最初の日常
こちらのオンボロすぎて幽霊すら素通りして『へへーん、こんなボロ家にすんでやるかーっ!』と言い放ちそうなアパート。
格安すぎる家賃に惹かれて隙間風びゅーびゅーしまくる四畳一間に引っ越してきたときのことはあまり覚えていないのです。
どうして覚えていないのか? そんなことはさっぱりわからない。
記憶もなければ、親の顔もしっかりばっちりと忘れてしまい、『生きなきゃ!』と囁く本能が赴くままに七条ひよりと呼ばれている僕が四畳一間に住むことになった中学一年の春。
あれからもう三年もたったんだなぁ。
さて僕の回想はここまでに……目の前で起こっている現実に意識を戻すと。
現在進行形でとんでもないことが起こっているのです!
目の前にいるグラビアアイドルも真っ青なほどの恐ろしい程整った端正な相貌の持ち主が真面目すぎる雰囲気を漂わせて、こちらに視線を投げかけながら『ガチャリ!』ちゃぶ台を叩いて僕に答えを迫ってくる。
「お母様に先をこされて、唾をつけられそうになるなんて許せないわ……私の可愛い弟のひより……駄菓子屋さんに十円握りしめてうまそうな棒を買いに行ったきり戻ってこないなんて……とってもながーい、そう、ながすぎる家出だったね」
程よくあどけなさが残る知的な顔立ちに中性的な声は天使みたい。
そんな天使が堕天使になったように『ひよりのお姉ちゃんだよ!』と言い張って突如来襲してきたのです。
もう立て続け(・・・・)の出来事に僕は目を白黒させてしまう。
「もっと、もっっっと、私がひよりを愛しているという現実を確かめられるよな魔法の愛情のこ・と・ばを言ってあげようかい」
突然押し掛けてきた超絶美少女……この美しすぎる少女がド迫力コンポで言い寄られ続けられると、意見に対して異議を唱える勇気がわかないてすよーっ!
そう、素足の先から頭のてっぺんまで完璧すぎる容姿とスタイルの少女……僕のお姉ちゃんと言い切る少女の名は『七条春菜』と言っていた。
「まぁ、その前に聴かせてもらうわ……お母様と何処であったのか……しっかりくっきりと隅から隅まで話してくれるかな、一から十……いや百まで」
唖然としてしまった僕。
何故か正座させられている僕の防衛本能が言っちゃわないと殺されちゃうよと脳内細胞が危険アラートを警鐘してしまったので話すことにしました。