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13、森林都市フォルレイト

「ここが……、森林都市フォルレイト……」


 ピスタとの戦いの後、グレイ達は大きな木の門をくぐり、フォルレイトへと足を踏み入れた。


 彼らがくぐったのは西門(ウェストゲート)

 ウード村に向かう事以外では、あまり使われない門の為、人通りも少ない。

 

 それをいいことに、グレイは道の中央に立ちつくし、辺りをきょろきょろと見渡す。

 

 西門の周りは『農業地区(ファームエリア)』と呼ばれ、農業が盛んな地域だ。

 畑や牧場だらけで、目立つ物はあまりない。


「さあさあ、早く中央地区(セントラルエリア)に行こうよ!」


 そう言うと、マリンはグレイの前を歩き出す。

 モリーを引きつつ、ジムもそれに続く。


中央地区(セントラルエリア)には、ギルドがあるんだよ。あー、なんか緊張してきた……」


「そう言われると、僕も緊張してきました……」


 グレイは知識として、ギルドの事を知っている。

 が、実際に登録する日が来るとは思ってもいなかった。

 

 意識した途端、彼は鼓動が早まり、体温が上がっていくのを感じる。

 その足取りも速まり、前を歩くマリンと並んだ。


「ねぇ、冒険者ギルドってどんなところ? どうやったら冒険者になれるの?」


「それは後のお楽しみ。まず、私たちがギルドの中で話をするから、読んだら入ってきてね」


 マリンの言葉に、グレイは頷いて答える。

 そうこうしてるうちに、一行は中央地区(セントラルエリア)の中心『大樹(たいじゅ)の広場』にたどり着いた。


 広場はその名の通り、中央に一本の巨大な樹が植えられていて、その周りにベンチや花壇が並べられている。

 

 そして、広場のさらに外側に石畳が敷かれ、円形の道となっており、その道から東西南北に四本のメインストリートが都市の端まで伸びていた。


 中央地区は木組みの立派な家が多く、石畳の道の両側に整然と並んでいる。


 家は住居として利用されるだけでなく、個人商店としても使われている。

 売っている物は、森林都市で採れた新鮮な野菜や果物、育てられた家畜の肉など。


 無論、グゥリン島最大の街と言われるだけあり、冒険者ギルドや武器防具屋、その他多数の施設が存在する。


「あれ。あれが冒険者ギルドの建物『ギルドスペース』よ」


 マリンの指差す先には、木組みと白壁が組み合ってできた大きな建物があった。


 建物の中央にある両開きの扉があり、その上には『冒険者ギルド―フォルレイト―』と書かれた看板が取り付けられている。


 ギルドの扉は現在開け放たれており、人が絶え間なく行き来していた。


「すごい! 人がいっぱいいるなぁー」


 グレイが感嘆の声を上げ、吸い寄せられる様に扉に向かっていく。

 それをマリンが肩に手をかけて静止した。


「ストップ! グレイは一旦広場ベンチで待機してて」


「え? どうして……」


「ど、どうしても!」


 マリンはグレイの腕を引き、広場のベンチまで連れて行くと、そこに半ば無理やり座らせた。

 そして、モリーの見張りを強引に押し付けられ、再度待機を言い渡す。


 その後、マリンとジムは足早にギルドの建物に入っていった。


 グレイは一人、ベンチから辺りを渡す。

 自らと同じ人間だけでなく、多くの亜人も道を行き来していた。

 街は活気に満ち溢れていて、店からは店員の客引きの声が聞こえる。


 しかし、グレイは孤独を感じた。

 見知らぬ街に一人、知り合いもいない、さすがの彼も不安を感じずにはいられなかった。


「早く戻って来ないかな……」


 モリーの顔を撫でながら、グレイは呟く。

 

 暴れていた事が信じられないほどモリーは落ち着いており、尻尾をゆっくりと振っている。

 その黒々とした瞳には、行き交う人々を映していた。




 ▲ ▲




「おー! 生きてたか! あんたら」


 冒険者ギルドの受付に座る女――アメリアは言った。

 受付は冒険者たちに適切な依頼を斡旋(あっせん)し、その進捗(しんちょく)状況を管理するのが仕事だ。


 ギルドにとって欠かせない役職である為、この仕事に就けるのはギルドからバッジを授かり、その能力を認められた者だけである。

 そのため、冒険者としての知識、戦闘経験も豊富だ。


 無論、アメリアも例外ではない。

 彼女は兎人(とじん)と言われる長い耳を持つ種族だ。

 今、その長い耳はしな垂れ、深紅の髪の中に混ざってしまっている。


 制服は着崩され、椅子に座る姿勢もあまりよろしくない。

 そんな状態でも彼女からは、微かに威圧感が放たれていた


「はい、危ないところでしたが……」


「少し手間取っちゃいました!」


 ジムとマリンが正直に答える。

 すると、受付の周りに設置されている休憩所にたむろする者達からヤジが飛んだ。


「畜生! 帰ってきやがったのか!?」


「へへぇ……、賭けは俺の勝ちだなぁ!」


 昼間から酒を飲み、下劣な賭けを行う者たちもまた冒険者だ。

 生活に必要な分を稼いでは、それが尽るまで仕事はせずただ時間をつぶす。


 それだけならば、危険を最低限に抑えた慎ましい生活と言えるのだが、ここにいる者達は暇を弄び、人の生き死にを娯楽にしていた。


「オラッ! クソ共! ココは酒場でも賭博場でもないんだぞ!」


 アメリアが激高し、懐から取り出した何かを彼らに向けて投げる。

 

 それは本物のナイフ。

 そのうえ、投げた勢いが凄まじく、当たれば血を見ることは明らかだ。


 しかし、アメリアに始めから当てる気はない。

 ナイフはドスッという音を立てて、壁に突き刺さった。


「へへぇーーっ! どこ狙ってんだ!」


 威嚇(いかく)の意図を察せなかった誰かが叫び、それにつられて休憩所からドッと笑い声がする。


 頭を抱え、アメリアが受付の机に突っ伏して(うめ)く。


「畜生……、最近こんなんばっか……」


 新騎士試験発表後、ギルドを訪れる者が増え、受付達は多忙を極めていた。

 人が増えれば仕事にありつきにくくなる為、休憩所でたむろする者も増える。


 賭けをやっていた冒険者は、勝ち負けを決めていただけでなく、帰らぬ者の捜索依頼を狙っていたのだ。


「とりあえず、帰ってきてくれて良かった……。あ、依頼の達成報告ね。じゃあ冒険者バッジを出して」


 マリンとジムは懐から冒険者バッジを取り出し、アメリアに渡す。


 アメリアは受け取ったそれを、近くに置いてあった透明な玉に近づける。

 すると、透明な玉の中に今までの戦闘の様子が浮かび上がってきた。


 この玉は『映写玉(プロジェクタボール)』と言われるもので、冒険者バッジとセットで運用する。

 原理や製造方法は重要機密とされ、運用する受付も知らない。


 冒険者たちの間では、戦闘時に発せられる魔力をバッジに記録し、それを再現しているという説が一般的だ。


 ともあれ、冒険者たちの仕事に欠かせない物だという事は誰もが理解している。


「えーと、『腕巨魔(アームサイクロプス)』と『木狼(ウッドウルフ)』。それに『穴蜘蛛(ホールスパイダー)』か? 一人でよく……、いや、二人で協力して……。んん? もう一人いないか……?」


 (ボール)を凝視しながら、アメリアが訪ねた。


 二人は顔を見合わせて頷くと、マリンが口を開く。


「実は、冒険者登録したい子がいて……」


「へぇ、それがこいつか。ふーん、悪くないんじゃないの」


 そう言うとアメリアは立ち上がり、受付の戸を開け、外に出てくる。

 その手には、書類がいくつか握られていた。


「外にいるのか? ここはうるさいから、外で話をつけてくる」


「はいっ、広場のベンチに馬と一緒にいます!」


 アメリアとマリン、それにジムは一緒にギルドの外へ出る。


 その背中を酔いどれ冒険者たちは、(うつ)ろな目で薄ら笑いしながら見ていた。

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