22、グレイのフォルレイト観光
『赤木狼』の依頼解決から数日後、グレイは一人でフォルレイトの街中を歩いている。
マリンはギルドでアメリアに呼び止められ、話をしている最中だ。
その話の間、彼は街中を観光するように言われていた。
フォルレイトについてから数日で、二人にはいろいろな事があった。
ウード村で救助したリンジムが、例の品を持ってきた事。
彼は何がグレイ達に必要か悩んだ挙句、現金を持ってきた。
初めは遠慮をしていた二人も、彼の強い思いに押され、ありがたくそれを受け取った。 リンジムは、まだ冒険者を続けるのか悩んでいたが、二人の前では笑顔を見せていた。
ほかにも、『赤木狼』の正体であったペローが相談もせず、早朝の内に冒険者申請を済ませてしまった事。
その時に対応した受付曰く、ペローの戦闘力は申し分ないものらしい。
それは十分グレイ達も理解していたが、彼女のすぐ熱くなってしまう性格が、少々不安要素であった。
後は一般的な魔物討伐依頼をこなしたり、二人でギルド近くの店を見て歩いたりした。
(でも一人で出歩くのは……、初めてなんだよなぁ)
現在、グレイは一度行ってみたかった大きな本屋で、本を物色している。
木々が生い茂るグゥリン島の最大都市というだけあって、あらゆる書物が豊富だ。
グレイは主に物語を好んで読んでいて、家の本棚もそういった本が多い。
(できれば買いたいけど、お金も置く場所もないしなぁ。申し訳ないけど今は……)
彼は手に取っていた本をパラパラとめくり、ある程度内容を確認すると、また棚に戻す。
内容を完全に読まないようにしている、わけではない。
とにかく数が多いので、立ち読みをするにしてもどれを読もうか、迷っているのだ。
(これも面白そうだな……。あっ、これも気になる……。全部買って家でゆっくり読めたら……、って! 家に帰っちゃだめだ……)
彼の本を選ぶ手にも熱が入り、動きも素早くなってきた時であった。
近くで本を選んでいた女性と取ろうとした本が被り、手がぶつかってしまった。
「あっ! す、すいません……。この本どうぞ」
「いえいえ、私はいいですから。どうぞどうぞ」
女性は浅黒い肌に白い髪。
服も髪と同じく白く、腕やへそを露出している。
長い腰布からはちらちらと脚が見え隠れしていた。
しかし、グレイが気になったのは扇情的な服装ではない。
肌の一部にみられる、鱗だ。
それに目。
人間とは少し違う、切れ長で瞳孔が細くなったり、丸くなったり変化する。
彼女は亜人の中の一つ、蛇人と言われる種族だ。
「僕はそのっ、旅の途中でして……。本を持ち運べないんです」
「あら、そうなの? じゃあ私が買って、この町にいる間は貸してあげる」
「えっ! でも……」
「いいからいいから。これも何かの縁。よかったら、この後お茶しない? 私、いい店知ってるの」
彼女は細く長い舌をちらりと見せ、微笑む。
グレイは彼女のペースに飲まれ、その誘いを受けた。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……。あっ、僕はグレイ。グレイ・ソ……」
「ふっ、ありがとうグレイ。私はブローラ。ブローラ・タイパンよ」
ブローラはグレイをギュッと抱きしめた。
人目に付くところで初対面の人に抱きしめられ、グレイは恥ずかしくなりもがく。
しかし、彼女は拘束を緩めない。
そのうちグレイには、豊かな胸に顔をうずめている事よりも、独特な草のような匂いが気になり始める。
「ふふっ、じゃあ行きましょう!」
ブローラはグレイの手を引き、店員のもとへ向かう。
彼女は口角を吊り上げ、ニヤリと笑った。
▲ ▲
二人は本を購入後、店を出て南門の近くの喫茶店に来た。
この喫茶店は南通りに面しており、テラス席では通りを眺めながら、こだわりの茶と軽食が楽しめる。
「さ! なにがいい? なんでもおごるよ?」
「そんなっ、なにからなにまで……」
「ほら! これなんかどうかしら? 紅茶とアップルパイ! 私のおすすめ」
「うわぁ……、おいしそうな響き。……お願いします」
リンゴの魅力に敵わず、グレイは注文をお願いしてしまう。
ブローラは笑顔でそれを聞き入れると、店員を呼び、注文をした。
数十分後、焼き立てのアップルパイと淹れたてのアップルティーが運ばれてきた。
「じゃあ、グレイくんはアップルパイを切り分けて。私は紅茶にミルクと砂糖を入れるから。私、おすすめの配分があるのよ」
「あっ、はい」
グレイは指示に従い、一緒に運ばれてきたナイフでパイを切り分ける。
ブローラも運ばれてきたミルクと角砂糖を手元に引き寄せ、紅茶に入れ始めた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。意外とうまく切り分けられたかな……」
準部が整い、二人はミルクティーとアップルパイを楽しむ。。
アップルパイは生地がサクサクで存在感があり、果実感の残るリンゴの酸味と甘みが、砂糖で煮込むことによってひきたてられていた。
ミルクティーはポピュラーな茶葉の香りの中に、独特の匂いが混じっている。
ブレンドだろうかとグレイは考えたが、どことなく知っている匂いのようにも思えた。
砂糖は最低限、しかし少し苦みを和らげ、あまり紅茶を飲まないグレイにも飲みやすいようになっている。
ミルクも存在感がないように思えたが、口に含んで味わうと、独特のまろやかな甘みが確かに存在するとわかった。
「おいしい……。おいしいです! ブローラさん」
「でしょ?」
一通り味の感想を言い合うと、二人の話題は別のことに移った。
「グレイくんって、旅してるんだよね。という事は冒険者?」
「はい。といっても、なって数日なんですけどね」
「この時期に始めたという事は……、騎士試験でしょ!」
「そうですよ」
グレイは上機嫌だ。
それにブローラを信用しており、ぺらぺらと自分の事を話す。
「じゃあさ、じゃあさ。S級道具も持ってるの?」
「えっ! あっ、それは……」
流石のグレイもこれについては言う事をためらう。
しかし、腰につるされた意味深な袋や、ハッキリしないしゃべり方、何より視線が腰にチラチラと向けられている。
ブローラはニコッと微笑むと、他の話題に切り替えた。
「パーティは? 誰かいる?」
「は、はい。マリンという女の子が一人。子といっても僕より年上なんですけどね」
「へー、二人旅かー」
彼女は残ったミルクティーをゆっくりと飲み、しばらく黙っていた。
それにならい、グレイもカップに残ったものを飲み干す。
「んん……。あれ? なんか……、眠く……」
「大丈夫? ほら、おいで」
ブローラはグレイの傍により、今にもテーブルに突っ伏しそうな頭を胸に抱え込む。
しばらくすると、グレイは彼女の胸の中ですやすやと寝息を立て始めた。




