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善人  作者: Nikyaty
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善人

私は、相当な我儘野郎でした。しかし、私が我儘であることを知る人は誰一人いませんでした。


私が学生の頃の話をしたいと思います。私は善良な人間でした。周りの誰から見ても、善い人のように見える人であると思ってください。私は少なくとも、周囲からどういうふうに見られているかを判断するには長けていると考えています。


私は友人がたくさんいました。友人からペンを貸してほしいと言われたら快く貸しました。ここで私は、「快く」という表現を使いましたが、それはあくまでも、その友人の感じ方の話であって、私が快かったわけではありません。私はあくまでも、そういうように演技していただけなのです。私にとって人からの印象を高めることは、何よりも快楽でした。その反対は、何よりも苦痛でした。


私は人前で怒りの感情を見せたことがありませんでした。もし怒気を少しでもさらけ出したものなら、私の築き上げてきた評価が全て崩れ落ちるような気がしてたまらなかったのです。ある日、友人の蹴ったボールが私の目に当たりました。かなり痛みはありましたが、特に苛立ちは生まれません。むしろ、私の善良さを見せつける絶好の機会が生まれたというものです。友人はすぐに私に謝りました。それに対して私は、大丈夫と何度も言って、その後も何も無かったかのように振る舞いました。また私の評価を上げることに成功したわけです。そう私が独自に思い込んでいた訳ではなく、実際に、私はますます友人が増えていきました。私は友人から「善人」のような印象をもたれていることを肌で感じていました。そのことは、私の演技が順調であることを示していましたが同時に、私は呆れました。もし善人がいるとしたら、私のような者ではなく、自分以外誰もいない部屋に迷い込んできた蝿を、そっと外に逃がしてやるような、そんな人だと私は信じているからです。そして、私は生来、そのような人に会ったことはありません。


学生でしたから、やはり女性に少なからず好意を抱くようになります。私のこうした、善良さを見せつけたい欲望というのは、女性の前だと一層強くなるのが厄介でした。


ある夏のことでした。学校というものは時々席を組み直すでしょう。私は、ある女性の隣になりました。それも私が好意を抱いていた女性です。しかしその時、友人が席を交換しようと言ってきたのです。同時に、その女性が好きであるということも告白してきました。それを聞いて驚きましたが、私もそうであると言うことは到底できませんでした。それはその友人と対立することになるからです。私は戦う前から諦めたのです。そもそも、女性を好きになることを恥ずかしいことだと思っていたのです。その友人の席は、近くに男が沢山いるので、一般的に言えば不条理な提案ではありませんでした。私がこれを断ると、その女性が好きであると告白するようなものです。なので私は、その提案を呑みました。「呑みました」というこちらが譲歩したような表現を使いましたが、これは私の奥の奥での話であって、実際には私は、ありがとうと感謝の言葉を述べ、喜んでいるように見えたと思います。この友人が、私が断るわけがないと踏んでこの提案をしに来たことは明らかでした。私はその時初めて、自分のこれまでの振る舞いの弊害を知りました。


それから毎日、その二人が睦まじく話すのが不快でたまりませんでした。私は嫉妬心まで強かったのです。ひと月ほど経った頃、その友人に、例の女性と交際することになったということを告げられました。私は一瞬絶望感に襲われました。しかし私はそれを隠し、祝いの言葉を口にしました。私はそのあとも、絶望感にさいなまれているようにしたかったのですが、そうでもありませんでした。それは恐らく、一縷の望みすらなくなったことによる解放感から来るものだったと思います。これは、この出来事を主人公の絶望として、私の人生という物語に刻みたかった私には、不都合でした。実際に私の心にあったのは、もし私が席の交換を断っていたら、私が結ばれるということは期待できないにしろ、その交際を阻止できていたのではないかという、後悔だけでした。


その夜、私は家で一人、勉強をしていましたが、いつまで経っても身が入らないので、窓を開けました。そうしてまた、進まないペンを握りながらノートを見つめていました。ただ目がノートの方を向いていただけにすぎませんでした。数分経った頃、その視界に蚊が入ってきました。無性に腹が立った私は、蚊めがけて手を振り下ろしました。私の暴力は、避けられてしまいました。その時蚊は、私の我儘を知りました。私は一層血眼になって蚊を追い回し、叩き殺しました。


その友人と女性は、結婚しました。

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