11、エルフのロマンチスト
翌日、グレイとマリン、モリーに乗ったジムの三人と一頭は、ウード村からフォルレイトに向かう草原を進んでいた。
草原といっても、一部は草が刈り取られ、そこが道となっている。
天気は快晴で、降り注ぐ日差しは暖かい。
吹き渡る風は少し強く、草が音を立ててなびいている。
これほど美しい草原でも、夜になれば森から出てきた魔物が出没するため、安全とは言えない。
しかし、今のグレイ達はそんなことお構いなしに景色を楽しんでいた。
「朝の陽ざしと草木の香りが、気持ちいいー。早めに出発してよかったね!」
「でも、草の匂いはちょっとキツイかな……」
一行は他愛のない会話をしながら、草原を突き進む。
そして、昼下がりにはフォルレイトの手前までたどり着いた。
「やっと戻ってこれたわ。グレイ、あれがフォルレイトよ」
「おー!」
グレイの視線の先には、都市の名前が書かれた大きなアーチがある。
その奥に開かれた門と木製の外壁が見えた。
「ん? あそこに誰かいないか?」
ジムが不意に呟く。
彼の指はアーチの上を指している。
「えー、あんなところに……。あっ!!」
マリンもそれに気づき、驚愕の声を上げる。
アーチの上に腰掛け、こちらを見つめる少女が一人。
その長い金髪はツインテールにセットされ、風になびいている。
目つきは鋭い、髪の中からチラチラのぞく耳のように。
「わぁ! あの人エルフだよ!」
「えっ、本物?」
「うん。でも、あそこまでかわいい娘は初めて」
いささか気分が高揚しているマリン。
グレイも、本や新聞の絵でしか見たことのない存在を、目の前にして興奮している。
エルフの少女は、真顔のままアーチから跳んだ。
そして、興奮する二人の冒険者の前に着地する。
ふわりと捲れ上がったオーバーサイズコートの下には、ショートパンツ。
服装はすべて、紺地に金のラインというデザインに統一されている。
どこか高貴な印象を抱かせる出で立ちの中、背中に背負った大きな袋だけは、不自然に質素なものだった。
「私はピスタ。ピスタ・ヴァージャー。あなたは?」
エルフの少女は立ち上がり、グレイを見据える。
その視線は、目の前にある者を貫きそうな程、力強い。
「ぼ、僕はグレイ・ソイル。アース鉱山から来ました……」
ピスタの威圧感に、グレイは一歩後ずさって答える。
それを聞いて少女は、背負った袋を降ろし中身を取り出した。
「手合せ……、お願いできる? 私と……、この『グロウラント』の。同じS級道具所持者として」
「……へ?」
ピスタの手には、袋から取り出された大きな弓が握られている。
それには、草と蔦の意匠が凝らされ、独特の光沢を持っていた。
確証はないが、直感でグレイはこの弓がS級道具だと理解した。
自然とその手が、腰に装備された『クレーアート』に伸びる。
「ちょっと! いきなり出てきて戦え、って強引じゃない!? あ、私はマリン・ネイビーよ」
今まで我慢していたマリンが、抗議の声を上げる。
その声でグレイは我に返ったが、その手は腰から離れていない。
「そうですよ。怪我とかしたら、どうするんですか?」
「そこは問題ない。『抑制玉』を使うから」
ピスタはコートのポケットから、手のひらサイズの黒い球体を取り出す。
球体を見てマリンは目を見開く。
「それを持ってるってことは……、あなたも冒険者ね!」
抑制玉は各ギルドで貸し出されている玉だ。
同意の上、同時に触れた者同士の魔力を一部交換し、体に記憶させて、その魔力からなる魔法の威力を抑制する。
それと多少、魔法輝の効果も高めてくれる。
効果時間はそれほど長くなく、同意が必要という点から、純粋な戦闘には使えない。
そのため、主に味方同士の模擬戦などで使用されている代物だ。
「別に私は、あなたを傷つけようとしてるわけじゃない。ただ、体験してみたいの。S級道具所持者同士の戦いを……」
再びピスタの目がグレイを見据える。
グレイは無意識に頷いた。
「分かりました。少しだけなら」
「グレイ!」
「試すだけだよ。僕も他のS級道具がどんなものなのか、気になる」
マリンの静止を振り切り、グレイは抑制玉にその手で触れる。
すると、球体がぼうっと淡い緑色の光を放つ。
その光は大きくなり、玉に触れる二人を包んだかと思うと、その体に吸い込まれていった。
「降参するときは、そう言うように」
ピスタはそう言い放つと、弓を腰のベルトに固定した。
その直後、バック転を繰り返し、グレイから距離を取る。
「わぁ! かっこいい……」
先ほどまでピスタに不信感を抱いていたマリンも、その動きのしなやかさに思わず心を奪われる。
そんな彼女を一瞥し、グレイは少し苦笑いをした。
「【蔦の矢】!」
凛とした声が辺りに響いた瞬間、ピスタから緑に光る矢が放たれる。
戦いはもう始まっていた。
「うわあっ!」
驚愕の声を上げるグレイ、幸いその矢は足元に刺さった。
グレイは気を引き締め、『クレーアート』を握りしめる。
(よそ見してる場合じゃない。それに始めに距離を取られたのがまずかった……。あれ?)
脚に違和感を感じたグレイは、思わずまたよそ見をしてしまう。
彼が立っているところは道、つまり草は生えていないはずだった。
しかし今、彼の脚には植物の蔦が絡みついている。
(どうして、こんなところに蔦が……)
戸惑うグレイに向けて、容赦なく次の矢が放たれた。




