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日常日記……その⑤

「おはよーう!」


「ねーねー、A組の彼氏とはどうなっているのよ」


「あのお笑い芸人はさぁ」


 などの賑やかな声、学生鞄を片手に国道沿いから大きめの通学路を学校に歩みを進める学生たちが友人やクラスメート、はたまた部活仲間などを見つけては挨拶や戯れ言などを面白おかしく言い合っている中……。


 あれれ? 闇に彩られた声が……。


「あの小童が私たちの春菜お姉さまを虜にしようとしている一年の寄生虫!」


「あんな奴、北朝鮮に拉致して、軽く解体ついでに臓器を売り払って骨格だけ理科室に飾って後悔させてやりたいわ」


「ぐぬぬ……我らがエンジェル緋影さまに手を出したひよっこを丑三つ時のわらわら様にごっすんごっすん五寸釘で呪い上げたのに何故生きている!?」


 そんな耳が痛くなりそうな怨嗟の声にひよりは無視をきめこむ。


 当然、自己防衛のために耳を傾けるはずもない。


 なぜなら……そんな私怨などよりも切実なことが、仕事を、そう、お金がいるのだ!


 今週の25日にコンビニバイト最後の給料が振込まれる。


 生きるためにおまんまを食べて、路上生活に転落しないために家賃を払う……そう生きていくための仕事(バイト)を探さねばならぬ立場なのだ!


 実は先日、自称・お母さんの『七条千明』さんから花咲くほどの満面の笑みで「すぐにうちの家に引っ越してきて! お部屋はいっぱい余っているから、私が愛情いっぱい夢いっぱいで毎日添い寝してあ・げ・る」などと言われたのだ。


 無論、ひよりは時間もおかずに速攻即使、『千明』さんの提案を心からお断りした。


 このありがた迷惑な『千明』さんの提案の裏にある腹黒さ……とっても嫌な予感がすると直感が脳みそ全域に訴えている。


 まだ年齢的に常識? がありそうな『千明さん』はともかく自称・姉『七条春菜』さんや自称・妹『七条緋影』さんと同じ屋根の下で暮らすなんて、エッチなハプニングどころか、素っ裸で蜂蜜を塗ってアシナガ蜂の巣を抱きしめるよりもスリリングな日常が想像できるもんな。


 それに事実と実感として、自称・姉の『春菜』さんや自称・妹『緋影』さんを学園の域を超えた、某有名アイドル並の人気ではないだろうか。


 そんな二人に慕われている? 僕は色々な意味合いヤバイ立場なのだ、あの二人を慕う輩からすれば親の敵や腹いせに辻斬りしてやるぞ! に匹敵するほどのレベルだ。


 今のところは無邪気な笑みで生活に関わる嫌がらせをしてくる程度でおさまっているが。


 これ以上嫌がらせを受けたら豆腐メンタルな僕としてはタイタニックほど見事に撃沈してしまいそう。


 その証拠につい先ほど、ちょっとしたトラブルに巻き込まれてしまった。


 いつもどうり、静かに登校していた僕に立ちはだかる女子高生。


 名札の色からして同級生らしいが僕とは面識のかけらもないにも関わらず、朝の爽やかなひと時の第一声が「このクズ!」でした。


 女子高校生のその右手に持たれていたブツ……其の名も『たまご』。


 振りかぶり、狙いすましたスナイパーなみの精度でたまごを投げつけられた……しかも殻が白色たまごではなく高級品栄養たっぷりの赤たまごだ。


 くやしいなぁ……口に投げつけてくれれば三日ぶりの御飯……いや、栄養もとれたのに。


 たまごの当たり所も悪かった。


 ひよりの大切な一張羅……学園から支給されている高そうなブレザーにべったりついてしまったのだ!


 まったくガッデーム! こんなことなら恥ずかしくても破れてツギハギだらけの中学生時代のジャージを着てくるべきだったーっ!


 こんな状態では先生にどやされて授業をうけられないどころか、校門の前で獲物(校則違反者)待ち構える飢えた風紀委員の奴らに締め出しをくらうこと確定だ。


 僕はふぅと溜息を吐くと一本ほど脇道に入る。


そして五分ほど歩いた先にある児童公園に立ち寄ることにした。


 ここのある意味で僕の命を支えてくれている大切な場所。


 そう、水飲み場にある水道の蛇口は僕にとって行きつけの場所、夏場の深夜はこっそりたらいを持ってきてお風呂と洗濯にとってもお世話になっている。


 無論、使用料は僕たちの払っている血税でまかなってくれているはず。


「いやぁ、公園の近くで助かった、やっぱり公園の水道水は便利で美味しいなぁ」


 ぐいっと喉を潤す水質基準クリアーの魔法の水……その名も次亜塩素酸ナトリウム風味の水道!


 上水道のロングランな鉄パイプ長旅を経てお水が僕の口にホールインワン!


 この絶対的法則の一つ、其の名も『空腹感』、そしてそれを糧に増大する三大欲の一つ、食欲。


 そんな『空腹感』を紛らわすために全力で水道水を飲み続ける!


 気持ち的には25メートルプール一杯分はいっているきがするぅぅぅーっ。


「ひよりさん?」


「……んっ?」


 水道水で思いのほかお腹が太った僕は声のほうに振り向くとそこには恥ずかしそうに両手を頬に当ててじーっとこちらを見ている七条千明さん……そう、僕の自称・お母さんがそこに立っていた。


「何をしているのですか? その格好……も、もしや、イジメですかーっ!……すぐに知り合いの総理大臣に電話していじめっ子の家に核爆弾を……ううーん、いや待つのよ千明! ここは母として大人の対応しなきゃ、おっほん、えっと、ひより君、お母さんに聞いてもらいたいことはありませんか?」


「……とくにありません」


 そう答えた僕に千明さんは箱河豚よろしくばりにぷーっと頬を膨らませてがっつりとがぶり寄ってくる。


「嘘おっしゃい! お母さんはひより君の性的なことから始まってなんでもお見通しなのよ!」と言って千明さんは僕の腕を引く。


柔らかく暖かな感触……良い香りがして……キョドってしまった僕は首筋にキスができそうなほど間近に引き寄せる。


「ひより君のことが心配なの……また、駄菓子屋さんの帰りにいなくなって……どっかに行ってしまうのが怖いの……」


「……千明さん……駄菓子屋さんでお菓子を買うお金もないので、もう、迷子になりません」


「……お母さんと呼んで欲しいな」


 千明さんは緊張したように小さく息を吐くと、はみかみながらしっとりとした笑みを浮かべる。


 蠱惑的で魅力的で……これぞ素敵な大人の……麗人の笑み。


 ただ、僕ははっきりと見えていた。


 その奥に見え隠れする不安と懺悔の感情。


 千明さんの密着している身体はプルプルと小刻みに震える、『もう離さない』とその手に意思を宿したようにギュゥッと僕のカッターシャツを握られる。


 吹き抜けるような愛情がはっきりと伝わってくる。


笑みとは裏腹の焦燥感……印象的な黒く透き通る双眸にじーっと見つめられると僕はのハートがドキっと跳ね上がる。


「ひより君」


「な、何ですか?」


「私と……そう、世界で一番キュートで未だ十代の高校生に間違えられるお母さんと一緒に幸せな毎日を過ごさないかな」


「千明さん、言っている意味がわからないですよ!」


「こんなに愛しているのに……チンパンジーのような性欲持て余す十代の男の子なのに!私の乙女の純情もわ・か・ら・な・い・の♥」


「その手に持つ怪しすぎる注射器はなんですかーっ!? それに僕のお母さんなら千明さんの年れいぃぃぃぃぃぃぃーっ!


「ふふっ、少しだけチクッとしたかなぁ? この程度のクスリでコロリと落ちるなんて……ひより君ってウブ。私の大切なひより君……軽く麻痺して白目向いてヨダレが垂れていますよ……これはごちそうさまの合図かな」


 この公園を縄張りにしている野良猫&野良犬たちが絶対強者! の猟奇的すぎる千明さんにいつも残飯(弁当の残り)を分け合う捕食対象の僕が捕縛されていても遠くで見守ることしかできなかったことは本能のなせる技だったという。


 その日、特待生の僕が学校をエスケープしたと悪意満載の話題が学年中を駆け回り、後日、職員室に呼び出されたときにこってり説教された程度で済んだことはとても僥倖だった。


 良かった、奨学金がとりけされなくて……。


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