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開く扉

 



 結局、立ち止まった自分だけが時を止めていた。




「あれから、もう一箇月経つのねぇ」

 しみじみと、母親が呟く。ノヂシャは机でのんびりと茶に口を付けた。

 イリスとの邂逅から一月。ノヂシャは塔ではなく、実家にいた。あの日イリスの城から、ノヂシャは真っ直ぐ町の中心地に程近い家へ帰って来た。

 久しい町は、誰も髪を短くしたノヂシャに気付かなかった。おかしかった。引き籠もる前はあんな騒動を起こしたのに、町の皆が忘れていたのだ。精々、家の父親母親、若い衆や知人や近所のみんなが驚いただけだった。

「父さん、凹んでたわねぇ。こんなにノヂシャを想う自分じゃなくて、ぽっと出の城の人間にって」

 笑う母親は穏やかだった。あの日塔でしていたように自宅兼父の、そして今はノヂシャの仕事場でも在る家の掃除をしながら、快活に笑っている。

  やはり塔ではどこか無理をしていたのは否めなかったから、少しだけ、ノヂシャは気分が軽かった。

「ねぇ、お城どうだった?」

「どうって?」

「だって、あんた、王子様に呼ばれたんでしょ!? どうだったの格好良かったのどうなのよ!?」

 ……どこの娘か。軽いのも考え物だとノヂシャは纏めている髪に触れた。

「母さんも見たかったなぁ、王子様! もう見られないの、残念ねぇ」

 母がぼやく。そう。城の『眠り姫』こと王子イリスは、もうこの町を見下ろす城にはいなかった。


 本城に帰ったのだ。母親が言うには、前から本城の遣いが来ていたらしい。

 あの王子様も、ただ切っ掛けが欲しかったのだろう。


 自ら掛かった呪縛から、醒める切っ掛けを。


 元気にやっていれば良いけれど、とノヂシャは苦笑した。

 そのときだった。


「いらっしゃいま……」

 ノヂシャの家は、父親が仕事を請け負うために店みたいに解放された一角が在り、ノヂシャと母親がいたのはそこだったのだが。

 その扉が開いたのだ。

「こちらで、建築を請け負うと聞いたのだが」

「……ええ、どんなご用件でしょう」

「少々遠くなるのだが、少し改築をしたいんだ……城の修繕とかは頼めるのか?」

「ええ、承りますわ


 ─────王子様」


 受付嬢らしく、突然の来客にノヂシャはふんわり微笑んだ。






 

   【How about the following fairy tale?】

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