5、新騎士試験とマリンの願い
「そうね。じゃあまず、あなたのS級道具の事から話そうか。えーと、『クレーアート』だったかな?」
ビシッとグレイが手に持っているピッケルを指差すマリン。
指された本人は戸惑いの表情を見せる。
グレイもS級道具の事は知っていたが、自分が持つことがあるとは思っていなかった。
「ちなみに機能は聞こえた?」
「え? なんて?」
「機能! 不思議な力の事。S級道具所持者はその道具を手にした時、名前と機能が脳裏に浮かぶと言われているわ。名前を知ってるって事は、そっちも知ってると思ったんだけど……」
「ロ、ロマンチスト……? わかった。聞いてみるよ」
グレイは『クレーアート』を額に当て、目を瞑る。
すると、それが微かな光を放ちだした。
その様子をマリンとリートは不思議そうに眺めている。
「……うん。これの機能は『地操作』だ。土や石、砂なんかから岩を創れるみたい……。まあ、さっき鉱山で見たよね。他にも聞こえない部分があるな……」
額から『クレーアート』を離し、グレイは確かにそう言った。
提案したマリンはその言動に驚き、ポカンと口を開けている。
「……はっ! そうっ、ありがとう。てっきり創作だと思ってたわ。いやー、あるのねぇ、そんな事」
冷や汗をかいた彼女は腰から『ミカゲ』を取り出し、パタパタと自らを扇ぐ。
「じゃ、次は私の道具。て、言ってもさっき少し話したわね。これは水属性のB級道具よ」
属性は一般的に『火』『水』『風』。
持ち主の魔力を消費し、それぞれに対応した魔法が使える。
級には『S』『A』『B』『C』が存在し、Sに近いほど優秀な道具と言える。
しかし、Sは属性で括れず、機能も唯一無二な物も多いので、あまり基準にはならない。
要するに、『ミカゲ』は水の魔法が使える普通の道具という訳だ。
「他にもこまごまと性能評価があるけど……。ま、使ってれば分かる事よ。この道具は遠くに魔法を飛ばすのが苦手だなー、とか」
マリンはここで茶のおかわりをもらい、飲む。
「はぁ……。それで次は試験の話ね。受験条件に『S級道具の所持』があるせいで、ただでさえ貴重なS級がさらに貴重になっているの」
新騎士試験を受けるには、以下の条件がある。
・ギルドに登録された冒険者である事。
・五人一組のパーティーであること。
・パーティー内の最低一人はS級道具を所持している事。
・パーティー内の最低一人はギルドバッジを五つ授与されている事。
この条件をグラド歴一〇〇一年三月三十一日までに満たし、ギルドに申請した者が受験資格を得る。
現在はグラド歴一〇〇〇年四月初め。
約一年間、試験までの猶予がある。
「でも、このピッケルがS級道具だったなんて。確かに不思議な力と光が……」
「その金色の光が何よりの証拠よ。S級に唯一共通している特徴。無理を承知でお願いするわ。グレイ、私とチームを組んでほしいの! 実は私、まだチームを組んでないの」
マリンの話したい事はこれであった。
目の前に振って湧いたS級道具、そこそこ戦闘感覚のある無所属の少年、逃せば次がないことは明白である。
当のグレイ本人は悩んでいた。
試験を条件の厳しさで諦めた彼にとっても、またとないチャンス。
残りのパーティーメンバーも、S級道具所持者ならば集めるのは容易だろう。
「組みたいのは山々なのですが……。また、今日みたいなことがあるんじゃないか、と考えると、ここを離れにくいというのが、正直な気持ちです」
真剣な表情で話すグレイに対し、マリンは一瞬悲しそうな顔をする。
しかし、彼女は笑顔を戻して食い下がった。
「そ、それなら、あなたが旅をする間、用心棒でも雇えばいいと思う。巷には冒険者が増えて、試験に興味がない層が暇してるわ。一年ぐらい田舎に住もうって人もいるかも……」
予想外の返しに、グレイは慌てて反論する。
「そ、それはそうかもしれませんけど……。えっと、お金とか……」
「冒険者の稼ぎなら何とかなるわ。不安定だけど、稼げるときは稼げる。それに騎士になれば……」
「でも……!」
「グレイ、行っておいで」
今まで黙って二人の話を聞いていたリートが、静かに口を開いた。
「母さん……」
「いつも助けてもらって、こんな事言えないのかもしれないけど。私とランドのせいで、グレイをずっとここに縛り付けるのは申し訳ないと思ってたの。こんな機会、二度とないわ」
母の言葉を聞き、少年はしばらく目を瞑り、黙って俯いていた。
辺りには、外から聞こえる風の音だけが響いている。
数秒後、グレイは顔を上げ、答えを出す。
「わかったよ、母さん。いや違う、僕の意志で受けるよ、試験を。そして、やるからには受かって戻ってくる」
その言葉にマリンはパァッと笑顔を輝かせた。
リートも微笑みを見せる。
「兄ちゃん、行ってらっしゃい!」
「兄貴頑張れよ!」
どこからか一部始終を眺めていたミリィとハイロが、口々に応援の言葉を兄に浴びせる。
「こらこら、今すぐ出ていくわけじゃないよ。明日からよ、明日」
はしゃぐ小さな子ども達を落ち着かせるリート。
それから、マリンの方を向き尋ねる。
「こんなこと言っちゃたけど、今すぐ出発するの? まだ今日は始まったばかりだし、それもありかもね」
魔物を発見したのは夜明け頃、今はまだ昼前。
しかし、グレイはもう夕方ぐらいの感覚であった。
戦闘を終えた後なら、それも当然といえる。
「いえいえ、急ぐ旅でもございません。あ、期限はありますけど。今日は、ここに泊まらせていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろん!」
リートはウィンクをしながら言う。
「やった! お姉ちゃんは私の部屋で寝てね!」
ミリィがマリンの服の袖を引っ張りながら叫んだ。
「そうと決まれば、これからの事を考えよう。どこに行けばいいのか。何をすればいいのか。ね、マリンさん」
グレイの言葉に、マリンは首を横に振る。
「もう私達はパーティーなのよ。よそよそしい言葉使いは無し! 年もそんなに違わないみたいだし、私のことはマリンって呼んで。私もあなたのことをグレイって呼ぶわ」
「うん。これからよろしく、マリン」
少年は右手を差し出す、少女はその手を取り、固い握手を交わした。




