24、走るブローラ
「くそっ! なんだぁ! 何が目的だ!」
両腕に力が入らない分団長は狼狽え、後ずさる。
グレイはそんな相手にも構えを崩さず、視線も外さない。
「……とりあえず、ギルドに連れて行きます。大人しく従えば、これ以上危害は加えません」
淡々とグレイは述べる。
歳に見合わぬ言動と立ち振る舞いは、分団長をさらに追い詰めた。
「はっ! そいつぁ、ご苦労なこって……」
もはや勝筋はない。
このまま、彼はグレイに降伏しようとした。
「おっと、そこまでだクソガキ! こいつがどうなっても知らねえぞ!」
声の主は分団長に喝を入れられ、物陰に隠れていた下っ端だ。
彼は今の今まで目立たないように姿を隠し、チャンスを窺っていた。
「ちっ! 私としたことが! 気を抜いたわ、姉さん!」
「リズ……っ!」
ブローラが絞り出すような声で妹の名を呼ぶ。
リズは下っ端に首をホールドされ、彼女が持っていたはずのナイフを突き付けられていた。
「こいつを殺されたくなきゃぁ、その道具をこっちに投げな!」
下っ端は声を張りあげてグレイを脅迫する。
その声のおかげで、分団長は幾分か余裕を取り戻す。
「でかした! おい、早くしろぉ!」
彼は調子に乗り、一緒にグレイを脅迫し始める。
「……わかった」
そういうとグレイは下投げの態勢にはいった。
(ふっ、この傷の礼はたっぷりさせてもらうぜ……)
分団長が下品な笑みを浮かべた時、グレイの手の『クレーアート』が凄まじい光を放つ。
「ぐ……っ!」
下っ端が怯んだ瞬間、グレイはそれを真上に投げた。
思わず山賊二人はそれを目で追う。
宙を舞うピッケルは、音を立てて天井に突き刺さった。
「【陥没岩】!」
声と共に天井から岩が、山賊たちの頭上に落ちる様に降りてくる。
「ぐぉ……」
それは脳天にクリーンヒットし、分団長はよろめき倒れた。
下っ端も頭に岩を受け、リズを抱えたまま、うつ伏せに倒れそうになる。
グレイはそれを許さず、下っ端を蹴り飛ばし、壁の方に追いやった。
これで『戦利品置き場』に立っているものは、グレイとリズだけとなった。
「うぅ……。リズ……。グレイ……」
未だ立ち上がれないブローラが呻く。
グレイはそんな彼女に再び駆け寄った。
「ブローラさん。大丈夫ですか?」
「う、うん。まぁ、ね」
「もし歩けるなら、一つ頼まれてくれますか?」
「な、何?」
「ギルドスペースに行って、助けを呼んでください。治療は今できるだけします。厳しいのは分かりますが、あなたしかいない」
グレイの頼みに、ブローラは少し驚いた表情を見せる。
「うっ、このアジトにいる山賊はこれが全員よ……。もう安全なはず……」
「あなたの立場を考えると、明かされてない情報があるかもしれないので……」
「……っ」
グレイは申し訳ないと思いつつも戦利品の中から、治療に使えそうなものを探す。
その中には、山賊たちが言っていたように高級な『修復薬』もあった。
修復薬は魔法輝の持つ『修復』の機能を限界まで高め、外傷の治療を行わせる薬だ。
一見、夢のような薬だが、副作用として体の自由が利かなくなるというものがある。
その期間は傷の具合によってまちまちで、場合によっては一週間以上かかることも確認されていた。
身体機能までも修復に回すため、このような副作用が出るとされ、俗説として寿命を縮めるというものまである。
しかし、それを受け入れればまさしく夢の薬で、良品ならば命ある限りどんな傷も治すと言われていた。
「これは……、過剰すぎるな」
グレイは修復薬を元の場所に戻し、他のものを探す。
「ありました!」
同じく戦利品を漁っていたリズが声を上げた。
その手には包帯と薬瓶が握られている。
「これは痛み止めの効果もある薬です。天然由来のものをそのまま使っているので、臭いがきついですが……。逆にこの臭いが、血の臭いを隠してくれるはずです!」
彼女は素早くブローラの傍に膝をつくと、慣れた手つきで治療を始める。
グレイはリズにブローラを任せる事にした。
そのかわり、彼は目をつけていたロープを使い、気絶している山賊たちを縛り始める。
テキパキとした治療のおかげで、グレイが作業を終えるころには、ブローラが立てるまでに回復していた。
「大丈夫……、ではなさそうですね。やっぱり……、ここは」
「いや、行くわ。その前に謝らせて、私はあなたを……」
「後で。話は全部終わった後の方が落ち着いて聞けます」
「……わかった。じゃあ、行ってくる」
「無理だと思ったら、引き返してください。全員で行きましょう。あ、居るかわからないけど、出来ればアメリアって人に話してください。『グレイが呼んでる』って。きっと、信じてくれると思います」
「姉さん。焦らないで、こっちは大丈夫」
リズは回収したナイフを掲げ、微笑む。
ブローラは頷くと、入り口へと駆けて行った。
▲ ▲
「アメリアさーん! グレイがいなくなっちゃった!」
ギルドスペースの一角、休憩所で休んでいたアメリアに、マリンが叫び声をあげて抱きつく。
「何時間も探したけど、どこにもいない!」
「ふふっ、初めて一人で出歩く街で、悪い女にでも引っかかったのかもな」
「そ、そんな! あぁぁぁ!」
「あーあー。アイツに限ってそんな事ないって、それにマリンよりかわいい女なんてそうそう居ないさ」
「へへ……。そうですかぁ? じゃなくて! ほんと、どこ行っちゃたのかな……」
マリンが再び街に捜索に出ようとした時、大きな布を羽織った女がギルドスペースに入ってきた。
その女はブローラだ。
治療の後を布で隠し、彼女は何とかここに辿り着くことが出来た。
「あの……、アメリアって人いますか?」
見た目の割にしおらしい声で、彼女は受付に尋ねる。
「アメリアさんはこっちですよ! 何の用事ですか?」
マリンがブローラの手を引き、アメリアのもとに連れて行く。
「あ、あの……。えっと、た、助けを……。山賊のアジトでグレイって人が……。私は……」
「グレイ! あなたグレイがそこにいるか知ってるんっですか!?」
ブローラの耳元で大声を出すマリン。
アメリアは彼女を座らせ、落ち着いて尋ねた。
「あんたは山賊のアジトから来たのか?」
「はい。山賊に妹を人質にとられてて、協力を……」
「そこをグレイに助けてもらった?」
「そんなかんじです」
「アジトの場所を出来るだけ正確に」
ブローラはアジトに至るまでの道筋を、目印となるポイントを含め伝えた。
それを聞くとアメリアはスッと立ち上がり、勤務中の受付たちに声をかけに行った。
ものの数秒で話は終わり、彼女は再び休憩所に戻る。
「案内はできるな? マリン! あんたも来な」
「よくわかんないけど、はい!」
アメリア、マリン、ブローラの三人は、慌ただしくギルドスペースを飛び出し、山賊のアジトへと向かった。




