表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/26

23、ブローラの戦い

 ブローラは眠りに落ちたグレイを机の上に伏せさせた。

 彼は深い眠りに落ちており、起きそうな気配はない。


 次に彼女は、紅茶とアップルパイの代金を支払う。人気の店なだけあって値段も相応だ。


(うっ……、高くついたわね……。でもっ、我慢我慢……)


 苦々しい表情を浮かべながら、彼女はグレイの眠る席に戻る。そして、彼を器用に背負った。


 身長はブローラが勝っている為、その光景にあまり違和感はない。


 彼女はそのまま、足早に喫茶店を後にした。




 ▲ ▲




(はぁ……。身長の割に重かったわね……。筋肉のせいか……)


 現在、ブローラは南門近くの人目につかない路地裏にいる。


 運んできたグレイも一緒だ。彼はまだすやすやと眠っている。


(速攻性の眠り薬のはずが、意外と時間がかかった。流石、S級道具所持者(ロマンチスト)と言ったところか。こんなに若くても、魔法輝(マジックオーラ)の制御が出来るんですもの。薬を意識されてたら、効かなかったかもしれない……)


 ブローラは以前、グレイがギルドスペース前で起こしていた騒動を目撃していたのだ。

 そして、その時に彼のS(ランク)道具(ツール)に目をつけていた。


(にしても……、寝顔はかわいいものね……。さぁ、女の子のお仲間に気付かれる前にさっさと運び切るか)


 彼女は人が少ないタイミングを見計らい、南門を抜け、森の中へと入っていった。


 南門先の森もまた、鬱蒼と茂っているがマウテスト樹海ほどではない。


 それはこの森の奥に住むエルフたちが、適度に管理している為とも言われている。

 しかし、その事を聞いても本人たちは答えようとしない。


 ブローラは森の南を目指さず、少し東のルートを行く。

 方向的にはマウテスト山に向かっている事になる。


 少年とはいえ、人を背負い少し足場が悪い森を進む。

 彼女は時折、周りを警戒するように視線をめぐらせていた。


 数十分後、彼女は目的地にたどり着いた。

 そこは木の蔦と根の間に、人より一回り大きめの穴が開いている場所だ。


 垂れた蔦を払いのけ、穴の奥、つまり洞窟の奥へと進む。

 洞窟の壁には、松明を立て掛けるための道具が打ち付けられており、ここに人が居たことを確信させる。


 構造は意外に複雑で、分かれた通路の先に、いくつか部屋と呼べるような開けたな所もあった。

 彼女はその中の一つ、物置の様な部屋にグレイを降ろす。


(ふぅー、疲れた。でも本番はこれからよ!)


 ブローラは地面に寝転がるグレイの腰の袋に手をかける。

 袋を外すと、中にはS(ランク)道具(ツール)『クレーアート』があった。


(予想通り! まあ、とっても分かり易かったけどね)


 口角を吊り上げ、ニヤリと笑ったのもつかの間、彼女はすぐ真剣な表情に戻った。

 それに対して、グレイはまだ気持ちよさそうに眠っている。


「さぁ、そろそろか……」


 その言葉とほぼ同時に、洞窟の入り口の方から声が響いてきた。それも複数だ。


 その声たちはブローラの通った通路と別の通路を通り、奥へと向かっていく。

 彼女はそれを聞き届けると、袋に『クレーアート』をしまいなおし、声を追った。


 行き先は一番奥。

 この洞窟に居る者達が『戦利品置き場』と呼ぶ場所だ。


 そこから確かに複数の人、十人以上の声が聞こえる。


(大丈夫、大丈夫よ。今の私にはS(ランク)道具(ツール)がある。技もこの目で見た。いけるはずよ……)


 彼女は大きく呼吸をした後、そこへ飛び込んでいった。




 ▲ ▲




 『戦利品置き場』と呼ばれる洞窟の最奥は、大広間と言っても差し支えないほど広かった。


 その中には男女合わせて十三名が、持ち帰ってきた袋の中身を確認している。


 彼らは商人や冒険者、その他もろもろを襲う山賊団だ。


 確認している袋は今日、誰かから奪ってきた物。彼らの言葉でいうところの『戦利品』だ。


「へへっ、ほとんどの団員を使っただけあって、今回は大量ですぜ分団長!」


「あったりめぇだ! アジト入り口の見張りすら投入したんだからよぉ。俺もこいつの見張りに付きっきりだったしなぁ」


 分団長と呼ばれた熊人の大男は、手に握られた鎖をジャラジャラと鳴らし笑う。


 鎖の先には肌の浅黒い少女が繋がれている。その顔はブローラと似ていた。


「おっ! 噂をすればお姉さんのお出ましだ。別行動をしたからには、それなりもんを持ってきたんだよなぁ」


「ええ、みんな腰を抜かすわよ」


 自信あり気に笑みを浮かべるブローラを見て、山賊共はケラケラと笑う。


 その中で分団長だけは、静かに手に持った袋をにらんでいた。


「……ぜひとも、その腰を抜かすもんを見せて貰いてぇもんだ」


「せっかちね。今見せてあげるわ」


 ブローラは焦らすように、ゆっくりと袋から『クレーアート』を取り出した。

 それをしっかりと握り、彼女は皆の前に掲げる。


「ほぉ……、そのピッケルがなんだってんだ? それで、このアジトを広くリフォームしてくれるってのかぁ!?」


 『クレーアート』の正体も価値も分からぬ下っ端山賊が、見た目に比べて甲高い不快な声をあげた。


「だまってろ!」


 洞窟内に響く声をかき消すように、分団長が叫んだ。


 叫びに怯えた下っ端山賊は身を小さくし、大きな箱の陰に引っ込む。


「……そいつぁ。もしや」


 分団長は立ち上がり、ブローラに近寄っていく。


 その際、鎖に繋がれていた少女が引っ張られ、地面に倒れこんだ。


「ぐぅ……」


 少女は小さく悲鳴を上げる。


「おいおい、出会った頃はあんなに暴れてたってのによぉ。あの時の元気はどうしたってんだ。あぁ!!」


 分団長は更に鎖を引っ張る。

 地面に引きずられる少女を、他の山賊たちもにやけながら眺めていた。


「【昇り岩(ライズ・ロック)】!」


 突然、ブローラの叫びが響き、地面に突き立てられた『クレーアート』から、金色のひびが凄まじい速さで伸びる。


 そのひびの先が少女をつなぐ鎖の真下に辿り着くと、そこから岩を出現させる。


 ガキィン!


 勢いよく飛び出した岩は、ピンと伸ばされていた鎖を断ち切った。


「なぁにぃ!?」


 分団長は驚き、突然出現した岩を見ている。


「くっ!」


 それに対して、ブローラは苦しげな表情を浮かべている。


 彼女の思惑では、今の【昇り岩(ライズ・ロック)】で部下の半分以上を持っていくつもりであった。

 複数の岩を別の場所に隆起させられる事は、確認済みだった。


 しかし彼女の場合、妹を解放することに集中し過ぎた為、ひびは一本しか出なかったのだ。


(もう一度! 今度こそ!)


 ブロ―ラは再び【昇り岩(ライズ・ロック)】を使おうとする。彼女はこの技しか見ていないので、これに頼るほかない。


 S(ランク)道具(ツール)とはいえ、そもそもは道具。

 正しい持ち主でなくとも、使い方を知っていれば機能(ファンクション)を発揮できる。


 といっても、認めた持ち主であるグレイの時の様に、名前や何が出来るのかを教えてはくれない。


「【昇り岩(ライズ・ロック)】!!」


 今度は五本のひびが出現した。

 

 うち四本は困惑していた山賊にうまくヒット。

 彼らは岩により弾き飛ばされ、気を失なった。


 最後の一本は分団長に向かうが、彼はそれを素早く避ける。


「はっ! 少し驚いた。S(ランク)道具(ツール)か! なかなかいいもんだぁ!」


 何も持っていない分、分団長の動きは素早く、あっという間にブローラを格闘の射程に収めた。


「こうなったら!!」


 ブローラは、接近戦では不利と『クレーアート』を入口の方へと投げ捨てる。


 そして、慣れた手つきで腰布をめくりあげ、太ももに隠されていた風属性のC(ランク)道具(ツール)『エアクロー』を両手に装着した。


 この道具は手甲と一体化した五本の鉤爪(かぎつめ)が特徴的だ。


「【風爪(ウィンド・クロー)】!」


 風を纏った鉤爪を分団長に向け振り下ろすブローラ。


 分団長は体格に見合わない素早さでそれを避けると、彼女の足に向けて蹴りを放つ。


 大振りで威力の高い蹴りを最低限の動きで(かわ)すと、彼女は回避からの流れで分団長の胴を引き裂きにかかる。


「【火玉(ファイア・ボール)】!」


 山賊の一人が杖をブローラに向け、魔法を撃つ。


 杖型のC(ランク)道具(ツール)から放たれた火の玉は、決して速くないものの、正確に対象を狙っていた。


「きゃあああ!」


 火の玉を腰に受けたブローラは悲鳴を上げ、その場に倒れこんむ。

 地面をのた打ち回り、腰布についた火を消火しようとする。


「分団長! これを!」


 火の玉を放った山賊とまた違う山賊が、分団長に二股の槍を渡した。


「ふんっ! なかなかやってくれるじゃねぇか! ええっ!!」


 分団長は、立ち上がろうとうつ伏せになっていたブローラの首を槍の股に挟みこみ、地面に固定した。


 ブローラは逃れようともがくが、大男によって支えられた槍はびくともしない。


「お仕置きが必要だなぁ……! 【荒風(ワイルド・ウィンド)】!」


 その言葉と共に、槍の先端から風が巻き起こる。この槍もまた魔法道具(マジックツール)だ。


 風は鋭く、衣服を裂き、肌に浅い切り傷をいくつも作る。


「姉さんを離せ!」


 鎖から解放されていた少女は、いつの間にか隠し持っていたナイフ型の魔法道具(マジックツール)で分団長の足の(けん)を狙う。


 しかし、あと少しのところで山賊に抑え込まれ、姉と同じく地面に叩きつけられた。


「ちっ! 油断の隙もねぇガキだ!! お前もあとで姉のようにしてやるよぉ」


 分団長は震えるブローラに向きなおり、槍を地面から抜く。


「今日は良い薬が入ったんだぁ……。多少の刺し傷ぐらい、簡単に治っちまうようなのがよぉ……。その効果、お前で試してやるぜぇ!!」


 二股の槍が、ブローラの背中を貫こうと迫る。


「【鋭い岩(シャープ・ロック)】!」


 新たな人物の声が洞窟内に響いた。


 その時、分団長は腕に違和感を感じ、見る。


 すると、両腕には地面から伸びた細く鋭い岩が刺さっており、傷口から血が滲み始めていた。


「ぐあああっ!」


 叫びをあげると彼は岩から腕を引き抜いた。

 栓を失った傷口からはとめどなく血が溢れる。


「【昇り岩(ライズ・ロック)】!」


 再び声が響いたかと思うと、山賊たちが吹っ飛び、悲鳴を上げながら壁に叩きつけられた。


「だ、だれだ!!」


 傷口を抑えた分団長が、入り口に立つ人物に向けて叫んだ。


 その人物は無言のまま、地面に倒れるブローラに近寄ると、傷の状態を確認する。

 そして、無言のまま分団長に向き直ると、言った。


「グレイ。グレイ・ソイル」


 それ以外の言葉は無く、彼は素早く道具(ツール)を構えなおす。


 その目には、確かな敵意と怒りが宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ