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深層の祭  作者: 小虎
斜影の遺跡
1/9

001 「拝啓、父上様。信者とは怖いものなんですね。」

この小説には恐らく戦闘描写などにより多少のグロなどが生じる場合がございます。

 

"読む人を選ぶ内容"も極稀に描写する可能性もございます。

 

その場合、前もって冒頭に注意書きを書かせていただき、その会の話を飛ばしても繋がるように

 

記載させていただきますので、その点を弁えた上でご閲覧お願い申し上げます。

 

尚、今作品を読んで"気分が悪くなった" "変な癖が出来てしまった"などといった苦情は一切受け付けません。

 

これをお読みいただいた上での全責任は私は負いかねます。全て、自己責任でお願いします。

 

補足として、今作品は動物を人型にした、世間一般で言う"獣人"という生き物をベースに取り扱っております。

 

故に、そのような存在が嫌い、苦手、と言った感覚がある方もご閲覧は自己責任にてお願い申し上げます。

 

 

尚、今作品に何か意見、感想、ミスなどがございましたら遠慮なくお申し付け下さい。

 

全身全霊の意思と誠意と志を持ってご返答させていただきます。…恐らく。

 

 

 

楽しかったや続きに期待!などといったご感想があるときっと半狂乱舞して窓から飛び降りるほど喜びます。

 

 

 

 

 

その日はいつにも増して空が青かった記憶があった。

今日は空気が清んでいるな、などと思いながらも学校へ向かった。

―――彼、荻野(おぎの) (ケン)こと、地区でそれなりにレベルが高い高校へ通う進学組みのお偉いさんの息子である。

いかにもお坊ちゃんという出で立ちではなく、寧ろ現代の若者の代表というような雰囲気の格好である。

(因みに彼の学校に制服はない。つまり私服登校である。)毎日父親に言われるがままに学校へ行き、

とりあえず目標もないまま勉強もし、そして、最後は望みもしない父親の後とりとなり、そして生涯を終える。

これが彼ヘ課せられた人生のレールであった。いつもいつも同じことばかり繰り返される日々には正直うんざりだった。

 

 

 

 

 

 

彼の住んでいる地区では最高峰の高校と謳われる、私立"星魁(せいかい)高校"。

勉強は勿論のこと、部活動にも長けており、全国優勝も数多くこなしている。

そこから世界へ羽ばたく―――いわば企業等の団体に抜粋される―――事は日常茶飯事だ。

彼自信、運動系には長けていないもののそれでも平均よりは高い技術はある。

だが、それは一般の高校に比べたらの話であり、彼の所属している高校ではそれなりに底辺である。

そんな彼でも唯一得意なのが、物理と簿記だった。正直5桁同士程度の掛け算なら頭の中で計算は出来るし、

電卓もお手の物。実質数学者向きの頭脳を持ち合わせており、数学オリンピックにも出場して優秀な成績を収めるほどである。

実質、博学才頴といっても過言ではない。日本史、世界史、経済、はたまた物理、化学、総合理化、数学、英語・・・上げだせばきりが無い物の、

そのどの教科でも彼の頭脳は納まる所を見せない。

 

簡単に言おう、秀才である。正直、天才とは人から教えられずに物事を自ずと解明し、

例えば―――この場合は数学を用いたとしよう―――微分積分。これはどの高校生も大抵が

突っかかる数学至上でもそれなりに難しいかと思える物である。こういったものを、

己の理論だけを頼りに公式を弾き出し、はたまた全ての問いを正解できる者の事を指す。

解りやすく言おう。つまりは"教科書など必要ない"人間に与えられる称号である。

だから、彼は秀才止まりであるが、周りは彼を天才という。

秀才は、努力をし、己の力で知恵を蓄え、才頴と成る事だ。

だから、天才ではない。天才という名の下に、彼の努力は押しつぶされ、目立たなくなっている。

 

 

そんな現実を、彼は厭々としていた。

 

 

生まれた頃から決められたレールを敷かれ、周りからは天才と呼ばれ本当の自分を見てくれない。

正直、この世から消え去りたいと思ったこともあった。

だが、それを思い留まらせてくれるものが彼にもあった。

 

――エヴェレットの多世界解釈である。

 

正直、これを偏に説明しようとなると、正直無理な所がある。量子力学の観測における問題であり、

量子力学の基礎的な知識が必要であるからだ。

 

「宇宙は絶対的なものとし、二つの世界――あなたが生まれた世界と貴方が生まれていない世界としよう――は

重なり合ったままであり、"何も起きない"。無論、生まれている世界では母親が貴方を認識しているし、

生まれていない世界では貴方を認識していない。(その、存在した方での出来事を認識している世界を相対状態という)つまり、

片方の相対状態に属するものがそれを観測した場合、そうとしか見られない。一般に、

彼等がその事象を観測するまでは、そのどちらの相対状態に属しているかは判別不可であり――」

 

なんとか解りやすく砕こうとすると、こういった内容である。

彼はこれに深い深い希望を見出した。

 

――なら、その相対状態に移動できないか――

 

現実なら不可能だと言われるだろう。だが、彼にとってはそれは甘美な響きで、一種の麻薬のようなものであった。

だから、彼はこの世界で一番の物理学者になろう、敷かれたレールを逸脱しよう、

譬え不可能であってもそういった希望を持って生きてきた。

脆くも、そんな希望は打ち砕かれる羽目になるとも露知らずに―――。

 

 

 

 

 

 

それは彼が体感しての2日ほど前の話だった。

何時も通りに学校へ通い、媚を売ってくる生徒(大抵は親の受け売りだ)を適当にあしらいながら、

優等生を演じ、そして家に帰る。そして父親へ敬語を使う重苦しい家で人間が生きるうえで重要な

生理行動などを終わらせ、睡眠に付き、また何時も通りに学校へ―――

正直、このプロセスが一番安心して暮らせていたのかもしれない。

不満はあったものの生活水準などには何の不満もない。ただ、それが本当の幸せだったのかもしれない。

 

 

それは下校中、突然起きた。

 

 

何時もの様に媚を売る連中を適当にあしらい(心の中では蔑みながら)、たまたま近道に何時もは使わない

裏路地を利用した時だった。

目の前に、どう考えても頭が狂っているんじゃないか、と思わせる人間が居た。

いや、今思えばアレを人間と片付けるには少々まずかったか。

賢、彼自身性格も顔も悪くない、所謂容姿端麗性格清純である。それでさらに頭もいいと付加が付く。

当然、彼にはファンも多い。いや、それは偶然ではなく必然だったのかもしれない。

そんな中に、彼の平穏を消し去る因子があった。

彼はそのまま目の前を立ち去ろうとした。その時だった。

腹部(と言った方が良いのか、脇腹と言うべきか)に、刃渡り10センチ程度の鋭い両刃(バタフライナイフだと思った方が懸命だ)が、

突き刺さっていたのだ。突然の衝撃、それから急に熱くなる。

血が、服を染めていき―――、鈍痛から急激に鋭い、まるで引きちぎったような(事実切り裂いたのだが)痛みが、

腹部を襲った。

 

「アハハハハハハハハハハ、これで彼は私だけの物!私だけの男になるの!」

 

狂気と妖艶に満ちた美しい声だった。それでも、大声で言った(というよりは絶叫か)言葉は、狂っていた。

 

「ぅ・・・ぁ・・・?」

 

突然の事に、あまりにも動揺して、痛みが強いのと相俟って、気が動転し、何が起こったのが全く解らなかった。

そのまま、痛みの下に意識はずぶずぶと底が無い沼のような闇の穴に曳き摺る込まれて行った。

恐怖はあった。物理学者になって、相対状態を自由に行き来できるようにして、結婚して、レールから逸脱して・・・。

そんな、未来予想図も燃えていく感覚がした。こわいこわいこわい。そんな言葉だけが頭の中を響いていた。

 

 

こわいこわいこわい―――

 

 

 

 

誰か、助けて、怖い、怖―――い――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荻野 賢、その後遺体が発見され、学校の同級生などが多く参列する中、火葬された。

生涯18歳、未来ある秀才に一人の狂者によって終止符が打たれた。

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