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ゼロ・アワー【後篇】

 集合時刻は0850だが、ほとんどの者は0830には顔をそろえていた。


 全員、すでに突入用装備に身を固めている。黒い耐火耐衝プロテクターを身に着け、腰には携帯火器を帯び、頭部にはそれぞれに合わせたヘルメットを装着している。

「サカエ、客が来てるそうだ」

 一通りの点検を終えた横田に、ルイス・ホン捜査官がそう伝えた。

「客?」

「東京支局の人間らしい」


 らしい、と言うからにはトーゴではないだろう。ホンはトーゴとも面識がある。


「女の子みたいだよ。待たせるなんて無粋だろ?」

 ホンに半分冷やかされ、仲間のからかいの声を背中に受けながら、横田は待機エリアから元来た方向に出て行った。

 ヘルメットだけは途中で外し、小脇に抱える。

 民間機乗降エリアに程近いスタッフ待機ルームに、その客はいた。

「木村君か」

 横田の物々しい装備に、亜紀が目を丸くした。

「忙しいのに、ごめんなさい。……あの、どうしても、渡しておきたいものがあったんです」


 そういって亜紀が差し出したのは、白い錦織の御守袋と、小さな人形だった。


「これは?」

 御守袋のほうは理解できるのだが、人形のほうは良くわからない。よほど怪訝そうな顔をしていたのか、亜紀はちょっと困った顔をして

「典子が、あ、あたしの友達なんですけど、幸運のお守りって言って、作ってくれたんです。笑われるかもしれないけど、なんだか渡しておきたかったから……忙しいのに、ごめんなさい」

 勢い良く頭を下げ、肩に触れる程度の断髪が揺れた。

「ああ、いや。ありがとう」


 子供っぽい行為だが、心遣いは温かい。


「じゃあ、これはお借りするとしよう。任務が終わったら、返しに行くよ」

「え?……あ、じゃ、直接返しに来てください。約束、してくれますよね?」

 生きて帰ってくる、という意味は通じたのだろう。亜紀は明るい表情になって小指を出した。

 確かにまだ子供だ。指輪のはまった華奢な小指に、自分の指を絡めながら横田はそう思った。

 ごつい戦闘用グローブのはまった自分の手と比べると、亜紀の手指は小さく、細い。

「さてと、君もそろそろ、朝のコースが始まる時間だぞ」

 時計は0845を指している。監視局研修コースは朝9時スタートだ。

 そう指摘すると、亜紀はちょっと肩をすくめ、おどけたような笑顔になった。

「ぶっちしようかな~、と思ってるんですけど」

「駄目だ。ちゃんと受けておかないと、アルバイトに差し障るぞ」

「……そーですかぁ?見送りしようかな、とか思ってたんですけど」

「いいから行け」

「はーい」

 亜紀が出て行ったのを確認してから、集合場所に戻る。


 戻ってすぐに、搭乗時間になった。


 戦闘用宇宙軌道機は、軍用飛行機と大して変わらない。

 滑走から加速へ。そして上昇するのは、体で感じ取ることが出来た。

「総員、カプセル搭乗!」

 アニー・ホールの声が響く。

「発射に備え、待機。ピボット離脱後30秒で射出を開始する」

 初めて乗り込む射出カプセルは狭く、モニター画面に表示されるゼロアワーへのカウントダウン表示が目障りだった。

 減っていく数字は二つ並んでいる。一つは時間線転移までの時間で、もう一つはカプセル射出までの時間。

 一つ目の表示がゼロになり、耳障りな警報音が鳴る。

 転移の衝撃は感じない。横田はもう一つの数字をにらみつけながら、長い時間を待ちつづけた。

 わずか70秒が、永遠にも感じられる。

 数字がゼロになった瞬間、横田はシートに押し付けられた。

 爆発的な加速、それから開放。

「5番機、機能異常なし。正常に加速中」

 横田はそう報告し、迫る地表に視線を据えた。

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