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薔薇と鏡の王国《rewrite》—— “モブ”が書き換える、愛と死と回帰の物語。  作者: 舞見ぽこ
第4章 揺れる絆、灯された革命の火

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第68話 真実への道筋

 私はスフレを膝に乗せたまま、薄暗くなり始めた寝室の窓辺でじっと考え込んでいた。


 「……ねぇ、ちょっと整理してみようか」


 スフレは静かに丸まったまま、私の声を聞いている。

 あの日を、再び思い出す。


 伝令が駆け込んできたのは、朝食の時間帯だった。別拠点にいた辺境伯一派が襲撃され、壊滅したという。


 それを聞いたときは、ただ呆然とするしかなかった。


 (……何か、おかしい)


 言葉にならないざらつきが、心の奥にひっかかっていた。


 そのとき、膝の上で眠っていたスフレがぴくりと顔を上げ、部屋の隅をじっと見つめた。


 「……スフレ?」


 なにか、気配を感じたように。音でもしたのか、あるいは——


 小さく首をかしげるその仕草に、ふと胸の奥がざわめく。


 (……そういえば、あのとき)


 じわじわと、霧が晴れるように記憶が蘇る。


 夜明け前に“襲撃”され、その数時間後には“壊滅”の報が届いていた。


 確かに、隠れ里には通信班があり、各拠点と連絡を取り合う設備も整っている。

 けれど、その日届いた報せは、早馬による伝令だった。


 (……通信が、できなかった?)


 通信が出来ない何らかの理由があったのだろう。

 だからこそ、伝令は馬で直接この地まで駆けてきた。


 ——だとしても。


 100名を超える精鋭の部隊が壊滅し、その全容が把握され、伝令が発たされるまで。

 本当に、そんな短時間で可能だったのか?


 おかしい。何かが、ずれている。


 (もしかして、“壊滅”って……)


 伝令の言葉に、誰も疑問を挟まなかったことに、いまさらながら背筋が冷える。



 * * * * * *

 

 (……もしかして)


 胸の奥が、ぞわりと冷たくなる。


 これまでずっと、隠れ里に裏切り者が潜んでいると思っていた。

 でも、それはあの爆発のせいだった。


(里の端にある物資庫の、小さな爆発……)


 あれが起きたのは、辺境伯たちが別拠点に移動したあと。


 まるで「里の中に敵がいる」と思わせるように仕掛けられた騒ぎだった。


(もし、あの爆発自体が目くらましだったとしたら……?)


 その混乱に乗じて、何かが——いや、誰(・)か(・)が動いたのでは?


 思考が急速に研ぎ澄まされていく。


(情報を錯綜させ、疑心を生ませ、レオニスを孤立させる……。そのための、布石だった……?)


 確信に近い疑念が、静かに胸に根を張った。


 * * * * * *

 

 私はヴィス、エレナと共に、爆発のあった物資庫の跡地を調べに行った。


 焦げ跡の中心から、私は不自然な破片を拾い上げる。


「これ、焼け残ってる……? いや、焼けてない?」


 ヴィスが眉をひそめて受け取り、慎重に確認する。


「……時限式の起動装置の一部だ。これ、起動後しばらくして爆発するタイプだな」


(つまり、爆破のときに犯人はここにい(・)な(・)か(・)っ(・)た(・))


 あれは、遠隔で起動された“偽装”の破壊工作。


 私たちの目を欺き、疑心を生むためだけの。


 * * * * * *


 真相に迫るには、あともう1ピース残っていた。


 あの時の違和感の正体——。


 私は資料を閉じ、ため息をついて椅子にもたれた。


 ——そのときだった。


 夕飯の支度をする食堂の方から、香ばしい匂いがふわりと漂ってきた。


 (……おいしそう。何焼いてるんだろ)


 その香りに釣られるように、ふと鼻を鳴らしたとき——胸の奥に、奇妙な引っかかりが残った。


 (……なんだった? あのときの……)


 私は目を閉じ、記憶の底へと潜る。倒れ伏したレオニス。膝をつくゼフィル。血と土の気配の中に——なにか、違和感。


 ふと、鼻の奥に微かな刺激がよみがえる。


 ——香り。


 (香り……そうだ、あの場にあ(・)っ(・)て(・)は(・)い(・)け(・)な(・)い(・)匂(・)い(・)が……)


 私は立ち上がり、ある人物の顔を思い浮かべる。


 

 * * * * * *


 

 作戦資料を捲っていたカイネルが、私の足音に反応し顔を上げる。


「少しだけ、お時間いただけますか」


「……なんの用だ」


「王妃に仕えていた頃、特殊な魔術部隊を指揮されていたと聞きました。香りや煙を用いた操り系の魔術……ご存知ですよね」


 ぴくり、とカイネルの指が止まる。


 そして、重い声が落ちた。


「ああ。夜帳の魔煙(やちょうのまえん)のことか」


「……やっぱり、実在するんですね」


「俺が名づけた部隊だ。王妃の命令で動く暗殺と諜報の私兵。術者は全員、嗅覚と幻覚作用を用いる特殊な魔術に長けていた。

 香や煙で対象の感覚を乱し、命令を刷り込む……そんな連中だ」


 確信が背を駆け上がる。


「術の痕跡には……なにか、残るんですか」


「ああ。香りだ。術が残っていれば、周囲にわずかに香が漂う」


 その瞬間、記憶がすべて結びついた。


(あのとき、ゼフィルの周囲に漂っていたのは——お香の匂いだった)


 森にあるはずのない、甘く鼻をつく匂い。


 あれは、操られていた証拠だったのだ。


 ゼフィルは、自分の意志であの場にいたわけじゃなかった。だから、泣いていた——抵抗できないまま、人を傷つけることに。


 私の中で、長い迷路が終わる音がした。


 これで——すべてのピースが、はまった。



 * * * * * *

 

 

 ——夜が、明けようとしていた。


 まだ朝日も届かぬ薄明のなか、隠れ里は静寂に包まれている。


 すべてが眠りについたかのような空気。


 だがその静寂の裏で、黒い影がひとつ、音もなく動いていた。


 フードで顔を隠した細身の影が、ぬかるんだ地面を踏みしめ、人気のない建物へと近づいていく。


 扉を開けることはない。すでに施錠されていないのを知っているかのように、自然に、静かに入り込む。


 その先にあるのは、寝台。


 光の届かぬその部屋で、ただひとり、深く眠るゼフィル。


 彼に、影がそっと手を伸ばした——その瞬間。


 「……やっぱり。あなただったんですね」


 低く、静かな声が闇を切り裂いた。


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