12、煌めくエルフの少女ピスタ
「【昇り岩】!」
自らを正確に狙った射撃に、慌てて自らの前に岩を隆起させるグレイ。
光の矢はそのまま岩に刺さり、消えた。
矢が岩で防げる事を確認し、安堵の表情を見せたのもつかの間、彼は新たな出来事に目を見開く。
音を立てて岩に亀裂が走り、中から根の様なものが飛びだしてきた。
根の浸食で脆くなった岩に、さらに数本の矢が刺さり、破片をばらまきながら完全に砕け散る。
射撃はまだ続く。
舞い上がった粉塵を切り裂き、一本の矢がグレイの腕に命中する。
「ぐうああっ!」
グレイは腕から根が突き出てくる様を想像し、思わず叫ぶ。
が、その気配はない。
「……あれ?」
傷口を覗き込むグレイ。
しかし、矢が刺さっていた部分は衣服が切り裂かれたのみで、肌に傷は無い。
その上、痛みも対してない事に気付く。
抑制玉の効果があるとはいえ、あまりにも薄いダメージ。
グレイは、緑の矢自体に対した威力は無いと判断した。
「なら、強引に近づいてしまえば! 【昇り岩】!」
ピスタとグレイの間に、いくつかの岩が飛び出す。
岩の大きさは小柄な者が丁度全身を隠せるほど。
大きさを抑えることで、必要な魔力も抑えているのだ。
その岩を隠れ蓑に、グレイはピスタに迫る。
「むっ……。【蔦の矢】!」
飛び出した岩とその間を移動するグレイに向けて矢を放つピスタ。
彼女が矢を放つ速度は、さらに速くなっている。
しかし、それでもグレイを捉えることが出来ない。
遂にグレイは、金色のひびがとどく距離までたどり着いた。
「【囲い岩】!」
金色のひびがピスタに向けて伸び、彼女を囲う岩を出現させる。
ピスタは素早い判断を下し、囲いから抜けるべく跳んだ。
これは、かつてグレイが戦った『腕巨魔』と同じ動き。
(【鋭い岩】で仕留めるか……。いや、玉の効果があるとはいえ、人に使う技じゃない。ここは……)
グレイは、宙を舞うピスタを見つめ、その着地点を予測する。
すると、ピスタもグレイの方を睨みつけた。
彼女も何か企んでいる、そう感じたグレイは素早く技を放つ。
「……っ! 【陥没岩】!」
ピスタの着地点に、人がすっぽり収まるぐらいの穴が開く。
「【薔薇の矢】!」
同時に、グレイに向けて深紅の矢が放たれる。
放った本人は、そのまま穴の中に吸い込まれていった。
「があぁ!」
腹に深紅の矢を受けたグレイが、うめき声を上げる。
【蔦の矢】と同じく、身を切り裂かれることは無いが、その痛みは増していた。
そのうえ、ただの矢ではないという部分は同じである。
刺さった真紅の矢はすぐには消えず、棒にあたる部分から茨が飛び出す。
その茨はグレイの衣服を切り裂き、体を締め上げる。
「ぐぅ! 痛っ!」
首は締め上げられているものの、窒息するほどではない。
それよりも全身を茨の棘で撫でられる方が、彼にとってよほど苦痛だ。
グレイが茨を毟り取っていると、ピスタの落ちた穴から大きな葉を持つ植物が飛び出してきた。
その葉の一枚に、ピスタは立っている。
この辺りの地中が柔らかい土だったせいで、服には土がこびり付いており、落下時に打ち付けた鼻が赤い。
「……【双剣型】」
弓の中央を両手で持ち、ピスタは唱える。
その瞬間、弓は中央で分割され、二本の剣となった。
【弓型】の時はただの葉の装飾だと思われた部分が、刃だったのだ。
ピスタは双剣となった『グロウラント』を構え、グレイを見つめる。
(接近戦なら、こっちにも勝機が……)
彼がその手を強く握りしめた時、彼女は予想外の行動に出る。
「ジッとしてて」
「えっ?」
双剣の刃が、グレイの体を切り裂くことは無かった。
代わりに彼の体に巻きついていた茨が、綺麗サッパリ取り除かれた。
「……つきあわせて、悪かった。でも、いい経験になった」
ピスタはそう言うと、立ち尽くすグレイを放置し、ポケットをごそごそと漁る。
「服の修繕費はもちろん出す。受け取って」
半ば強引に金銭を押し付けると、彼女は抑制玉と『グロウラント』をしまい始めた。
「あ、後。S級道具は隠した方がいい、できるだけ。貴重だし、分かる人には分かるから……」
ピスタは自らの身支度を終えた後、地味で小さな袋をグレイに差し出す。
一礼をし、グレイはそれを受け取った。
「あ、ありがとうございます」
「お礼を言うのはこっちの方。ありがとう」
感謝の言葉を述べると、泥に汚れたエルフの少女はグレイに背を向け、歩き出す。
「待って! やっぱり、どうして戦いを挑んだか……、教えてくれませんか? 本当の理由を……」
ピスタはジックリと間を開けてから、ゆっくりと振り返り、答える。
「私とあなたが似てると思ったから。年とか、道具の事だけじゃなくて、境遇とか、なんとなく感じる。私も最近、ここらへんに出てきたばかりだから」
「え? 分かりますか……? 田舎者って……」
「うん。来た方角からも」
「……そっちにはウード村という良い村が」
「そこも田舎」
「……はい」
グレイは引き下がった。
口下手なピスタであるが、その一言一言は強い。
「へー、あなたもおのぼりさんなんだ。一人で大丈夫? 何なら私たちと……」
口をはさむタイミングを探していたマリンが、ここぞとばかりにまくし立てる。
ピスタは素早く首を横に振った。
その際に髪を結んでいた紺のリボンが解け、風に乗ってフォルレイトの方へ飛んでいった。
「私は……、私の目的があるから。それにあなた達とは、同業者として高め合っていきたい」
「ライバルってこと? ふふっ、それもカッコいいかも!」
マリンはあっさり納得した。
ほんの一瞬だけ残念そうな顔を見せたグレイも、ピスタの言葉に相槌を打つ。
二人の反応を見て微かに微笑んだピスタは、二人に背を向け、飛んで行ったリボン追いかけていった。
「んー? でもなんかはぐらかされた感ある……。ま! 最近ここに来たばっかなら、しばらく滞在してそうだし、街中でまた会えるね!」
マリンが自分の中で、出来事のまとめを終える。
「にしても不思議な人だった。完全に口をはさむタイミングを見失ってしまったよ」
黙って一部始終を見守っていたジムが、やっと口を開く。
その視線はどこか遠くを見つめていた。
「あれがS級道具の力……」
未だリボンを捉えられないピスタと手に握られた『クレーアート』を交互に見つめ、グレイが呟く。
「大丈夫? お腹に矢が刺さってたけど? それに、独特の雰囲気がある娘だったね」
心配そうに話しかけるマリンに、グレイは『クレーアート』を指差し、はつらつとした笑顔で答える。
「きっと、僕にこれの扱い方を教えに来てくれたんだよ。優しい人だよ、きっと……」
「え、まあ、戦った人が言うならそうよね! 『戦いは口ほどにものを言う』と聞いたことがあるし」
「僕はないな」
二人は顔をつきあわせ、笑みを浮かべた。
「そろそろ、我々も行きますか。彼女も無事リボンを捕まえたみたいだ」
そう言って、ジムがモリーを引いて歩き出した。
フォルレイトの門の手前でリボンを捕まえたピスタは、慣れた手つきで髪を結び直し、ツカツカと門をくぐって行く。
「はい! いよいよ……、かぁ……」
グレイは乱れた服を直し、汚れを手で払う。
そして、彼はしっかりとした足取りで、森林都市フォルレイトへ向かって行った。




