日常日記……その③
新学期初日、つまり春休みが終わり学校に行かなければならない現実。
そう学校に行くということは入れるシフトが減り、四月末に入るコンビニアルバイトの給料の激減を実感しなければならない月。
ちなみにひよりが通学している、小・中・高・大がエスカレーター式に登っていく名門高校として名高い私立猫の台学園。
高額な学費に寄付金……そんなもの払う余裕などない火の車の家計に優しい奨学生制度を利用して入学をした。
学費無料、学生服も支給、その上生活一部金まで支給してもらえるのだから文句のつけようがないのです。
「ま、まさか、髪の毛の寝癖が鳥の巣になっているなんて、どこの野鳥保護団体にはいっているの」
「春菜さんこそ、どうしてうちの部屋の前にいるのですか」
「愛情を込めて春菜お姉ちゃんとお呼びなさい。それよりもちょっとそこで待ちなさい」
春菜は女性らしいファンシーなカバンから可愛らしすぎるヘアーブラシを取り出すとひよりの肩を掴んでゴシゴシと髪をときはじめる。
「は、春菜さん」
「弟のひよりがだらしないと私までだらしない格好をしなきゃいけなくなるでしょ!」
「なんでだらしない格好をまねる必要があるのですか!?」
「へへーっ、私の言うことにはむかっちゃうわけなの……この姉弟の愛を極めるためのペアールックを極めようとしているお姉さまの愛情をないがしろにして……もう死になさい、この婚約届けに判を押さないなら死になさい」
「ひゃひゃーい、ひゃいましぇん」
「ふぅ」とこぼれる熱い吐息とともにヘアーブラシをひよりの口にがっつりとツッコミ、喉を押さえて、優しく微笑みかける春菜。
貴方は悪魔なのですかーっ!? と叫びたくなる所業だがひよりは胸の内に押しとどめた。
ただ、そんな気持ちとは裏腹に身体は正直である。
ひよりはドSすぎる春菜の相貌を白黒させた瞳で見つめながら呼吸ができなくなり意識が闇に沈む。
……数時間後
仰向けになって目を閉じていたひよりの意識が回復していく。
「薬剤の匂いがする」
目を開けるとそこには顎に手を当てて不敵に微笑んでいる女の子がいる。
年齢はひよりと同じぐらいだろうか、腰まで届くロングの黒髪、病弱にも見えそうな色白な肌、そんじょそこらではお目にかかれないほどの可愛らしさを兼ね備えた端整な容貌。
「ちっ、もう気づきやがりましたか? 兄っちゃん」
「一つ聞いていい?」
「ぐふふ……仕方がないですなぁ、先に言っておきます……処女です」
「そんなこと聞いてないです! どうして僕の手足は縛られているのですかーっ!?」
「それは乙女の秘密です」
「そんな秘密怖すぎるぞーっ!」
ひよりの声が薄暗い部屋に木霊する。
「わかりました……兄っちゃんのために今からうちの愛を証明してみせます」
黒髪の病弱そうな女の子が底抜けに嗜虐的な笑みを浮かべて僕の傍らにやってきて……あれ? その手にもつカッターナイフはいったい?
「兄っちゃんの愛の言葉をリストカットした鮮血で壁一面に書いてあげる……えへへ、うちの愛情で兄っちゃんの心を捕えるの」
「まてぇぇぇ、そんなことをしたら、第一発見者は第一容疑者で僕の心を捕えるよりも物理的に警察にとらわれてしまうぞ!」
「大丈夫だよ……うちは天国で捕らわれているから、兄っちゃんは死刑囚になって早く追いついてきて……ぐふふ」
これが僕の妹である『七条緋影』との初対面であった