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20、赤い頭巾の少女

「【炎爪(フレイム・クロー)】!」


 落下する狼の爪が炎を纏う。


 グレイのほぼ真上、『クレーアート』の機能(ファンクション)では防げない。

 彼は致し方なくピッケルのハンマー部分で受け止めた。


 ガキィン!


 金属同士がぶつかった様な音が響く。

 狼はグレイを押しつぶせないと判断し、一時地面に着地した。


 着地後もにらみを利かせ、狼は低く唸る。


「待って! 話しを……」


 聞く耳を持たない狼が、再び跳びかかる。

 迫りくる爪に、再びグレイは道具(ツール)を振った。


 爪とピッケル、二つの道具(ツール)がぶつかり会う音が幾度(いくど)か聞こえた後、グレイがうめき声を上げてよろめいた。


「純粋な力は……、向こうの方が強いか……」


「グレイ! 私も……」


「大丈夫……」


 マリンの加勢を拒否したグレイに、三度狼が跳びかかる。


「【道具強化(ツールエンハンス)】!」


 叫びと共に、クレイアートが金色の光で覆われる。

 そのままグレイは輝くそれを狼へと振り下ろした。


 ガギィイイン!!


 一際大きな音とまばゆい光と火花が辺りに飛び散り、狼の巨体が吹っ飛ぶ。

 その体は木にぶつかり、炎に包まれたかと思うと、中から先ほど見た少女が現れた。


(道具自体に自分の(オーラ)を籠められるのか……)


 グレイが思いつきで行った【道具強化(ツールエンハンス)】は、道具に自分の(オーラ)()め、強化するものだ。


(色々使い道がありそうだ……)


「グレイ! 女の子が!」


 倒れた少女を助け起こしていたマリンの声で、グレイの思考は中断された。


 少女は大してダメージを負っていないようで、マリンの手を借りずに自力で立ち上がる。


「その道具(ツール)は……」


「うん、君の頭巾と一緒。S(ランク)道具(ツール)さ」


「……よかった。私の事を襲いに来たわけじゃなさそうで」


 グレイの言葉に安心した少女は、木にもたれかかり、ふっと息を吐く。


「私の名前はペロー。ペロー・メイジンといいます。運送騎士(キャリーナイト)を目指して日々修行をしています」


「僕はグレイ・ソイル。こっちはマリン・ネイビー。僕たちは新騎士試験を受けることを目指してる冒険者さ。今回は君の……、『赤木狼(レッドウッドウルフ)』の調査に来てたんだ」


 グレイは自分たちの目的を伝え、事情を聴きだそうとする。

 ペローもそれを察したのか、森で何をしていたのかを話し始めた。


「さっきも言った通り、私は運送騎士(キャリーナイト)を目指しています。その為の訓練をこの樹海で行っていたというわけです。道具(ツール)の都合上、あまり人に見られたくありませんし……。あっ、そういえば、運送騎士(キャリーナイト)ってお分かりですか?」


「うん、知り合いにいるからね」


 その言葉を聞いた瞬間、ペローは目の色を変え、グレイに掴みかかった。


「ほ、本当ですか!? しょ、紹介して! 証明して!」


「ま、また今度話すから! なんでそんなに運送騎士(キャリーナイト)になりたいの?」


 ペローは手を話し、大きく深呼吸をした。

 そして、胸に手を当てたまま、話を続ける。


「えーと、まあ『憧れ』ですかね。街と街を股にかけ、大事なモノを届けるってカッコいいですし。後は……、あー、安定した収入と保障……、です……。な、何においても大事な事ですよね……? あと、ありがたいことに適性もありますし……」


「適性ってなぁに?」


 ペローの脇に立つマリンが手を上げ質問する。


「あ、それはご存じないのですね」


 チラッと視線をグレイに向けるペロー。

 何か言いたげな表情だ。


「えーっと……、戦闘能力と性格や素行、走行能力だったね」


「その通り! 運送騎士には、馬車よりも早く物を運べる能力が必要なのです」


「へー、それが狼になる機能(ファンクション)って事?」


「その通りです。この『ウーフドーレ』の『狼変身(ウルフチェンジ)』の機能(ファンクション)を使えば、馬よりも速く移動できます。力も強いので荷台を引くことも可能でしょう。戦闘能力もご覧の通りです」


 赤い頭巾を指で示し、ペローはその力の正体を明かす。

 グレイ達の事を完全に信頼しているようだ。


「『ウーフドーレ』か……。僕のは『クレーアート』って言うんだけど、最近手に入れたばかりなんだ。それはいつから持ってるの?」


「この頭巾自体は、我が家に代々受け継がれている物です。でも、S(ランク)道具(ツール)として目覚めたのは、一か月前ぐらいですね……」


「ふーん、それにしてもどうして、赤い頭巾が狼になる機能に目覚めたのかしら?」


 何気ない一言を聞いたグレイとペローは、少し驚いたような表情でマリンを見る。

 マリンは視線の理由がわからず、思わず手で顔を隠す。


「え? え? なな何かおかしなこといった?」


「いや、そうか。マリンはグゥリン島出身じゃなかったね。この島には『赤ずきん』っていう古い童話があるんだ」


 赤ずきん――。

 それは狼系の魔物が多いグゥリン島で、子供たちが勝手に森に入り込まないように、戒めとして作られた物語だ。

 大元の話を要約すると、『赤い頭巾をかぶった女の子が、言いつけを守らなかったせいで、狼に食われる』だ。


 しかし、言い伝えられていくうちに『残酷だ』『救いがなさすぎる』『俺ならもっと面白い話が書ける』など、いろんな意見が飛び出した。

 今となっては、家々で話が違うとまで言われ、その違いを研究する物好きな暇人までいるという。


「はー、そんな話があったのね」


「僕の家は……、まあ森が近くにないから、本の知識なんだけどいろんな話があったね」


「私の家のお話は、お使いに出た女の子が狼にそそのかされて、寄り道をしたせいで食べられて、お腹の中に入れられたままお使い先のお婆さんの家まで運ばれて、狼がお婆さんを手にかけようとした時! 持っていたカゴに入っていた枝切りハサミで腹を内側から切り裂き、脱出するんですよ! でも、お婆さんはお腹の中から出てきた赤ずきんを敵と判断して、戦いが始まってしまうんです!」


 顔を紅潮させ、熱に浮かされたようにどんどん言葉を吐き出すペロー。

 途中までは目を輝かせて聞いていたマリンも、その勢いに気おされ真顔になってきている。


「で! オチ! オチはどうなるの」


 話を終わらせるべく、強引にオチを求める作戦に出たマリン。

 その作戦は功を奏した。


「あ! すいません。最後は猟師さんに戦いを仲裁してもらって、みんな話幸せに暮らしましたとさ、です」


「無難に収まったね」


「はい! とってもいいお話です。でも私、思ったんです……。戦う力の無い女の子を危険なお使いに出すぐらいなら、私がお使いに出ようって!」


「あれ? 赤ずきんちゃん終盤で戦って……、んぐっ!?」


 本能的にツッコミを入れようとしたマリンの口を、グレイがすかさず塞いだ。


「それで、運送騎士(キャリーナイト)になろうと思ったんだ」


「はい! 狼に対抗するには狼に! それに、私の中で狼の腹の中に入れられるシーンが一番印象に残っていて、それが道具(ツール)に出たんだと思います」


「狼の中にいる……。その部分を拡大解釈して生まれた機能(ファンクション)なんだね」


 幾分(いくぶん)か大人しくなったペローを見て、二人はホッと胸を撫で下ろす。


(にしても、拡大解釈ねぇ……。強い思いがないとS(ランク)とは出会えないっていうのは本当なのかも)


 マリンはグレイに拘束を解いてもらい、心の中で呟いた。

 二人の女の子が落ち着いたのを見て、グレイは本題を切り出す。


「あの。君は道具の力を隠したくて、一人で訓練してたんだと思う。でも、それを見てびっくりしたり、怖がったりしてる人が居るんだ」


「……そうですよね。最近、試験の発表があって、道具(ツール)を見せびらかさない方がいいと思っていたのですが、逆に目立ってしまいました……」


 ペローは(うつむ)き、頭巾で顔が隠れてしまった。

 すかさずマリンがフォローに入る。


「ペローの事、責めてるわけじゃないの。捕まったりもしないわ。んー、どうすればいいのかな……」


「……とりあえず、アメリアさんに相談しよう。あの人、もしかしたら『赤木狼(レッドウッドウルフ)』の正体が、S(ランク)道具(ツール)を持った人間だって気づいてたのかもしれない。それで、同じ道具を持った僕達を向かわせた。それなら、奪い取る心配もないしね」


「アメリアさん?」


 グレイは受付嬢アメリアの事をペローに説明した。

 彼女がペローの居場所に見当をつけていた事も。


「さすがプロの冒険者さんは違いますね。曜日によって、訓練場所を変えていたのを見抜かれてしまいました。始めはバラバラだったのですが、やっぱり訓練は決められた事をキッチリこなさないと……」


 再び熱を帯びだしたペローを抑えるため、グレイは話しに割って入る。


「まあまあ、それは置いといて、取り敢えず樹海を出ようか。魔物に襲われるかもしれないし、いいかな?」


「あ! ごめんなさい……。はい、わかりました。私もフォルレイトに住んでいるので、問題ないですよ」


「じゃ! 行こう行こう!」


 マリンがまくし立て、ペローの手を取った。


「さっき木に登って確認していた『緑巨岩(りょくきょがん)』はこちらです。行きましょう」


 木に登って確認――。

 その言葉を聞いて、グレイはある事を思い出す。

 そして、彼は申し訳なさそうな顔をするとペローに話しかけようとした。


「あの……」


「その話もあと! グレイ、歩くよ!」


 言いたいことを察したマリンが肘で小突き、歩くことを(うなが)す。

 そのまま三人は『緑巨岩(りょくきょがん)』、そして街を目指して、樹海の中を歩いて行った。

ついに二十話!

いろいろありましたが、ここまで頑張れたのも読者さんのおかげです。

これからも応援よろしくお願いします!

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