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深層の祭  作者: 小虎
斜影の遺跡
2/9

002 「拝啓、父上様。ペットに黒い狼ができました。」

前回からのおさらい。

 

…あてもなく既に決められた人生のレールをただひたすら走る荻野賢(主人公)。

 

そんな彼は容姿端麗性格清純。多くのファンが居た。

 

そんな彼のファンにもやはり異端は居たわけで…。

 

彼は彼女のだけのものになるべく、その”異端”に殺されてしまったのであった………。

 

 

 

 

 

「…ということで、君には新しい世界へ行ってもらうよ。」

 

一言で言おう。俺は幻覚妄想状態に取り付かれて言うようだ。

 

「で、この中から好きな世界―――あー、君の中の好きな言葉で言うなら、"相対状態"だね。

ええと、何と言ったらいいのかな。そもそも相対状態の理論は世界の重なり合いの状態で、必ずしも移動が不可能な事なの。

つまり君が地球に生まれたと言う相対状態と生まれていないって言う相対状態、

または地球が人間によって支配されていない相対状態…。いろいろとあるね。

それらが中等生物(人間)までは移動できないんだ。まぁそれはいとして―――その好きな相対状態を選んでくれて構わないよ。」

 

頭が混乱してきた。


この目の前に居る兎だけども人のような形をした生き物は何を言っているのか。

 

「最高神様が君のファンだからって、好きにさせて良いっていってたけど…。

どうしてこの程度の人間がいいのかなぁ。僕には全然理解できないけども。

で、どの世界が良いの?この世界は真理と言う世界の具現化された眞を追及する錬金術を行使する世界。

これはー…、ドタバタで滅茶苦茶な妖精(ひと)達がギルドを中心に魔法戦闘コメディを演出する世界。

これはー…モテないと思ってたら実は自分はかなりのモテ症で翳で

女の争奪戦が繰り広げられるギャルゲー的な…あ、これ君いいんじゃない?容姿性格供に良いし。」

 

嗚呼、なんだか頭が痛くなってきた。これは夢か?しかし俺は変な(きちがい)の女に刺されて…、まさか病院で夢でも見てるのか?

 

「ねぇ、獣人(ヒト)の話聴いてる?」

「ん、あ、あぁ…、確か、この世界が俺の夢で、俺は病院に居るんだったな。」

「いやそこ現実逃避しないしても現実は変わらないから。

というかなんで現実逃避してるのかわからないなぁ。

君、死んだんだよ?」

 

そこまで聴いて自分は耳を疑う。

というかそもそもが目の前に"居るはずの無い"(彼は総じて己を獣人(ヒト)と呼ぶ)生物が居る時点で

現実では無いのだ。

現実逃避といわれても彼には夢想の中だと思い込んだ情態な為、彼からしてみればとんでもない出鱈目な話だ。

それに、死んだ?そんな筈は無い。自分は恐らく病院だ。そしてそこで寝ているのだ。これは夢だ。夢なのだ!

 

「ああもういい加減にしなよ!君みたいな秀才と謳われる天才になりきれない、

"常識()の範()囲で()しか()物事()を考()えれ()ない()"のが一番扱いにくいんだよ!

君は死んだの!逃れようも無い事実!好い加減現実を見たら!?」

 

嗚呼嗚呼、頭が痛くなってくる。あずましくない。

静かにして貰えない物か。

 

目の前のヒトに在らざる者は頭を抱える。

どうやったら彼に死んだことを自覚させられるのか。

うーんうーん、と唸っている内に、無駄だと言う事がわかった。

というか最高神様からは彼が転生しても今の状態のままで生きていけるようにと

配慮もあり、実際転生しても彼自身死んだ自覚など一生無いかもしれない。

そう考えると、ヒトに在らざる者はなんだかスッキリした。

 

「ああもう夢でもなんでもいいよ。とりあえず好きな世界選んで。」

 

そこでようやく賢も反応した。否定する分子が居なくなった事によって彼がこの課題について悩む必要は無くなったからだ。

とりあえず、目の前に並べられた書類の中から面白そうな内容が記載されている物を選ぶようにと、探し回る。

そこで、なかなか興味深い内容が書かれたものがあった。

 

「…じゃあ、これで。」

「ええと…白亜世界(シルヴァランス)?なかなか過酷な世界を…。じゃあ、相対状態の転移始めるね。

じゃあ、3,2,1で行くからね。」

「ああ…。」

 

変な夢だと、"その時までは"思っていた。まさかその後後悔するとも知らず。

 

「じゃ、3,2,1,出発ー!」

 

そう目の前のヒトに在らざる物は言うと、その瞬間に賢は脳内が濁流に飲まれるような、

まるで高潮の時に空気の入ったボールへ入れられて翻弄されるような、言葉では言い表しにくいが、

とにかく、なにかに回されて翻弄される様な感覚に陥った。

そんな気持ち悪い感覚が暫く続いた後、パっと突然投げ出される感覚が。

無論、何故か頭から土へ突っ込んだ。

その場はうっそうと木々の茂る森。賢は思わず地面に激突した時の痛みと同時に翻弄された時の気持ち悪さ、

そしてこのあまりの現実に近い感覚に若干の戸惑いを感じていた。

 

―――もしもこれが、これが現実なら、ば…?

 

徐々にとめどない恐怖が浮かんできた。

 

――もしもこれが現実ならば?俺は本当に死んだ事になる。

 

じゃあその立証は?不可能だ。無論、死んでいない、ということも立証は出来ない。

そもそもがこれが何の因果によりこうなったのかすらも理解に苦しむ。

 

―――確か、神様がどうたらこうたら…。

 

彼自身夢だと思っていたので、ロクに話を聞いていなかった。

困ったなぁ、と思いながら、若干冷や汗を垂らし、鼓動が早くなっていくのを自分でも感じた。

怖いという感情が徐々に体を支配してきた。もしもこの後にさらなる展開が待ち受けているならば、発狂してしまいそうだ。

それほどに、彼は平静を装いながらも混乱していた。

 

―――とりあえず、どうにかしなくちゃ。

 

そう思い立ち、いまだ鼓動が冷めぬままにその場に立つ。

とりあえず、森だか何だか解らないが、一応森としておこう。

木々が生い茂り、少し暗い雰囲気でどことなく怪しい感じを醸し出すこの森。

早々に脱出したほうがよさそうだ。と、彼は感じた。

なんとなく、後ろから違和感を感じてしょうがない。なんというか、まるで獲物を狙うような、

品定めするような、背筋を何かが疼く、そんな恐怖を感じる視線。

…どうやら、少し気付くのが遅かったのかもしれない。

とりあえず、今は襲ってくる様子が無い。

黙って、その場を離れていく事にした。

 

 

 

 

 

 

暫く歩いてみたが、森を抜ける事は無かった。腕に付けていた時計を確かめる。

 

―――ええと…歩き始めてから一時間。4㎞強歩いた計算になるか…。

 

それほど歩いたとしても、ずっと森である。正直飽きる。森林浴としては良いだろうが…。

歩いているうちに混乱は徐々に収まりはしたものの、今度は漠然とした不安が体を支配するようになった。

はぁ、と、心の内でため息をついた。今更不安がこみ上げてきてもどうしようもないのに。

それと、未だに此方を品定めするような嘗める様な視線も、同時に強くなる。

後ろを向いても、そんな視線の正体はわからず、余計に不安を煽る。

正直、正体が解らないから対処のしようもないし、もし獰猛な生物だったら逃げるが勝ちなのだ。

(普通は逃げたら駄目だとか書いているが逃げないで死んだら元も子もない。)

結局、そんな漠然とした不安と緊張感を持ちながらも何の収穫も無いまま現在も歩き続けている。

…と、そこに新展開が訪れた。今まで、視線だけだったのが、足音も聞こえてくるようになった。

若干、いや、かなり嫌な予感しかしない。

なんとなく、四足歩行生物の足音に感じる。いや、そうだ。感じるではなく、そうなのだ。

ゆっくり、ゆっくりと、後ろを(歩みを止めずに)振り返る。振り返る。ゆっくりと―――

 

「…げっ」

 

言わずもがな、そこには犬…というには凶暴な、狼が一匹。

真っ黒で、目が真っ赤なその狼は常人の恐怖心を煽るのに十分であり―――

無論、彼は見なかったことにしたい。だが、現実はそう甘いわけではなく……

目が合った途端、その「狼」はこちらに向かって走ってきた。否、喰らいつこうと襲い掛かってきた。

 

「やっば…!」

 

そのまま、逃走の試合を開始する。

捕まれば命は無くなる。逃げ切れば命は救われる。

正に闘争。生か死かのバトルである。

しかしこのまま走っていればいつかかならず追いつかれる。さて、どうしたものか…。

そんな冷静な思考が頭の片隅に残っている己の魂胆に、若干驚きつつも

逃走する足だけは緩めないで居る賢だった。

 

―――あ、そうだ。

 

目の前に丁度良く(なんともタイミングが良すぎるが)巨木があった。そうだ、あれを活用しよう。

木に向かって、走っていく。決してスピードを緩めずに。

狼との差も近い。

徐々に木と自分と狼の差が縮んで行く。

あと、50m程度…。あと、少し、もう少し…。

目の前に木が来た。そこで、賢は急停止した。そして、襲い掛かってくる狼を尻目に―――横へ移動した。

無論、そのまま狼は頭から木へ直撃する。普通の狼はこんなヘマしないんだけどもな…

と思いながら、ぶつかってふらついた所を逃さずに、たまたまかばんの中に入っていたスズランテープを取り出し、ぐるぐる巻きにした。

手、脚、口。それぞれが走ったり齧ったり出来ないように。

無論、狼はその場をばたつく。だが外れない事が解った途端、急に大人しくなる。

賢はそのまま狼に近づいていった。

 

「このまま殺されたくないよな?なら襲うな。誓うか?」

 

自分でも随分とドスの訊いた声が出たなと思った。

そんな声を聞いたのか、まるで人間の様に、まるで言葉を理解したように狼はうんうんと頷き始めた。

そこで賢はふと思い立った。なんとなく、やってみたくなったからだ。

というよりも、直感的に浮かんだからだ。そもそもこのような人間的な行動をする事、それ事態おかしいのだ。

 

「制約は"俺の命令に従う事"。肯定しなければ死ぬのみ。どうする?」

 

そう、口に出した。

すると、狼が急に肯定を止めた。そこで、確信に変わる。「これはただの狼じゃない」と。

さて、と。この制約を肯定してもらわない限りには、この狼のような生物を殺さなければならない。

それは嫌だなぁ…。と思った。さて、どうするか。そうだ、鞄の中に箸が入っていた筈だ…。

それを思い出し、鞄から箸を取り出した。到って簡単なことだ。

 

「先ずは眼を潰そうか。」

 

到って平然と、よく言いのけられた物だと己でも思った。そのまま、振りかざす。瞬間、眼に箸を振り下ろし―――!

直前で止めた。若干狼のような生物は瞳孔が開いている。

 

「ラストチャンスだ。もう一度問おう。肯定するか?」

 

その途端、狼は頷いた。これで、心置きなく外す事が出来る。

生き物とは必ず躾が必要な物だ。今回は上手く行った事例だが。

 

―――我、魔狼(フェンリル)也。我盟約に法らん。此処に血肉の契約を交わせん。

 

まるで頭に直接響くような音に、ハッとなった。

確かに、この狼は喋った(?)。己を魔狼(フェンリル)と言った生物は、そのまま続ける。

 

―――契約は交わした。

 

契約…?ああ、恐らくそういうことか。魔物という生物は契約という絶対的な主従関係を結ぶ事によって

破れぬ誓いを成立させ、今後の行動を共にするのだ。…と何となく直感で感じた事を纏めた。

日頃から直感を大切にしていて良かったと、つくづく思った。

そのまま、契約したならば襲われないであろうと、スズランテープを外す。

そのまま魔狼(フェンリル)は立ち上がり、ブルルッと体を震わせて此方に向かって歩いてきた。

 

―――何なりとご命令を。

 

…何となく体がむずがゆくなった。

 

「…いや、今は特に何も…。」

 

―――御意。

 

「いや、待って、ここから一番近い街は何処へ行けば良い?」

 

―――此処から、東へ12㎞程先。中都市"システィーナ"。がある。

 

「わかった有難う。」

 

―――仰せのままに。

 

そのまま、短い会話を終えると、魔狼(フェンリル)はそのまま突然黒い光の玉となる。

それに驚いていると、急に魔狼(フェンリル)であろう光の玉は自分に向かって―――そして体へと吸収された。

若干苦痛を伴ったソレは、すぐに収まった。

 

―――我は譽高き魔狼(フェンリル)。盟約に従いて主と行動を供にする。

 

ああ、なるほどな、と。納得する。

そのまま、彼―――魔狼(フェンリル)に言われた通り、東(丁度方位磁石がキーホルダーで付いていた)へと歩いていくのであった―――。

 

 

 

はい、約1週間振りです、Kotoraです。

 

つい2年ほど前は10,000文字3時間程度でかけていたのに、

 

今は軽く2週間かかりそうになった事に驚きを感じております。

 

やはり、歳ですね(笑)

 

今回は約5,000字。はっきり言うとこれに6日かけた己の文才の低下に驚きを隠せません。

 

ああ、もっと鍛錬せねば…。

 

という事で、見ていただいた皆さん、有難うございます。

 

宜しければ次話も見ていただければ幸いです。

 

コメント、ご感想もどしどし気軽に書き込んでいただければと思います。

 

夏休み中間に差し掛かる辺り、宿題をやっていない事を焦りに感じた日にて。

 

 

 

 

 

2010年 8月 6日      Kotora

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