日々
「“来たれ!雷!”」
声に合わせて天から幾筋も降り注ぐ稲光に、周囲からはバチリと音が立つ。次々と対峙した鎧姿の一団が崩れて行くそばを行き過ぎ、更に奥の一団へ躍り掛かる四人。一切肌の見えない完全武装をし、各々が別々の武器を振るうのだ。
激しい剣戟の中、その背後から一人、先を行く四人の動きを見定めて、稲光を操っている姿がある。背後から躍り掛かる者にすら、視線をやらずして稲光を這わせて倒した――。
ネイザードは軍事に長けた強国として、世界に名を馳せる。その響きに多大な貢献を果たしているのが、ネイザードが誇る騎士団の存在だ。
『常勝』を掲げる騎士団に於いて、一騎当千の五人の騎士の名を知らぬ者はない。
大きく五団に分かれている騎士団。その第一騎士団の団長クライバーン・シュレイアと、彼が率いる騎士四名――第一騎士団はその五名のみだ。
通称【クライバーン四卿】――それぞれがその戦績から、元々の出身を問わずして特別な爵位を賜った者たちで、彼ら四卿は闘爵二位を持つ。彼らを率いるクライバーンは最高位の闘爵一位を得ている。
今日も恙無く任務を完遂し、揃って国王へ報告の為に登城した。彼らの動きに合わせ、軽やかにカチャカチャと鎧が鳴る。颯爽と城内を歩く五人に、また羨望と賞賛の眼差しが向けられていた。
広い城内を無言で進む。玉座の間手前のスペースでフルフェイス型の兜を外し、小脇に抱えると、開かれた扉を潜った。
クライバーンを先頭に、四卿が一歩後ろに一列に並んで続き、揃って片膝を付く。
「第一騎士団、只今リドア公国の任より帰還致しました」
いつも通り低く響くクライバーンの声に、ネイザード国王が満足げに笑う。
「ご苦労であった。面を上げよ」
「は……シーヴァ、書簡を」
呼ばれたシーヴァが、預かっていた書簡を大臣へ渡す。書簡は恭しく掲げられ、大臣から国王へ。
「……うむ、しかと」
広げたそれに視線を這わせた国王が、また満足げに頷く。
「それでは…我々は失礼致します」
「よく休め」
「ありがたきお言葉…」
今一度、しっかりと頭を下げた一同が玉座の間を辞して行く。玉座の間を出たところで兜を被り直せば、財務司の大臣が待っていた。
「此度の報奨です」
金の細工が施された献上台には、両手に載る程度の箱がある。絹に包まれたそれをクライバーンが一瞥すると、一人が進み出た。
「団長に代わり、頂きます」
「お願い致します」
第一騎士団最年少四卿のロブ・イグニアが、いつも通りにクライバーンに代わり、箱を預かる。団内最年少であるからか、報奨などはいつもクライバーンが一瞥してからロブが受け取っていた。
報奨贈呈を任されている財務司の大臣は、この黒い髪と瞳の、年若い騎士とやり取りをする事が多い。報奨を国民に還元して欲しい…と、返還して来る事もしばしば。
「では…失礼致します」
ロブが告げると、またクライバーンが先頭を歩き出す。財務司たちから見ても、彼らが金に執着しないのは目に見える。
彼らのうち一名以外は、決して裕福な環境に育って来たわけでなく、寧ろ中層以下の出だ。そこに欲を見せないところが、崇高な騎士としての好感に繋がっていもする。
歴代最高峰…そう呼ばれるに相応しい彼らを、財務司は見えなくなるまで見送った――。
―第一騎士団、団棟―
下城した彼らが一番に向かうのは、彼らの控え室兼待機部屋や居住スペース、鍛練用の中庭もある団棟だ。王城の城壁の周囲に点在する各騎士団専用の建築物は、内部には所属騎士以外立ち入れないが観光名所でもある。ロブが解錠して扉を開けば、クライバーンからまた先を行く。シーヴァが入ってから、ようやくロブが中に入り、施錠した。
「だぁぁぁ!クッソ暑い~!」
喚きながら兜を脱ぎ、更に鎧も取り払う。兜は皆脱いだが、そのままの勢いで上半身裸になるのはただ一人。四卿一の体躯を誇るカルナバ・テオロッソだ。ド派手な赤髪が印象的だが、団内では見慣れたもの。
鎧の下には専用のインナーを着るものだが、カルナバは絶対に着ない。鎧のメンテナンスの事を考えれば、決して疎かに出来はしないのだが。
「ターニャが完璧にやってくれるからな」
と、言うのは彼の弁だ。唯一の妻帯者であるカルナバの嫁ターニャは、今も預かり知らぬうちに騙されていそうな程におっとりのほほんとした女性だ。
シーヴァ曰く、“カルナバに対する理解がありすぎて、常識があるか心配になるレベル”の出来た嫁。カルナバの鎧一式のメンテナンスも、結婚から五年、欠かさない彼女の仕事だとか。
「報奨金、分割しますか?」
ロブが絹の包みから箱を取り出し、包みの絹を丁寧に畳みながら確認する。彼らは給金とは別に賜る報奨金を、毎回分けたりはしない。
「ロブ、俺は四万だけもらってくぜ」
「ビッテ…また貢ぎ物ですか…」
ブツブツ言いながらも、ロブが分けて渡す。プラチナブロンドに碧眼の品のある男、悪く言えば騎士にあるまじき軟派な優男…こちらもまた団内唯一の貴族騎士のビッテ・アゲイラだ。
「貢ぎ物なんかじゃねぇよ、レディたちへの愛の形だからな」
「そのうち刺されちまうぞ、ビッテ。早く嫁もらえって、俺みたいに」
出会った女は口説く…と豪語するビッテは、宵越しの金は持たないので、普段から金の管理はロブにすっかり任せている。
「先週からもう二十万使ってますからね!今週はそれだけですよ」
「ロブ母ちゃんだな、嫁いらずかビッテ?」
「おぉ、助かってるぜ」
ロブの小言が多いのもすでに日常だ。八人兄弟の長男ともなると、育った環境故にこうなるのは仕方がない。そもそもそう言う男しかいないのが、実は第一騎士団なのだ。カルナバとビッテはロブを母ちゃんと呼びもする。
入団からすぐにそんな立場に追いやられた青年は、所属からまだ二年。それでも日々逞しく成長しているのだ――騎士団のおかんとして。
「全く……シーヴァはよかったですか?」
「大丈夫よ、ありがとうロブ」
戻るや否や、クライバーンと共に鎧のメンテナンスを始めていたシーヴァは、それだけ答えてメンテナンスを続ける。団内唯一の女性騎士だ。黒髪にアメジストの瞳はネイザード周辺にはない組み合わせ。
彼らの長であるクライバーンは黙々と作業をしているが、ロブは団長である彼には確認をしない。
「んじゃあ、俺は帰るぞ。ターニャが待ってるからな」
「俺も。レディと約束がある」
カルナバとビッテは装備を専用のキャリーケースに収めると、早々に引き上げる。鎧のメンテナンスはそれぞれ、嫁と執事に任せるからだ。
「僕も三万頂いて、今日は帰ります。シーヴァ、明日は八時でよかったですか?」
「いつも悪いわね、お願い」
「了解、では」
ロブは残った報奨を団室内の金庫に収めて、帰り支度を始めた。彼も鎧は持ち帰る。騎士を目指す弟たちに騎士の証である鎧のメンテナンスを教えている最中だとか。
別に自宅がある三人は、任務が終われば帰って行く。だがクライバーンとシーヴァは第一騎士団の団室に自室を作って暮らしている。シーヴァには自宅があったが、彼女の個人的な已む無き事情から、クライバーンが暮らす団室に暮らすようになった。
それは四年前の入団後すぐの事だ――。
この国では女性騎士も数少ないが、決して珍しいわけではない。寧ろ護衛対象が女性の場合には、必ず一人は求められる。入浴中や就寝時、また日々の女性特有の細やかな習慣などは、男性騎士だと頼み辛いものもあるからだ。
勿論、そう言った部分に下心ありきで女性騎士を使わない淑女もいたりしたが、淑女としての品位を問われたり、噂が回って慎ましやかさがないなどと爪弾きにされる事が実際にあった。そんなところから、淑女であればある程に護衛に付く女性騎士の割合を増やすのが、今やネイザードの淑女たちのステイタスにもなっている。
シーヴァは見習い期間を経る事なく、第一騎士団に繰り上がった逸材だ。それも当然、彼女が“魔法”使いだから。世界広しと言えど、“魔法”は非常に稀有なもの。
“魔法”は幻の国、魔国サランティア特有の技だ。世界ただ一つの“魔法”使いたちの国と呼ばれる、その国民の約九割が魔法使いであり、非常に閉鎖的な単一血縁による国民構成である事から、話は聞けどその国の存在や“魔法”、その地に踏み入れた者の話は皆無。そこから幻の国とも呼ばれる。
お伽噺の領域だった“魔法”使いが、騎士志願ともなれば、ネイザードも即戦力として迎え入れた。実際、彼女は力で見たなら淑女並みの非力さだが、何分戦い慣れていて、最前線の騎士たちの痒いところに手が届く存在となる。
真っ向勝負を掲げる騎士たちだが、それはあくまで一対一に関して、だ。騎士とは呼ぶが、戦士にも近い。個々の能力だけで正面から行けるばかりでない部分に、彼女の能力は遺憾なく発揮された。
彼女が入団した時には、すでにロブ以外の四卿――カルナバとビッテは在籍しており、第一騎士団初の女性騎士に淑女たちからの護衛依頼は殺到した。淑女だけでなく、物珍しさからの貴族からの依頼も相次いだ。
騎士団を統括する軍事司は、競い合うように彼女への依頼料を釣り上げ合ったり、賄賂を以て優遇されようとする貴族たちの水面下の小競り合いに、ついには国政会議の議題に挙げた程。
護衛として国内に派遣する事で、国衛や国外への派遣に応えられなくなるようでは、第一騎士団所属の騎士としては問題だった。以後、第一騎士団所属の騎士への護衛依頼は、国政会議にて承認が必須とされたのだが。
そんなシーヴァが団室暮らしをするきっかけは、ネイザードの騎士たちの頂点であるクライバーンだ。
ネイザード国内最低層と言って過言でない、ナハム――シーヴァはそんな国内の底辺から成り上がり、国一番の誉れに届いた。劣悪な環境に耐えて来た彼女は、どんな場所でも生きて行けると自負していた……団室に入るまでは。
元々劣悪な環境は見慣れ、感じ慣れて来たが、その環境がそうなった理由は理解していた。何もかもが整備不足で、低層の暮らしすら出来なくなった者たちの安住の地がナハムだったからだ。
「第一騎士団、団長のクライバーンだ」
「………」
クライバーンやカルナバ、ビッテが自己紹介を済ませて行く間も、シーヴァは怒りにも似た感覚に苛まれていた。
「(何なの…何なの、ここ!王城のすぐ間近にこんな劣悪な環境があったなんて…っ!)」
「……シーヴァ?」
何の反応も見せない彼女。視線が定まらない様子に、彼らが首を傾げる。そうして小刻みに震えているのに気付いたビッテが、ふっと笑った。
「可愛いな…緊張しているのか?心配はいらない、俺が……」
いつも通り、実に自然に彼女の肩を抱こうとした手――しかし肩に触れる直前に叩き落とされる。
「…ん?」
「……いで…」
俯いた彼女が呟く。始めが聞き取れずにビッテが問うより早く、彼女が距離を取った。顔を上げて見えたその目が…アメジストに輝いて――。
「触らないで…」
「…は?どうかし……」
懲りずに手を出すビッテから更に距離を取ると、彼らはビリビリと空気を震わせる音を聞いた気がした。
「私に触らないで。王城間近にナハムよりも劣悪な環境があるとは思わなかった。第一騎士団の団室が……どうしてこんなに汚いの⁉」
彼女の悲鳴のようなそれに、彼らは揃って呆然。確かに常日頃使う彼らでもお世辞にも綺麗とは言えないが、ナハムと比較されれば間違いなくこちらを選ぶ。
「信じられない…ここが本当に第一騎士団の団室なの⁉」
彼女から感じたのは怒りだ。それも殺気混じりの。戦場で肌身に感じるものとはまた異質な殺気。同時に空気を震わせる音がはっきり聞こえ、ビリビリだった音はバチバチに変わった。
「え…ちょっと…バチバチ言ってる、か?」
カルナバが周囲を見渡し、彼女に視線を戻せば、僅かに華奢な体躯が煌めいているように見える。
「……本当に“魔法”みたいだな」
とんでもなく他人事のように感心して呟くが、僅かだった煌めきは次第にはっきりと、確かにその輝きを強めているのだ。天を走る稲光にも似た帯は、彼女を取り巻いている。
「シ、シーヴァ!落ち着こう、な?」
嫌な気配を察したビッテは、彼女を宥めようと動く。カルナバが当てにならない事はわかっている、ならばとクライバーンに助けを求めてみるも――。
「……“魔法”使いは本当にいたんだな…」
「クライバーン!感心してる場合じゃねぇのがわからねぇのか⁉確実にやられちまう感じだぞ、これは!」
頼りにならない同僚と全く同じ反応をする団長に、ビッテは騎士になって以来初めて、女に殺される結末を描いた。
「……いや…すごいな…これは雷か?」
「…おぉ……すごいわ、これは」
クライバーンとカルナバはただ感心してるが、今もまだ彼女の怒りは増している。その怒りを察する事が出来ない二人。耳に届く音が小刻みから間隔を広げ、更に大きくなった。
来る――!
覚悟を決めた瞬間、体内を駆け抜けた何かにバランスを崩して床に手を突いた。躯は痺れて思うように立ち上がりも出来ない。それはクライバーンとカルナバも、だ。
「……辞退します」
彼女はそう告げて団室を出て行った――。
結局、痺れが収まるなり慌てて彼女を追ったのだが、汚物をみるような冷ややかな視線を投げ掛けられ、騎士志願を取り消すと宣言されてしまう。彼女の足は王城に向かっていた。
「満足に最低限も得られず暮らす者たちもいる。望んで手に出来ない者たちがたくさんいる。騎士として恥ずべき事と知れ」
また彼女が稲光を纏い始めたので、騎士生活五年以上の国内最強であるはずの彼らが、情けない理由から初対面だった彼女に謝罪した。
渋々戻ったシーヴァは団棟内をくまなく確認し、諸悪の根元がクライバーンである事を突き止めるや、団棟を保つ為に、自宅ではなくクライバーンと同じ団棟の一室に暮らす事を決めたのだ――。
「騎士としては敬意を示せても、人としてダメ。第一騎士団の団長が私生活ズボラとか…士気に関わる」
こうして四年間、今もクライバーンと同じ建物に暮らしているシーヴァだ。
当初は如何に第一騎士団団長とその部下とは言え、男女が…と言った反応もあったが、カルナバとビッテの進言もあり、何とか今の形に収まっている。
脱ぎ散らかした衣類はシーヴァが纏めて二人分を洗濯。寝具も洗ったり干したりはしないので、彼女が纏めて行う。食事も言わなければ一日食べずにいる事もあるので、一緒に食べさせる。鍛練もは止めないとやり続けるし、風呂嫌いだ。眉や髭の手入れもシーヴァ任せ。
所属して見えた第一騎士団団長の素の姿に、シーヴァは失望を通り越して悟りを開いたと、団内では言われている。カルナバ曰く“シーヴァはクライバーンの嫁”だそうだが、シーヴァが初見以上に嫌そうな顔をするので、雷の一撃を恐れて口にはしない。
騎士団の鍛練は個別、団別、合同とあるが、第一騎士団は基本的に個別だ。時折、見習いが所属する第五騎士団へ鍛練に派遣される事はあるが、ほぼ個人が好きな時間に好きなだけやる。
ロブは先輩騎士に相手を頼む事もあるが。
朝七時過ぎ、ロブが団棟に姿を見せれば、食べたはずだが腹の虫が騒ぐ。団室のテーブルでは、ちょうどシーヴァが朝食の準備をしていたのた。
「おはようございます、シーヴァ」
「早かったわね。よかったらどう?」
「是非!あ、手伝います!」
朝食を勧められ、ロブはパッと表情を明るくする。
イグニア家の食卓は毎日戦場と化す。下は二歳から上は十九歳まで、食べ盛り弟妹の生活を支えているのがロブだ。下に譲るのは当たり前。自分の分は何とかなる。
行商の父は一番下の弟が産まれた直後に、行商先で強盗に積み荷ごと命も奪われた。それ以来母は病がちだが、家の事は任せられる。
「ロブ、座ってなさい」
そんな彼を知るシーヴァは、ロブに手伝いはさせない。暖かなスープに焼きたてのパン、野菜がゴロゴロ入った鶏の煮込み。シーヴァは料理人並みの腕前で、第一騎士団の食事を作る事も多いのだ。
「冷めないうちに食べて?クライバーンは今、シャワーに行かせてるから」
「遠慮なく、いただきます!」
「お代わりあるから」
「はい!」
まるで姉だ。ロブは入団当初からシーヴァがに世話をしてもらっていた。一から教わったのがシーヴァでよかったと常々思う。彼女以外の第一騎士団の騎士たちは、知れば知る程にギャップが激しい。
クライバーンは騎士の鑑とまで言われる男、カルナバは無表情が多くて怪力自慢、ビッテは物腰柔らかで貴族らしい品も備えている。曲者揃いは強者集団ならば当然だと理解していたロブだが、内側から見れば、それ以外は駄目な男の集まりなのだから。
そんな中でシーヴァは常識人だ。“魔法”使いの女性騎士――淑女のように品も礼儀も常識も…ここが重要だが、常識もある。第一騎士団の規律は彼女によって守られているのだ。
ゆったり食事をしていると、クライバーンが姿を見せた。
「…腹が減った」
「当たり前。結局夕べは食べずに寝たからでしょう?」
ロブは目のやりどころに困りながら、彼女を見る。平然と食事を続ける様は最早尊敬だ。席に着くクライバーンに、スープと鶏の煮込みを取り分けると、また食事を再開した。
「あと…ちゃんと服を着てから出て来て。斬り落とすわよ?」
ついでのように付け足されたセリフに、小さく悲鳴を上げたのはロブだ。思わず想像して身を竦ませる。
「服がなかった」
「ちゃんとチェストに置いたわよ。しかも声も掛けたでしょう、この盲イバーン」
「食ったら着る」
そう言って食べ始めたクライバーンは、彼女に諌められても、そこにあからさまな罵倒が含まれていても気にした風もない。彼女も彼女で、自分の食事を済ませると席を立ち、浴室に用意しておいた彼の着替え一式を持って来て、食卓の彼の目に入るところに置いた。
「(こう言うところが夫婦なんだよな…素っ裸で出て来るクライバーンもあり得ないけど、動じないシーヴァもすごい……やっぱり二人、それなりの関係…なのか?)」
入団からずっと、ロブが抱える疑問だ。からかい半分にビッテが二人を夫婦呼ばわりしても、シーヴァは「あり得ない」と言うだけで、クライバーンは無反応。
「シーヴァ」
呼んだだけで要求が理解出来る時点で、ロブとしては夫婦確定なのだが。クライバーンのマグカップにコーヒーが注がれる。
「ロブは?」
「あ、いただきます」
マグカップと共にミルクとシュガーポット。ロブ以外は必要としていないが、こうしていつも用意してくれる。そんな気遣いも嬉しい。
食事を済ませたクライバーンは、移動もせずにそのまま着替えを手にして身に付け始める。シーヴァはもう何も言わない。
彼は自室に戻ったかと思えば、剣を手に出て来た。向かう先は中庭だろう。日がな鍛練を繰り返すクライバーンのストイックさは、さすが騎士団長…だが。
「さて…始めますか?」
「やっと出てったわね」
そうしてシーヴァとロブの二人が取り掛かるのは、団棟の掃除だ――。