表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

いき路

 



 お城へは、町を突っ切らず迂回して行くことになった。従者の少年がそうであったように、騒ぎにしたくなかったからだ。町を通れば城へ真っ直ぐ行くことが可能だが、通るには検問二箇所。加えて一本大通りとなる道には商店がみっしり建ち並んでいるのだ。


「しかし、よろしゅうございました。ノヂシャ様がお出でくださると仰有って……正直申しまして、もっと揉めるかと思っておりました」

 辛うじて、少年から『姫』呼ばわりをやめさせられたが、「主の客人を呼び捨てには出来ないし軽々しい呼び方も無理」と結構頑固に拒否されたため様付けはゆるした。

 ノヂシャの殺人光線染みた鋭い視線にも相手を瞬時冷凍しそうな態度にも慣れたのか、従者の少年マーシュは最初のガチガチな挙動が一転し快活に喋り倒す。どことなく必死な様子は、想定外に早く許諾したノヂシャの機嫌を損ねないようにと気を遣っている風にも、単純に相手してもらえてよろこんだ人懐こい犬のようにも見える。

「別に……断る理由無かったから」

  付き従うみたいに後ろを跳ねながら、早足のノヂシャに合わせて歩くマーシュへノヂシャはやはり切り捨てるように冷たい言葉を吐き付けた。声音に仄あたたかい温度が感じられなかったらマーシュはまた泣きそうになっていたかもしれない。

「左様ですか……けど、ノヂシャ様は塔から出てお出でにならないと専らのお話でしたし」

 それは、町に蔓延する噂で真実に分類されるものだった。

“塔に隠された娘は、決して塔から外へ姿を見せぬ。魔女に、うつくしい顔を見せないよう言い付けられたためだ”

 後者は勿論尾鰭だが、だいたいは符合している。ノヂシャは塔が完成して移り住んでから一切町へ行ったことは無い。

「別に出入り口辺りなら外にも出てたわ。階段の上り下りだって立派な運動でしょ?」

「左様でございますか……先にお伺い致しましたノヂシャ様のお父上からは“ウチの娘は繊細だから、あんな胡散臭くてデカブツなだけの、センスの欠けらも無い城へは行かん!”と啖呵を切られましたもので」

「……」

 無言で返したが父さんならばやるだろう、とノヂシャは心底同情した。あの厳つい顔で恫喝されたならさぞ怖かっただろう。この少年はよく折れなかったものだ。

「父さんは、過保護だから」

 その甘さを利用して未だに引き籠もっているのは自分だ。ノヂシャは己を嘲りながら呟いた。

 と言うか父さん、マーシュが来たなら伝達してくれたら良いものを。ノヂシャは小さく反感を覚える。大工の若い衆から一人くらい遣いに出したって問題はないだろうに。

 不意に、脇に聳える壁を仰ぎ見た。要塞みたいにぐるっと、城や塔に比べればまだ低い煉瓦塀が、町を囲い外界とを仕切っていた。低い、としても地に足を着けて見上げたなら充分に高い。

 これも、父親が建てたものだ。父親は一農村だったこの町を自力で勝ち取った富と名声で町にまでした。流通から観光から生活から当然建築物もすべて整備した。功績は計り知れない。

 立派な父親には頼りの親友の石工の他にも大工仲間やその下に付く青年たちがいる。荒くれと呼べばそうだが父親はこの中でもインテリに入る部類だった。だからこそ、国王に認められた一級建築士になったのだろうし。

 町を盛り立てた立役者として、勲章授与までされていた。ノヂシャは再び地面を睨んだ。

 こんな、娘を持って、と言う想いが過ったからだ。過ったが、表情には出さない。

 考えて、口に出すならば、なぜ行動しない、とも思うからだ。意識せず止まった足に気付いて、ノヂシャは再度歩き出した。マーシュも、何か思うところは在ったろうが何も言わず付いて行く。

 しかし口を開いて、一つ。

「ノヂシャ様、髪の毛重くないですか?」

 彼はずっと気に掛かっていたらしかった。証拠に、うずうず、おずおずと言う風体でいる。ノヂシャは素っ気なく「別に?」と答えた。

 ノヂシャの髪は長い間引き籠もっていたせいでだいぶと伸びた。まさか縄みたいに編んで梯子には無理な長さだが、身の丈をゆったりと覆えるそれは、今はきれいにリボンを絡めて纏められ、ひとつの編み物のようにノヂシャの首をぐるぅり一周、残りは背に垂らされている。巧くバランスを置いて巻いているし、重くないと言えば嘘になるが、そこまでどうとも感じない。何より移動は常にこれだから、馴れてしまっているので今更だった。

 うつくしい艶を失わず、絹糸が如くな髪質は、むしろ本当に何かの気を使った作品に見える。

「お持ちしましょうか?」

「結構よ」

 自分より扱いが上に当たる人間に何かしないと落ち着かないのだろうか。マーシュの申し出を素気なく叩き落とす。

「重くないですか?」

「別に」

 同じ会話を数回か行って二人は城の門まで歩き続けた。

 マーシュとの雑談でとある思慮に当たり、ノヂシャは憂いを浮かべる。


 重いとすれば、それはこの髪の実質的な重量ではなく。


 この髪をこんなにも長く長く重く重くした、年月だ、と。






 

   【How about the following fairy tale?】




   ⇒next...『荊の城』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ