18、初クエスト開始!
「はい! アメリアさん初依頼の受注に来ました!」
受付ブースにいる幾分か顔色が良くなったアメリアに、ご機嫌なマリンが話しかける。
安全な寄宿舎でぐっすり睡眠をとり、お腹いっぱい朝食を食べた彼女の笑顔は輝いていた。
「よ、来たね」
「こんにちは。少し調子よくなりましたか?」
とても人前に出れそうになかったアメリアを見ているグレイが、身を案じ尋ねる。
「うんうん、大丈夫。出すもんだしたらスッキリしたよ。……道端には吐いてないぞ!」
「わ、わかってますよ……」
「アメリアさん! 依頼! 依頼!」
訳のわからない会話を繰り広げる二人を静止し、本題に入るようマリンは急かす。
「あ、そうそう。そうだね。あんたらに依頼したいのは、これさ!」
アメリアは二人の目の前に依頼書を突きつけた。
そこに書かれているのは――。
「『赤木狼』の調査……?」
「そう! これが二人にぴったりの依頼だ!」
グレイとマリンはチラッと視線を合わせアイコンタクトをした。
その後、真顔でアメリアの方へ向き直る。
「……この依頼、危険そうなんですが」
「まあまあ、焦りなさんな。ちゃんと話すよ。『赤木狼』の事をね……」
アメリアの話はこうだ。
ここ最近、フォルレイト東のマウテスト山脈の麓の樹海に、赤く巨大な狼が出没するという話が広がっている。
目撃者によると、その狼は人より一回りは大きく、足も速く、森の中を難なく駆けていくそうだ。
「ちょっと待って! それあぶな……」
「最後まで聞く!」
「はい」
この狼には不自然な点もあった。
一つ目は、冒険者を見つけるとすぐさま逃げ出してしまう事。
二つ目は、『木狼』と戦闘を行っていた事。
三つ目は、目撃地点に焦げ跡が存在する事。
「人には危害を加えず、魔物とは戦う……。って言ったらカッコいいけど、確実に倒せる雑魚を狩って、強い人間からは逃げる狡猾な奴なのかもなぁ」
アメリアは解説を終え、推察を語りだした。
それを見計らって、マリンが慎重に意見を言う。
「あのぉ……。それで私たちに?」
「うん、戦闘能力は十分。火に強い水魔法は使えるし、足止めに持って来いの道具もある。見た感じは弱そうだし、向こうも警戒を解くかも」
「人間を襲った事例は本当にないんですか?」
今度はグレイが質問する。
アメリアも真剣な顔で答える。
「いまんところは……、な。人知れずやられた奴もいるかも。マウテスト山道はグゥリン島から、トレド小島やモンモ島に向かう近道だ。商人共も通るから、早めに正体を明かしたい」
「……わかりました。やろうよ、マリン」
「私も少し気になるわ。初心者の今しか出来なさそうだし、頑張ろう!」
二人の冒険者の意見は纏まった。
それを見てアメリアは依頼書に何かを書き込み、二人に手渡す。
「そいつは意外と樹海の浅い所、それも町に近い所に姿を現すそうだ。時間帯は朝から夕方までで、夜に目撃報告は無い。危ないと思ったら、無理せず引き返してこい。別にペナルティは無いからさ」
手渡された依頼書には、調査するべき内容が書かれていた。
「巣の調査、複数『赤木狼』は存在するのか……」
「まっ、巣穴が見つかればいいかな。森の深い所には出ないってことは、巣は浅い所に有りそうだし、他の魔物の危険も少ない。そういうことで頑張ってくれ」
内容をしっかり確認した二人は、アメリアに礼を言い、寄宿舎へ戻った。
部屋に戻り、各々装備や道具を確認する。
マウテスト樹海はフォルレイトから近く、泊りの装備は必要ない。
必要最低限の荷物をまとめ、二人はグレイの部屋に集まった。
「さて、二人でする初仕事! 頑張っていこう!」
マリンが手に持ったリンゴジュースのビンを掲げ、それを飲みだした。
「それにしても、運が悪いと時間がかかりそうな依頼だね」
「時間に追われるよりはいいのかも? 戦闘も無いかもしれないし」
グレイに半分残したジュースを渡し、マリンが言う。
受け取ったグレイは依頼書を見直しながら、飲み始めた。
「樹海の浅い所って言っても、どこなのか……、あれ?」
依頼書に向けられた視線がある一点に集中する。
「ここ、なんか関係ない絵と字が……、『今日は緑巨岩周辺の予感』?」
依頼書の端の方に、簡単な地図とアメリアのメモが描かれていた。
「これって、対象がここに出没するって事かな?」
グレイは依頼書をマリンに見せ、同意を求める。
防具のチェックを行っていたマリンはその手を止め、それを覗き込む。
「……普通に考えればそうよね。なんだろう? アメリアさんが情報をもとに法則性を導き出したとか?」
真偽は定かではないが、探す当てもない二人は地図とメモが示す地を目指し、寄宿舎を飛び出した。
マウテスト樹海は、樹海と言っても人の手が全く加わっていない訳ではなく、山に通じる街道が一本ある。
その街道からも見える苔の蒸した巨大な岩、それが今回グレイ達が目指す『緑巨岩』だ。
樹海で仲間とはぐれた、もしくは迷ってしまった場合は、木に登って緑巨岩を確認し、そこを目指すといった、冒険者たちの目印としても使われている。
「緑巨岩周辺に出るか……。人が集まりやすい所に、人から逃げる狼がどうして……」
「ま、行ってみればわかるよ。人が集まり易っていっても緊急時のみで、普段は静かな所らしいよー」
フォルレイト東門に通じる東通りを歩きながら、グレイ達は依頼について話していた。
東通りには武器防具屋が多く、冒険者たちが多数歩いている。
二人は通行人を避けつつ、西門より巨大で堅牢な作りの東門に辿り着いた。
「うわ……、西門より大きいし、警備の冒険者も多いなぁ」
「まあ、東門の方が人通りも多いし、樹海も近いからね。その分、警備も厳重なのよ」
二人は門をくぐり、山に通じる街道へ出る。
街道は草と木が除かれ、馬車がすれ違っても余裕がある程の幅があった。
実際、今は数台の馬車が街道を行き来しているところだ。
「この馬車は山を越えてきたんだよね? 結構大きな山なのにすごい。道がちゃんとあるんだね」
「そうよ。それに所々に門と壁付きの休息所もあるわ。どうしても一日で山を抜けられない時は、そこで一晩を過ごす。ただ、食料とかは置いてないの。誰もいない時に魔物が寄ってくる原因になるからね」
山の休息所の管理もギルドが行っているが、設備点検時以外は警備も行っていない。
もしもの時は、雇った護衛の冒険者か自らを頼るほかない。
「あ、あれよ! 見えるでしょ! 苔の付いた岩の先っちょが! あれが緑巨岩よ!」
ぴょんぴょんと跳ねながらマリンが指差す先には、苔むした巨大な岩の先端部分が茂った葉の上から飛び出していた。
グレイもそれをジーッと見つめている。
「さ! 方向は分かったし、突入しますか!」
「うん!」
そういうと二人は、街道と樹海の間に建てられた低い木の柵を飛び越え、内部へと入っていった。




