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ゼロ・アワー【中編】

 強制捜査官ブリーフィングには、独特の空気がある。

 おそらくそれは、メンバーに退役軍人も少なくない事が影響しているのだろう。


「カプセルで突入か、ぞっとしないね」


 ブリーフィングがわずか15分で終わった後、横田も顔なじみの捜査官がぼやいた。

「サカエは初めてだったね」

「ああ。君は?」

「二度ほどやったよ。気持ちのいいもんじゃなかった」

 空中ピボットから飛び出した後、カプセル射出されるのにはれっきとした理由がある。

 それは皆わかっているのだが、しかし頭で理解していることと現場で感じることは違う。

「ほとんど素っ裸で、敵めがけて落ちるんだから。まあ、今回は任務としては単純でいいけど」

 上空から突入し、敵地下施設を破壊。

 それだけが任務だ。味方爆撃機が先に、地上施設を沈黙させる手はずになっているが、先行部隊が失敗すれば、突入部隊は地上施設からの攻撃を受けることになる。


 これはすでに捜査ではない。A級強制捜査官だけが許可された、破壊行動だった。


「彼女がいるんなら、会ってから行きなよ」

 ごつい機械の腕が、横田の背を乱暴に叩いた。

 これが常人だったら、大怪我必須だ。

「あいにくこの間、墓参りに行ったところでね」

「ああ、悪いことを言っちゃったね」

 軽く咳ばらいをした相手の純粋さに、横田は苦笑した。

「気にするな。それより、君も出かけたほうがいいだろう」

 アニー・ホール強制捜査官には夫と、三つになる子供がいる。

「そうだね。じゃ、明日の朝、0850に会おう」

 軽く手を上げ、ホールは立ち去った。

 横田はと言えば、明日の朝までやることも無い。宿舎(本部勤務期間中は当然、捜査官官舎住まいだった)に戻ってもいいのだが、がらんとした部屋に戻るのも虚しい。

 下手をすれば、今日で娑婆の見納めになるのだが、今回は実感が薄かった。


 そうなると街に出て騒ぐのも、気乗りがしない。


 なんとなく単車を走らせて、街を離れてみることにした。

 本部のあるペルシルも、中心部を離れれば牧歌的な風景が広がっている。猥雑な街を高速で抜け、ふと気がつくといつもの場所で単車を止めていた。

 今は失われた場所に、どことなく似ている風景だ。静かに流れる川のそばで、単車のエンジンを切る。


 静けさがあたりに広がり、どこかで長閑に鳴く鳥の声だけが聞こえてきた。


 単車を降りて、川岸の草むらに寝転がる。

 そのまま眠ってしまったらしい。気がつくと、誰かが横田の顔を覗き込んでいた。

「あ、やっぱり横田さんだ」

「……木村君?どうしてここに」

 起き直って改めて見ても、それはやはり知った顔だった。

「今日、お休みなんで、免許持ってる同期の子に運転してもらってドライブに来たんですよ~」

 東京支局への採用が内定している、木村亜紀だった。

 いや、つい先日採用になり、今は研修期間中だったか。そんな事を思い出しながら、

「いや、そうじゃなくてだな。なんでこのペルシル線にいるのか、ということなんだが」

 と問うと、

「バイトの研修です」

 そう、のんびりした答が返ってきた。

「……バイト、ね」

 亜紀の口ぶりだと、ファーストフード・ショップの店員と同じようなアルバイトに聞こえる。

 横田が明日出かける先を考えたら、えらい格差のある話だった。

「横田さんこそ、どーしたんですか?なんか、訓練で忙しいって聞いてたんですけど」

「訓練は終わったよ」

「あの~、こんなこと聞いていいのかどーかわかんないですけど、……また、危ないとこ行くんですか?」

「まあな」


 それ以上は話せないし、話せたところで話す気もなかった。


「いつですか?」

「明日の朝だな」

「そっか……」


 亜紀もそれ以上、聞いては来なかった。

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