愛をはかる薬
これは小さな村にいた、とある青年に起きた話である。
青年は、周囲の人から「どれだけ愛されているか」を知りたがっていた。
彼は人から「愛されている」と思いたかったが、あまり魅力的ではない自分に自信がなかったのである。
しかし、周囲の人々に自分のことを「愛しているか」と聞いたところで恥ずかしいし、本当のことを教えてくれるかも分からない。「愛しているよ」という上辺だけの返答も、「そんな下らないことを聞くなよ」とせせら笑いをされることも、青年にとっては不要なことだった。
――どのようにして、「自分が人々に愛されている」のかを知ることができるのか。
青年はその方法を考えていた。
そんなとき流浪の商人が、青年の住む村で商売をするために訪ねてきた。
「どんな要望にも応える」という商人の売り言葉に、青年は「『自分が人々に愛されているのか』を知ることができるのか」をこっそりと聞いた。
「そうですね。叶えられるかどうかと聞かれたらできますよ」
「本当か?」
「ええ。何せ、どんなご要望にもお応えいたしますから」
商人の男はにっこりと笑うと、ポケットから一本の茶色の小さな瓶を取り出し、青年に見せた。
「これは?」
「あなたを愛してくれる人が分かる秘薬ですよ。飲めば、どれ程の人望があったのかが分かるのです」
青年は目を丸くした。
「飲むだけで?」
「ええ。飲むだけです」
青年は商人の人差し指と親指の間にある、茶色い瓶をじっと見つめる。
「へえ……すごいや」
青年は商人からその薬を買って、さっそく飲んでみた。
だが、すぐには何も起こらない。青年は試しに、村を歩いてみることにした。もしかしたら、誰かが声をかけてくれるかもしれない。
しかし、村人のほとんどが流浪の商人が並べている商品に釘付けで、青年には見向きもしなかった。
「何だ。何も起こらないじゃないか」
青年はそう独り言ち、夕方になって、商人のところから村人がはけたころ、もう一度彼の元を訪ねた。
「おや。またいらしてくださったのですか。先ほどはお買い上げ有難うございました」
恭しく頭を垂れる商人に、青年は投げやりに言った。
「さっそく飲んでみたけれど、何も分からなかったよ」
「ああ」
商人はうなずきつつ、広げた商品を片付け始める。
「それは明日になれば分かるんですよ」
「そうなのか?」
商人はにっこり笑った。
「ええ」
「それじゃあ、明日何も起こらなかったらもう一度ここに来て文句言うからな」
「ええ。そうなったときはお待ちしております」
商人は満面の笑みで青年を見送った。
たった一言を残して。
「明日、我々が再会すればの話ですがね」
そして迎えた翌日。いつもなら決まった時間に仕事場に来る青年が来なかった。
職場の同僚が訪ねてみると、青年は自宅のベッドの中で眠るように亡くなっていたのである。
誰も彼の死因について分かる者はいなかったが、商人だけは知っていた。青年は彼が売った秘薬によって、毒死したのである。
結局のところ「愛してくれる人が分かる秘薬」は毒薬で、青年は自身が「愛されているかどうか」を知らずして、この世を去ることになったのだった。
しかし亡くなった青年の葬儀に参列し、涙を流している人たちの数を数えてみると、どれほどの人望があり愛されていたのかは、青年のことを知らない商人でもよく分かった。
流浪の商人は真っ黒いマントに身を包み、木の上から青年の葬儀を見下ろした。
「ふふ、人から愛されているかどうかを知りたかった青年、ですか。人の愛をはかるなど、簡単なことではありませんね」
商人は青い晴れやかな空を仰ぐと、こう言った。
「どうです? 自分が愛されていたかどうか、分かりましたか?」
(完)




