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日常日記……その①

それは今から数時間前の出来事です。


 四月のはじめ、桜前線が日本列島をひた走り、仕出し屋さんのお弁当をもった配達の人が道路をバイクでひた走っている時期。


 僕が生活費を稼ぐコンビニバイトが終わりこっそり廃棄処分のお弁当をもって、四畳一間のアパートに帰宅しようと店を出たときだった。


「あの……もしかして七条ひよりさんではないですか?」


 柔らかくおっとりとした声音だ。


 そんな声に反応するように振り返った。


 そこには緩やかにウェーブした髪を後ろで束ねた眉目秀麗な麗人が頬をあからめながら黒水晶のような済んだ双眸をこちらに向けて僕を見つめる。


 僕はどきりとして反射的に立ち止まってしまった。


 少し小柄でほんわりとした雰囲気を漂わせているため年齢がはっきりとわからない。


「は、はい、そうですがーっ!?」


「ひよりさん、やっと見つけた……お母さんの愛は海よりも深くひよりのことを世界で一番愛している」


 いきなりだった。


 満面の笑みで嬉しそうに愛を叫んだ女性(痴女?)は戸惑う僕の首に両腕をかけてグイっと抱きついてきた。


 見かけよりボリュームのあるおっぱいに甘くミルクのようなフェロモンが鼻腔をくすぐる。


 というか『お母さん?』って……これはもしや某テレビ局の素人ドッキリではないのか!?


 大きな目に涙をいっぱい浮かべて、無邪気にそして子泣き爺のように力強く抱きしめてくる。


 小さな町の小さなコンビニの前とは言え、今はお昼時なのです。


 企業戦士の代表サラリーマンや学食を食べない派の学生たちが次々に立ち止まり、衆人環視を超えた殺人ビーム的嫉妬の突き刺す視線が放たれまくってくる……そして、耳をすませば。


「うぉぉぉーっ、殺せ、あの男を殺せ! あんなに可愛い子に泣きつかれて……いや、性欲のままにはべらかしやがって!」


「あいつ知っているぞ、コンビニのレジ係やったやつだ、いちゃつきかがってゴーツーザ・ヘル」


「誰かーっ、非国民がいます、警察官はこのハーレム男を間引いてください……人生ごと」


 うぁぁぁ、常連の佐藤さんまで何言っているのですかーっ! さっきまで暖かい会話をしていた顧客の皆様まで何を言っているのですかー!


「ひより、ごめんなさい……ごめんなさい」


「いろんな意味で謝られても困ります」


 自称お母さんは謝りながら僕のブレザーのネクタイを引っ張る、もはや柔道の絞め技です。


ビリ……ビリビリ。


 いやーっやめてー! この学生服は外出用兼学校用の唯一の一張羅なのです!


 せわしなく行き交う車の運転手からも『なにいちゃついとんねん』と殺意のこもった視線が突き刺さります。


「わ、分かりました、兎に角場所を移しましょう」


「ひよりさん、私をお母さんと呼んで」


「今はそれよりも」


「お母さんと呼んでくれないと動かない……100年でも200年でも動かない」


「お、お母さん……」


「愛情を感じない……もっと、もっと、張り裂けそうな欲望の渦を前面に出して陵辱する勢いで、お腹の底から叫びなさい!」


 これの出来事から始まる悲劇で喜劇。


 僕が七条家に引き取られることになるきっかけでした。


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