、崖が。大した高さではないが、落ちたら痛そうだ。
「助けてください沙羅様って言ったら助けてあげてもいいよ」
「じゃ、助けなくていいです」
「もーう!」
先輩と会話してる間に、ゴブリンが攻撃を仕掛けてきたので、俺は咄嗟に、剣を振る。すると、ゴブリンが一歩引いたので、俺は、適当に、剣を振り回す。小学生のグルグルパンチみたいなもんだ。
隙だらけの攻撃だが、ゴブリンにはこれが効果的だった。ゴブリンが滑ってコケたのだ。俺は、その隙を逃さず、すぐさま、ゴブリンに剣を突き刺す。ゴブリンの叫び声が、森の中に響き渡るが、気にせずに、何回も何回も刺し続ける。
ゴブリンが動かなくなったのを見て、俺は、攻撃を止める。よく見ると、ゴブリンのお腹は穴だらけだ。
「ちょっとやり過ぎたかな」
「やり過ぎだよ! こんなにするとは思ってなかったよ!」
沙羅先輩が動揺してるってことは、ガチでやり過ぎたな。
「普通、最初って抵抗あると思うんだけどね。悠希君にはそういうのないの?」
「まぁ少しありますよ。虫を殺すほどには」
「それほとんどないよね!」
沙羅先輩のツッコミが森の中に響き渡る。
「沙羅先輩でもツッコミするんですね?」
「悠希君の時だけだよ」
「まぁ、それはいいんでさっそく別のゴブリンを殺しにいきましょう」
「悠希君って自分勝手だなぁ」
先輩にだけは言われたくない。 ここに来る時も、俺は拒否したのに大丈夫大丈夫と言って無理やり連れてこられた。 まぁ案外楽しいけどさ。
「悠希君、あそこにゴブリンが2匹いるよ」
さっき戦ったゴブリンより一回り大きい。 まだ、こちらには気づいてないが俺は少しビビる。
「先輩の戦いも見てみたいです」
「もーう! しょうがないなぁー」
そう言いながらも、ノリノリで短剣をホルダーから抜き、ゴブリンに臆さず近づいて行く。
先輩が普通に歩いて行くから、ゴブリンがこちらに気づき、戦闘態勢に入る。
「「グァアアア‼︎」」
俺の時のように、威嚇をするゴブリン達。
「悠希君、見てるといいよ。強くなるとこんなこともできるように……なる!」
最後まで言い終わる前に、俺の前から一瞬で消え、ゴブリンとの間にあった差を詰める。 めちゃくちゃ早い。
ゴブリンは何が起きたのかわからずに、沙羅先輩によって一瞬で斬られる。 斬るのも早すぎて見えなかったし、切り方も上手い。 一撃で仕留めちまった。
「どう? これが私の力だよ」
「はい、素直に凄いです。 ただおっちゃらけてる美少女じゃなかったんですね」
「おっちゃらけてるってなにさ!」
そう言って、プンプン怒る沙羅先輩。 この人は、自分に正直というか、感情が豊かで羨ましいな。
それから、沙羅先輩のサポート付きで、ゴブリンを10匹ほど討伐し、街に戻る。
気がつくと、陽が傾き始めていて、うっすらと空はオレンジ色になっていた。 この世界も夕陽があるんだな。
あ、待てよ。 夕陽とか言ってる場合じゃなくないか? 俺たちは放課後にこの世界にきてから、普通に6時間は経ってると思う。 つまり、あっちの世界はもう暗くなってしまっていることになる。
「沙羅先輩! 聞きたいんですけど帰らなくて大丈夫なんですか?」
「その点は大丈夫だよー。 この世界の1日はあっちの世界では1時間程度だからね」
「そうなんですね。 納得です。 確かに、同じ世界でも、時差が生じるわけなんですし、世界が違えば時間の進み方が違うのは普通ですよね」
「うんうん。そういうこと」
ってことは今日本では、あれから15分ほどしか経ってないわけか………。
「今日は悠希君の初異世界記念日だから、パァーッと食べに行こっか!」
「そうですね。こっちの世界の料理にも興味はありますし」
「おやおや、やけにノリがいいねー。 悠希君ってそんなキャラだったけ?」
「今日は特別なんですよ‼︎」
「ふふ、そういうの好きだよー‼︎」
俺たちの笑い声が静かな森に響き渡る。