うさぎさんが居た!
俺の腹が悲鳴をあげて、昼食を食べてないことに気づいたことに、教室に戻る廊下で気づく。
腹もヤバイが、今この状況が一番ヤバイ。教室に戻るとみんなガチパニックだった。
「立倉先輩がぁぁぁ!」
「俺のものになるんじゃなかったのかよぉぉぉ!」
「いやあああぁぁ!」
「立倉先輩に彼氏ができるくらいなら私死ぬわ!」
阿鼻叫喚とはこのことかという惨状だ。みんな狂ってやがる。一応自殺しようとしてたやつはみんなによって止められた。
この教室にどんな顔して入れと? 不登校になりたい。
「都咲君!」
クラスの誰かが俺に気づいたようで大声で叫ぶ。そのせいでみんな俺の方を見てくる。これはヤバイ。こいつら目がヤバイ。完全に頭がイカれてやがる。
「よぉ! みんなどうかしたのか?」
俺も動揺と恐怖で変なテンションになってしまう。
「都咲君! もしかして沙羅先輩と付き合ったの?」
「い、いや、付き合ってないよ」
俺の言葉で沈黙が訪れる。答えを間違えたか? くそっ!一生懸命考えたのに、こいつらのあまりの必死さに頭が真っ白になっちまった。
「よガッタァ! 沙羅先輩はまだ無傷だ!」
「まだ俺のものになるかもしれんゾォォ!」
「よっシャャャャ!」
「キャハハハッ! これで死なずに済むわ!」
答えはあっていたようだ。こいつらにとって振るより、付き合う方がダメなようだ。俺は安堵したが、クラスメートには完全に引いていた。
放課後、沙羅先輩に言われた通りに第二校舎の三階空き教室に足を運んだ。
教室のドアを開けるとうさぎが居た。人型で大きいうさぎだ。
「悠希君、待ってたよ!」
うさぎが急にしゃべりだす。うさぎの着ぐるみを着た、沙羅先輩だったようだ。
「先輩、俺帰っていいですか?」
「ちょっと! なんで帰ろうとするの!」
俺はそれを無視して、さらに歩くスピードをあげる。
「待って! 真剣に話すから!」
「本当ですか?」
「うん、本当だよ。だからその手をドアから離してくれない?」
「わかりました」
俺はドアから手を離し、教室の真ん中まで戻ってくる。それと同時に、沙羅先輩がうさぎの着ぐるみの頭を取り外す。
「暑い暑い」
沙羅先輩の綺麗な顔があらわになる。本当に暑かったようで汗をかいている。その汗が滴る様子がなんとも艶かしい。
再度思う。この人は美少女だ。まぁ首から下がうさぎでなかったらもっとドキッとしただろう。かなり残念な人だ。
「まぁ座って座って」
沙羅先輩が教室の真ん中に置いてあるソファーに腰掛ける。自分の横の席をポンポンと叩いて座るように促してくる。
俺は先輩の横に座る。その時、少し甘い匂いがした。
「この教室ってなんなんですか?」
俺は辺りを見回し、先輩に聞いてみる。
「第一校舎ができる前は、この教室はとある部活の部室になってたようだよ。それでそれの設備がまだ残ってるってこと」
ソファーの他には、本棚があり、ずらっと本が並んでいる。他にもパソコンやテレビ、冷蔵庫などがあった。
「ちなみに本とパソコンとテレビと冷蔵庫は私が持ってきたものだよ!」
この妙に生活感のある部屋を作り上げたのは沙羅先輩だったようだ。おかしいとは思っていたので、納得できた。
第一校舎ができたのは今から10年前だ。本当はこっちが第一校舎で、今みんなが使ってる校舎が第二校舎なのだが、こっちにはほとんどみんな来ないので第二校舎を第一校舎だと思い込んでいるようだ。
「暑い暑い、今日は暑いね」
「その服脱げばいいじゃないですか?」
「悠希君のエッチ!」
「もしかして、その服の下って」
「うん、何も着てないよ」
この人バカだ。真正のバカだ。もう帰ろうかな。このままここにいても本題を話さないで終わりそうだ。
「悠希君そんな見ないでよ。照れるじゃん」
「見てませんよ」
特に照れてない様子の沙羅先輩。
「見てよ」
「どっちなんですか?」
「見てよ」
それじゃ、お言葉に甘えて俺は先輩を見る。裸だと言われたことで、さっきまで特に気にしてなかった、着ぐるみの下から少しだけ見える先輩の身体のラインが、気になってきた。俺も健全な男子高校生だ。こういうのは見てしまう。
「悠希君に見られてるよぉ」
「見てっていったの先輩ですよね?」
「それにしては落ち着いてるね? もしかして女性に興味はないのかな?」
「ありますよ、でもそんなジロジロ見ようと思わないですね」
「……」
沙羅先輩がこちらをジト目で見てくる。
「さっきのは、先輩が見てっていったら見たんですよ?」
「そうだったね、なら別にいいや」
「っていうかなんで先輩そんな格好してるんですか?」
「聞くの遅かったね。普通入ってきた時に聞くもんじゃない? ずっと待ってんだよぉ」
プリプリと怒る先輩。
「いや、この話題には触れたくなかったんですけど、この話題に触れてほしそうな先輩をどうにかしないと本題に入ってくれなさそうなので仕方なくです」
「本当に悠希君は正直で生意気だね」
今度は怒らずニコニコしている。この会話をどこか楽しんでいるようだ。もしかして先輩はこういう風に気兼ねなく話せる人が欲しかったのかもしれない。先輩は誰もが羨む存在だから対等に話してくれる人がいなかったのかもしれない。いや俺の勝手な推測だけどさ。
「この部屋にうさぎの着ぐるみが置いてあったんだよ。多分ここを使ってた部員達が処分しなかったんだよ」
先輩の声によって俺は考えるのをやめる。真剣な顔をしてるってことは本当のことのようだ。
「さっきから気になってんですけど、ここは何の部活が使ってたんですか?」
「ボランティア部だよ」
それなら納得だ。あのうさぎの着ぐるみは幼稚園とかで使ったのかもしれない。
「っていうか昔はボランティア部なんてあったんですね」
先輩は何も言ってくれない。いきなり立ち上がり、うさぎの頭をかぶりだす。俺が不思議に思っていると。
「そろそろ本題に入ろうか」
先輩の真剣な雰囲気に俺はゴクリと息を飲む。着ぐるみのせいで顔は見えないが、多分、先輩が時々見せる真剣な顔だ。
「悠希君って異世界に興味ある?」
間が空いた後、沙羅先輩から発された言葉は予想の斜め上を行くものだった。
「何言ってるんですか? 真剣な話をしてください」
「真剣な話だよ。異世界に興味ある?」
先輩の口調から真剣な話だと理解した。なんでこれが大事な話かはわからないが。それより、真剣な口調なのに格好がふざけてるから、真剣な話に思えませんよ先輩。
「まぁ人並みにはあると思います」
「そうなんだ、異世界にはどんなイメージを持ってる?」
「世界最強ですかね」
こんなこと本当は恥ずかしくて言えない。それもこんなガチ話で。俺何してんだろ………。
「そっか、世界最強になりたいのか」
「自己完結しないで詳しく説明してください。これじゃ、情報不足です」
「うん、そうだね。なら直接見てもらおう! 悠希君立って立って」
俺をソファーから立ち上がらせる沙羅先輩。何かをするのはわかるんだが何をするんだ?
「よいしょっと。悠希君も手伝って!」
「は、はい」
なぜかソファーを退かし始めた先輩の手伝いをしてソファーを退かす。ソファーの下に何かあるのかと思い見てみると、信じられないモノを俺は見てしまった。