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15、ホッと一息つきまして

「勝手に話しつけちゃって、悪かったね」


 受付ブースに入り、自分の席に座ったアメリアが言う。

 その表情から申し訳なさは読み取れない。


「アメリアさんも、ナイフ投げつけてましたからねー。ギルド長にチクられたら問題ですものねー」


 マリンが楽しそうに話す。

 彼女は先ほどのいざこざの興奮が、まだ冷めていないのだ。


「あれは初めから壁を狙ってたのさ。あいつらも小物だからね。あれで大人しくなるよ。まともには、なかなかならんと思うが……」


 アメリアは後ろにある引出(ひきだし)をゴソゴソと漁り、取り出した物をグレイに投げる。

 素早く反応したグレイは、それを片手で受け止めた。


「やるねぇ……。それがあんたの冒険者バッジだよ。後で、裏に名前でも彫っとくといい」


 手のひらに乗せられた記章の表面には、円形の盾の上に交差した二本の剣が描かれていて、裏面には衣服に取り付けるためのピンがある。


「ありがとうございます!」


「どういたしまして。じゃ、仕事について説明しようか」


 そう言うと、アメリアはイスに深く座りなおした。


「基本的に、掲示板に張られた依頼をこなしていくんだが、悪いことは言わない、初めは私の言う事を聞いた方がいい。それなりの依頼を教えてやる」


 真剣な表情で話すアメリアに、グレイも背筋を伸ばす。


「まっ、あんたはそこらの新人よりはデキるみたいだし、振る舞いも落ち着いてるから心配してないけど」


 彼女は笑顔を浮かべながらも、話を続ける。


「掲示板から依頼の用紙を取ったら、必ず受付に提出する事。別に私じゃなくていい。この受付ブースの中にいて、制服をきてれば、大体ここの職員さ。あいつとかこいつね」


 アメリアが、同じ円形ブースの中にいる制服の女性たちを指差す。

 すると、女性たちは他の冒険者の対応をしながら、一瞬グレイの方を向き、ウィンクや手を振る動作をした。


「それと、一緒に行動する者の数、名前も伝えてくれ。万が一、帰ってこなかったら、捜索依頼を出さないといけないからね」


 グレイは頷きながら聞き入る。

 

 一度説明を受けているはずのマリンも、真剣な表情で話を聞いている。

 

 捜索依頼という言葉に、ジムは苦笑いした。


「で、達成報告は……。まあ、その時でいいか。ウードから歩いてきたんだろ? 今日はもうゆっくり休んだらどうだ。ギルドの宿舎を貸してやる。それも二人部屋を二部屋!」


 アメリアはバッジが入っていた引出(ひきだし)とは違う引出(ひきだし)を開け、二本のカギを取り出し、グレイたちに見せつける。


 ギルドの宿舎はその名の通り、ギルドが管理している宿である。

 他の街から来て、宿や家を借りる金の無い新人冒険者などに貸し出されている。


 貸すかどうかの判断は、受付に一存しており、明確な基準はない。


「あ、僕は実家に戻りますんで……」


 ジムが鍵を掲げるアメリアに言う。


「あー、あんたはここ出身だったっけ。早く家族に無事を伝えてやんなよ」


「そうだった! ごめんなさい。ずっと付き合わせてしまって……」


「謝るような事じゃないさ。君が冒険者になるところが見られてよかった。また後日、お礼の品を持ってくるよ。しばらくはこの宿舎にいるかい?」


 グレイとマリン、そしてジムは情報を交換し合った。

 二人はしばらく宿舎に滞在する事にし、それを聞いたジムは最後に感謝の言葉を述べた後、実家に帰っていった。


 その背中を見送った後、二人は再びギルドの中に戻る。


「優しいね、あんたら。命を救ったんだ、あたしならすぐに物を持ってこさせるけどね。(まれ)に、姿をくらます奴もいるからな。おば……、おねーさんからのアドバイスよ……」


 先ほどまでの威勢はどこへやら、アメリアは机に頬杖をつき、うとうとしている。


「で、ほいこれ。鍵……、早く持って。あたしも寝たいねぇ……」


「あの、また二本あるんですが……」


「ん? あ、一緒の部屋が良かったか。いや、会ったばかりの男女が、一緒の部屋は居心地が悪いと思って、あたしにしては珍しく気を使ったんだが……」


 ハッと息をのんだグレイは、鍵が仕舞われるのを止める。


「あ、いります! 二つ! ……ごめんマリン。気が付かなくて」


 二本のカギを受け取り、グレイは申し訳なさそうな顔をし、マリンに向き直る。


「あー。別に良いんだけど……。ま、着替えはしやすいかなー」


 満更でもない表情を見せるマリン。

 そのまま二人はアメリアに導かれ、ギルドの奥の扉をくぐり、宿舎に移っていった。




 ▲ ▲




「ふー。これで一息つけるかな」

 

 グレイはポツリと呟くと、荷物を床に置き、二つあるベッドの窓際に設置されている方に体を投げ出した。


 彼の宿泊する部屋は寄宿舎の三階。

 寄宿舎は東通り(イーストストリート)に面しており、窓からは人の行きかう様子を眺める事ができる。

 時は夕暮れ、赤い光が西から町を照らし、赤く染めていた。


 コンッ、コンッ


 グレイが寝転がりながら、窓の外の空を眺めていると、突然部屋の扉がノックされた。

 その後、すぐに声が聞こえてくる。


「私、マリンよ。入っていい?」


「いいよ」


 返事と同時に、マリンが扉を開け部屋に入ってくる。

 その姿は先ほどとは違い、胸当てや武器を提げるベルトなどが取り外されていた。


「どう? 物は少ないけど、居心地は悪くないでしょ?」


 マリンの言葉通り、寄宿舎には最低限の家具しか用意されていない。

 寝るためのベッド、物をしまうクローゼット、部屋を照らすランプ。

 

 食事も出てこないが、ギルドの隣には冒険者割引により、お手ごろな値段で食事がとれる『冒険者食堂』がある為、さほど問題ではない。

 ちなみに、『冒険者食堂』は一般の者も通常価格で食事をすることはできる。


 そんな質素な部屋をキョロキョロと見回しながら、グレイの寝転がっているベッドに近寄るマリン。

 彼は体を起こし、ベッドの縁に腰掛ける。


「あ、気を遣わなくていいよ。ごはんどこで食べようかなって話。やっぱり、初日は食堂いっとく? お手頃なお値段で、しかもおいしいよ」

 

「まだこの町の事、よくわからないからマリンに任せるよ」


「じゃ、決まりね!」


 すっとグレイは立ち上がり、空腹から小走りで部屋を出ようとするマリンを追う。


 彼もまた、大きな荷物や上着を部屋に置いていたが、『クレーアート』は袋で包み、腰に装備したままであった。

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