春が来た!
ちょっと憂鬱な月曜の朝、俺の運命の歯車が回り始める。俺にも春が来た。これは素直に嬉しい。
朝、下駄箱を開けるとラブレターが入っていた。
「誰だ?」
俺は名前をしっかりと確認しようと手紙を裏返すと、裏に小さく名前が書いていた。俺はその名前を見た瞬間、ポケットにラブレターを乱雑にしまい込む。これは罠だ。俺は確信していた。
「立倉 沙羅からラブレターとかねーわ」
立倉 沙羅とはこの学園で知らない人がいない超人気者だ。その美貌で学園中の男子を魅了し、そのカリスマ性で学園中の女子を魅了し、その優秀さで学園中の先生を魅了する完璧超人だ。
そんな人からラブレターって何の冗談だ? 今頃、これを仕掛けた奴らはさぞかし笑っているだろう想像するだけでイライラしてくる。クラスメートの顔を思い出しながら犯人探しをしていると、チャイムがなったので急いで教室へ急ぐ。
結局、昼休みになった今でも犯人は分かっていない。もしかして本当に立倉 沙羅からラブレターか? いや、今この悩んでるのも犯人の思うツボだ。考えないようにしよう。俺はそう思い、弁当を出してお弁当を食べ始める。
しかし、それはまさかの人によって止められた。
「君が都咲 悠希君でいいのかな?」
教室中がざわめきだす。俺はそれを無視する。
「はい、そうですけど。何か用ですか?」
「うん、一応ね。やっぱり直接言いたくてね」
待て待て、ちょっと待て。なんか嫌な予感がするんだが。
「私、立倉 沙羅は都咲 悠希君の事が好きです。付き合ってください」
その瞬間、教室に沈黙が流れる。その沈黙を破ったのはとある男子だ。名前は忘れた。
「え⁉︎ 冗談ですよね?」
今この場にいる全ての人間の代弁をしてくれる。とある男子の弱々しい声が教室中に響く。声は小さいのによく聞こえるのはそれだけ周りは静かということだ。
「ん? 本当だよ、私は悠希君を愛してるよ」
さらに、爆弾発言をする立倉 沙羅。これはもはや、原爆並みの威力だ。
「先輩、ちょっと来てください」
「ん? ちょっとそんなに強く引っ張んないでよぉ。大胆だなぁ」
俺は立倉 沙羅先輩の手を掴んで教室を出ていく。出ていくとき、クラスの連中の顔は死んでいた。廊下を沙羅先輩を連れて歩いていると、めちゃくちゃ見られたので、俺は人の出入りが少ない第二校舎の方に連れていく。第二校舎の屋上前の階段には滅多なことがない限り生徒は来ない。
「こんなところに連れてくるなんて悠希君って意外と大胆だね」
「そういう冗談はいいんで普通にしてください」
「ごめんごめん、悠希君はここに何しに来たのかな? もしかして告白の返事はみんなの前だと恥ずかしかった?」
「そういう冗談はよしてください。本当は俺のこと好きじゃないんですよね?」
沙羅先輩は少し考えるそぶりを見せる。
「気づいちゃった?」
「最初っから気づいてましたよ」
「怒ってる?」
「怒ってます」
「ごめんね」
沙羅先輩が目をうるうるさせて上目遣いをしてくる。多分、これをやられた男子生徒はコロッと恋に落ちるだろう。だけど俺は。
「別に怒ってませんよ、冗談です。ただみんなの前で告白した理由が知りたいです」
「ごめん、からかっただけだよ」
「はい、わかりました。もうこんなことはやめてくださいね」
俺はそう言って、教室に戻ろうと身体の向きを変える。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
沙羅先輩に全力で止められる。少し動揺している顔だった。
「君、めちゃくちゃあっさりしてるね」
「そうですか? 普通ですよ」
「普通じゃないよ!」
「先輩もですよ」
「まぁそうかも」
そう言って、笑い出す沙羅先輩。俺はどうしたらいいかわからず黙って立ち尽くしていた。沙羅先輩が落ち着くまで待つことにしよう。
「やっぱり、君を選んでよかったよ。君といるとものすっごく楽しい!」
「そうですか? ありがとうございます。でも俺といて楽しいなんて先輩も変わった人ですね」
「それ、君が言えないでしょ」
そう言って、また笑い出す沙羅先輩。なんかこの人のテンションについていける気がしないわ。まぁ悪い人ではないことは話してて伝わってくる。実を言うと、俺もかなり楽しんでた。
「先輩、聞きたい事があるんですが?」
「ん? なんだい?」
「なんで俺をからかったんですか? 今まで、先輩となんか話したことなかったですよね?」
沙羅先輩はなぜか深呼吸をし始めて、なかなか答えてくれない。多分焦らしてるんだろう。そしてやっと口を開いたと思ったら、返ってきた言葉は俺の求めているものとは違かった。
「もうすぐチャイムが鳴るから話は放課後でいいかな?」
別にそこまで知りたいことでは……いや、やっぱり気になるな。
「はい、わかりました」
「それじゃ、放課後に第二校舎の三階の一番奥の空き教室に来てくれる?」
なんでそんなところに? と聞こうと思ったが先輩の顔を見て聞くのをやめた。
「はい、わかりました。それではまた放課後に」
俺はそう言って、今度こそ教室へ向かうため身体の向きを変えて歩き出す。しかしとあることを思い出してその足は止まる。
「どうしたの? 戻らないの?」
沙羅先輩が不思議そうな顔で聞いてくる。
「教室に戻りたくないです」
「なんで? 勉強したくない?」
「先輩がみんなの前で告白したからですよ」
「告白くらいいいじゃん、それに恥ずかしいのは告白した私でしょ?」
この人は本当にわかってないのか?
「普通の人が告白したらそうですよ。でも、先輩の場合は違うんですよ」
俺がそう言っても、いまいち理解してなさそうだったので俺は理由を先輩に言う。
「先輩は人気者ですからね。俺みたいなぼっちにいきなり告白してきたらパニックですよ」
「そういうことね!」
少し間があった後に先輩の大声が階段に響く。
「だから教室に戻りたくないんですよ。戻ったらいじめられます」
「さすがにそれはないでしょ」
そう言って、ケラケラと笑う沙羅先輩。全然笑い事じゃないんですよ。ガチでいじめは起こる。
「うーん、それじゃ私たち付き合ったことにすれば?」
「なんでそうなるんですか? 余計に事態がややこしくなるだけですよ」
「いやいや、むしろ私を振ったほうが問題になるんじゃない?」
確かに、この人を振ったということは、この学園の人全員を敵に回す気がする。校長権限で退学とか、評定が下がるとかリアルにありそうだ。ならもう付き合ってることにした方がいいのかも。みんなに疎まれるのは一緒だが表立っていじめとかは起こらないだろう。
「確かに、そっちの方がいいのかもしれませんが先輩と付き合うことはできないです」
「なんで? 私のこと嫌い?」
「好きなでもない人と付き合うことはしないんですよ」
俺はそれだけ言って、教室に今度こそ戻る。その足取りは今までの比にならないほどに重いが。このまま不登校とかなりたくない。もう頭をフル回転させていじめを回避する方法を考えるか。