6、行くべき道
握手を交わしてからしばらく、マリンはハイロとミリィに外の世界のことをいろいろと質問されていた。
しかし、朝から叩き起こされたうえ、魔物から逃げた疲れが出たのか、弟妹は眠たそうに目を擦り始める。
そんな彼らを寝かしつける為、リートは一緒に寝室へ向かう。
リビングはグレイとマリン、二人だけになった。
「さーて、これからの話をしましょう」
マリンは机に地図を広げる。
それは今グレイたちが住む「グゥリン島」の地図だ。
グゥリン島は自然と資源に富んだ島。
森が多いので、弱いが繁殖力の強い蟲系の魔物が多く生息している。
そのため、魔物討伐の依頼が主な仕事となる。
弱い相手で戦闘に慣れることができ仕事も多い。
冒険者を始めるならグゥリン、という者もいるほどであった。
「私たちが目指すべきは……、ここ! グゥリン島ギルド本部が存在する森林都市フォルレイト! 私もここから依頼を受けてきたわ」
「そんなところから魔物を……。仕事って大変そう……」
グレイは不安を表情に出す。
それを見てマリンは話を変える。
「フォ、フォルレイトには今、人が多いわ。とっても活気があって、歩いてるだけで楽しい所よ」
「へー、やっぱり騎士になりたい人は多いんだ。そもそも、騎士が不甲斐ないから冒険者が生まれたって話だけど」
「ま、あれは騎士というより、貴族出身の連中の態度が大きかったから拗れたらしいけど。実際、一般からも公募される運送騎士と刑務騎士は平民と仲がいいし。あとは、やっぱり待遇よねー。引退後も充実の保証が魅力的」
王国騎士――。
その名の通り、七つの大きな島と、いくつかの小さな島からなるアライト王国の平和を守るため、生まれた役職であった。
その騎士になるのは、首都のある本島「クゥリア島」出身の貴族など、身分の高い者がほとんどだ。
騎士の勤務地は本島とそれ以外の島の主要都市、この二つに分かれる。
無論、優秀な者が本島勤務なのは言うまでもない。
本島勤務を勝ち取れなかった者は地方へ行く。
その際、地方の風土に馴染めないものが多かった。
始めていく土地に馴染めない、それだけならば可愛いものなのだが、中には身分の低い国民の為に働くのを拒む者、本島で働けないなら職務を放棄する者まで現れた。
「へー、それで冒険者の中から、優秀な人間を引き抜こうというわけなのか。って、それわざわざ騎士にする必要ないんじゃ……。そのまま、冒険者にやらせておけば」
「まあ、国としての威厳とかね? 国民の安全を守る義務をほとんど果たしてないしー。国の命令で動かせる戦力も欲しいでしょうし。まあ、運送騎士とか刑務騎士とかは強いんだけど、まあ討伐とか防衛が仕事ではないし……」
頬杖を突き、気怠そうに答えるマリン。
彼女もあまり王国騎士のことを好いていない。
運送騎士――。
国民の荷物を運ぶ事を仕事にしている騎士だ。
仕事上、あらゆる土地を駆け巡る事となる。
戦闘力、体力、忍耐力などあらゆる才能が必要とされ、採用は狭き門であった。
荷物を運ばせること自体は冒険者にも頼めるが、なる事が簡単な分、信頼が薄い。
大事な荷物は彼らに任せるのが得策だ。
この役職への信頼は厚いが、その分責任も重い。
わざわざなろうというものは、身分問わず尊敬のまなざしを向けられた。
刑務騎士――。
罪を犯した者を収容する施設を管理する役職だ。
運送騎士ほどではないが、実力が要求される。
毎日、犯罪者を監視する仕事に人気があるはずもないが、そこそこ年を取り、腰を落ち着けたい熟練冒険者が転職することが多い。
騎士は老後の待遇も良い、というのも理由の一つだ。
「王国騎士は騎士の中でも楽なのに待遇がとてもいいのよ、本人だけでなく家族にも。だから、貴族や他の身分の高い者達が親族を入れたがるのね。それで平民にはお鉢が回ってこないわ」
「でもやる気はないと……。そこで今回の試験か。それなら条件も納得だ。全てのギルドで認められていて、強い道具を持っていて、チーム単位で動ける者。理想的な人材が欲しいのが、ひしひしと伝わって来る」
グレイがうんうんと首を縦に振り、理解を示す。
その間、マリンは眠気との戦闘を開始した。
難しい話を終えて、疲れているようだ。
「ごめん。たくさん質問しちゃって」
「まあ、いいっていいって。ここら辺は理解しとかないとね~」
「で、僕達はまずどこに向かえばいいのかな? ここからフォルレイトに向かうルートは……」
「私が通ってきたウード村を通るべきね。一番安全で、そこそこ人もいるわ」
マリンは地図上でアース鉱山の東にある村を指差す。
グレイも知っている村だ。
緊急時はこの村に向かう事になっていた。
「私はフォルレイトで討伐の依頼を受けて、ウードに向かったの。そこで取り逃がして、夜も遅かったから日を改めようとしたら、逃げた方向に人が住んでるって! 慌てて深夜に飛び出して、今に至るというわけ」
「ええっ! じゃあ寝てないんじゃ!」
「大丈夫、大丈夫。私はプロよ……」
目は閉じられ、姿勢は俯きぎみ、今にも机に突っ伏しそうなマリン。
グレイは彼女を誘導し、自分のベッドに寝かせた。
彼女はすぐにすうすうと寝息を立て始める。
「さて、僕はもう一仕事かな」
リートに鉱山へ再び向かうことを伝え、グレイは家の外へ出た。
▲ ▲
「ピッケルだから掘る事も出来るはずだ。やってみる価値はある」
坑道の行き止まりの岩壁の前で、グレイは呟く。
その手にはオーラを放つピッケル――S級道具『クレーアート』が握られている。
「【破岩】!」
叫ぶと彼は壁にピッケルを突き付ける。
すると岩壁にひびが入り、ボロボロと崩れた。
衝撃はほとんどなく、坑道が崩れる心配はない。
「うん、予想通りだ! これならたくさん掘れる」
その後、彼は無心で岩を掘り進めた。