25、合流
山賊のアジトに残ったグレイとリズは、辺りに置かれている箱の一つに座って休んでいた。
山賊たちに動きはない。
もっとも、ロープで拘束された状態でグレイに再び喧嘩を売ろうと考える者はいないだろう。
「……リズちゃんとお姉さんはどうして、山賊に捕まってたの?」
グレイが落ち着いているリズに尋ねた。
彼女は少し困った表情を浮かべた後、ゆっくりと口を開く。
「私と姉さんは、他の島から来たの。その……、両親がいないというか……。私は小さくて、顔も覚えていないんだけど……。姉さんも理由を教えてくれないし……。つまり、孤児院出身なんです」
「……ごめん」
「えっ、あっ、でも、孤児院の人たちは優しくて、私は何一つ不自由しなかった。でも、姉さんが年齢的に出ていかないといけなくなって……。その孤児院には、大人になったら世話をする側に回る子も多いんだけど……。お金的に厳しくてこれ以上雇えないって……。直接言われた訳じゃないのに、姉さんそういうところ無駄に敏感で、勝手に出てきちゃったの」
「それで君も一緒に来ちゃったの?」
「うん。フォルレイトに行こうとするところで、ここの山賊どもに見つかってて、姉さんが機転を利かせて、『仲間にならせて』と頼んだの」
リズは近くに転がっていた山賊の一人をにらんだ。
視線を感じたのか、その男はビクリと体を震わせる。
「私は嫌だったから、暴れちゃってあんな事に……」
グレイは俯くリズの頭を撫でた。
「もう大丈夫。こいつらは全員捕まる」
「こいつら、分隊なの。本隊はどこか山の方にいるって姉さんが。そいつらがいなくならないと、裏切り者の姉さんは……」
「場所さえわかれば、僕がみんなやっつけるよ」
「えっ」
驚いたリズは思わずグレイの顔を覗く。
彼の表情は笑顔だが、目は笑っていなかった。
「君のお姉さん。大丈夫かな……。正直、寝ててアジトがどの辺りか、わかってなくて……。無茶させてるのかも……」
「助けてもらった以上、それぐらい当然の事だと」
話の最中、入り口の方から足音が聞こえた。
それはやけに速い。
「姉さ……!」
跳びあがったリズを抑え、グレイは口を塞ぐ。
必ずしも二人の味方が来たとは限らない。
彼は足音を抑えつつ、素早く広間の入り口へ移動した。
そこからゆっくりと覗き込むように通路を見る。
足音は奥にはすぐ行かず、行き止まりで立ち止まっては戻るを繰り返している。
(……この動き、アジトの構造を知っている人物じゃない。いったい誰が……)
その人物は、ついにグレイ達のいる広間へ至る通路に入った。
どんどん音が大きくなってくる。
グレイは『クレーアート』を握りしめ、通路を覗き続ける。
すると、彼にとって見慣れた人物が走りこんできた。
「マリン! どうして……」
「それはこっちのセリフよ! 知らない人について行っちゃダメでしょ! お母さんに言われなかった!?」
「人が来ないからね……。あんまり、言われた事なかったよ……」
「そう! じゃあ……、仕方ないわね! これから気を付けること!」
「はい」
マリンの大声は洞窟内にキンキンと響き渡る。
うるさいが、グレイは不思議な安堵感を覚えた。
「おい! 敵のアジトに一人で突っ込む奴がいるか! マリン!」
さらに彼らに聞き覚えのある声、アメリアだ。
彼女は広間に入って来るなり、声を出すのをやめ、辺りを見渡す。
「はぁ……、こりゃまた。なかなか派手にやったねぇ。とりあえず、無事でよかったな。後から何人か冒険者を寄越すように言ってある。監獄への連絡も一緒にした。今回は運が良かったと思って、ゆっくり休め。本題は……、この姉妹だな」
遅れてブローラも広間に入ってきた。
彼女の顔色は良くない。
傷というよりも、精神的な不安から来るものだ。
「アメリアさん。この二人は……」
「わかってるって。グレイ、もう一つ頼まれてくれるかい? この姉妹をギルドまで護衛してくれ。マリンもな。私はここで後続を待つ」
「一人で……。いや、了解です。いこう、ブローラさん、リズちゃん」
「あっ、もう帰る? うー、わかった……」
急いできたマリンはほんの少し残念そうな顔をしたが、すぐに切り替えた。
「じゃ、ゆっくり、焦らず帰ろうね!」
四人はアメリアを残し、フォルレイトへの帰路につく。
途中、彼らは冒険者数名とすれ違った。
アメリアの指令はしっかり行き届いていた事に、グレイはホッと胸を撫で下ろし、移動に集中した。
▲ ▲
ギルドと刑務騎士たちの動きは早かった。
その日のうちに山賊全員を監獄に収容し、本拠地を聞き出す尋問に入った。
無論、仕方なくとはいえ協力していたブローラも例外なく尋問される。
アメリアはその尋問に付き添い、ギルドスペースに帰ってくるのは早くて明日。
その間、リズの面倒はギルド寄宿舎で預かる事になった。
面倒を見るのは、グレイとマリンだ。
「リズちゃん大変だったね。なにもされてない? 明日お姉さんを迎えに行くとき、どさくさに紛れて仕返ししてくるよ!」
「ダメだよマリン。その場で捕まっちゃうよ。やり方を考えないと……」
「だ、大丈夫。なにもされてないよ……。姉さんが守ってくれたから」
年上二人をなだめる様に諭すリズ。
彼女の顔に気遣いや緊張の色は見られない。
「え! お姉さんが何かされたの!?」
マリンはまだ食いつく。
彼女は怒りから、いささか興奮状態だ。
「なにもされてない!! あ、でも、分団長は姉さんの事いやらしい目で見てたなぁ……」
「まあ、それはそうよね。あんなスタイルの良い女の人が歩いてたら、私だって振り返っちゃうもん。柔らかくて、いい匂いがしそう……」
「うん、植物の匂いがした。それに柔らかかったよ」
「……え!? どういう事!」
「あっ」
マリンの射抜くような視線に、グレイはブローラとの出来事を洗いざらい話した。
「本当に小さい子を誘拐する手段と一緒じゃない! 物を買ってもらったからって、ついてっちゃダメ! 結果的に良い事をしたから良かったけど、殺して道具を奪うつもりだったら……」
「ごめん。本当に……」
俯くグレイとマリン。
寄宿舎の部屋の中にどんよりよした空気が流れる。
気を遣ったリズが雰囲気を変えるべく、ある提案をした。
「マリン姉さん。私、お腹がすいた。何か食べにいかなーい?」
「えっ。うーん、ご飯か。私も動き回ってお腹が空いてきたわ! どこか行こうか? グレイどこが良い?」
マリンの頭の中は、すっかり食べる事に切り替わっていた。
この切り替えの早さが彼女の強さだ。
「えっと、じゃあ、あんまり遠くへ行くのもあれだし、冒険者食堂にしとく?」
「うん! 決まり! じゃ早速出発!」
すっかり元の明るい少女に戻ったマリンはリズの手を引き、部屋から出ていった。
グレイも微笑みながらその後を追う。
▲ ▲
「はぁ……。おいしかった……。冒険者の人って、こんなおいしい物を毎日食べてるの?」
「……うん、まあ、そうだね」
食堂から帰り、一行は再びグレイの部屋に集合していた。
リズは体格から考えられないほどよく食べ、予想より出費がかさんだ。
その為、グレイとマリンの顔は、いささか引きつっている。
(鎖につながれてたのは、もしかして食料を全部食べちゃうからだったのかな……。いや、どっちにしろ満足そうで良かった)
グレイはいつもの様に窓から外を眺めていたが、ふと窓を開け、少し外へ身を乗り出す。
東通りの先、マウテスト山。
この山のどこかに山賊団の本拠地はあると、彼は聞いていた。
窓から乗り出して見える山は雄大で、とても人が数人集まっているところを見つけられるとは思えない。
時は夜、山は黒い塊と化しており、見る者に恐怖すら与える。
グレイは少し寒気を感じた。
「こら……。窓から乗り出したらダメでしょ……。危ないから戻って……」
今日、何度目かのお叱りがとぶ。
グレイを探すのに相当体力と精神を擦り減らした為、マリンはもう眠たげだ。
「……わかった」
彼はおとなしく指示に従い、窓を閉めた。




