第7話 覚悟
お待たせしました!(7話までやっとこれました!)
もう少しで一区切りがつく予定です。
つまり第1章の終わりが近づいています。
設定が甘いところ、矛盾したところがあれば教えてください。
私の名は天宮蓮奈。私は大唐昴君を助けてもらうために裏社会に足を踏み入れることになった。葛原美代子さんの言う通り、生半可な気持ちで依頼するものではないということが徐々にではあるけど分かってきた。
私は今裏社会の依頼の窓口となるバー「ロウタイド」で美代子さんとマスターとおしゃべりをしながら裏社会について教えてもらっている。
「なるほど、『死』と隣り合わせだからこそ、それに見合う『命』を差し出すという『覚悟』が必要ってことなんですね。そう考えるとカラスさんに依頼した200万円は安いですね」
「そういうことだ。なかなか物分かりがいいお嬢さんだ。だからさっきも言ったが救出なんて依頼の相場は500以上となるわけだ。今もお前さんの代わりにカラスは『命』を賭けて手を汚してるんだ」
ちょうどその時だった。入口のドアが開き、そこには昴君がいた。昴君は店に入り私のところまで来ようとしていた。
「昴君!無事だったのね!カラスさんの依頼が成功してよかった~」
「依頼は天宮先輩がしてくれたんですか!?僕なんかのために裏社会に足入れちゃだめですよ!」
「おい小僧!それが助けてもらった人間のいうことか!お嬢さんは『覚悟』を決めて依頼をしたんだ」
マスターが厳しい顔つきで昴君を睨む。
「そうね。裏稼業の人間だったらそのくらい分かるはずなんだけど。何か中途半端よね、あなた」
美代子さんも同じように厳しい目を向けている。
「……すみませんでした。確かに僕にそういうことをいう資格はないです。僕はカラス先輩のおかげでまだ完全に裏稼業に足を踏み入れてる訳ではありません。まだ手を汚したことはないですから。仰る通り、半端者です。天宮先輩、助けてくれてありがとうございました」
「いいのいいの。私もさっき裏社会ってものがどういうものか分かってきたところだから。私も半端者みたいなものだから気にしないで。それでどうしてここに来たの?」
「カラス先輩に天宮先輩が僕と話したいと言ってたから話してこいと言われてここに来ました」
その言葉を聞いて美代子さんが席を立った。
「蓮奈ちゃん、ここからはおばちゃんは手助けできないから自分でなんとかしてね。話が終わるまで店の前で張ってるから終わったら声かけて」
「あ、はい。分かりました」
「マスターは聞くことになっちゃうけど、マスターは口が堅いから大丈夫よ。気にせず思いを伝えなさい」
そう言って店を出て行った。昴君は私の隣に座り、話を聞く態勢ができたようだ。
「それで話っていうのは何ですか?」
「あのね、私、あなたに恋をしたのかもしれないって思ってたの」
「思ってた?今は違うってことですか?」
昴君がこちらを向き、目が合った。やっぱりそうだ……。私はどうやら答えをもうすでに出していたみたい。
「うん、さっきこのバーに来るまでは恋をしているかもしれないって思ってたの。でもね、さっきここでカラスさんと目が合った時、粕男のことが頭に浮かんだの。なぜかは分からない。そして裏社会の話を聞いている内に私には『覚悟』がなかったんだって分かった」
「すみません、天宮先輩の言いたいことがよく分からないです」
「ごめんね、分かりづらくて。私、恋っていうのがどういうものか分からないの。それであなたと出会った時にキュンとしたの。あ、恋をしたのかもって思った。『かも』ってことはさ、したかしてないか曖昧にしてるってことになる。私には恋をしたって言い切る『覚悟』がなかったんだなってさっき思ったの」
「なるほどな、お嬢さんはこの数時間にえらい成長をしたもんだな」
マスターが感心している。他の人に聞かれてるのは少し恥ずかしいけど、今の私は『覚悟』を決めたんだから気にしない。
「昴君に恋をしたって言い切ることはできないってさっき気づいた。それと今こうやって目を合わせてるけど、カラスさんと目が合った時のように何かを感じるものはなかった。だからこれは恋じゃなかったんだなって感じてる。変な話かもしれないけど、ごめんね」
パチパチパチとマスターが拍手をする。昴君もホッとした顔をしている。
「僕はそれが聞けただけで十分です。それじゃ天宮先輩、今恋をしている人は誰か分かりましたか?」
「この話の流れだと粕男ってことになるよね。でもね、粕男は何か違うっていう感覚なの。だから粕男にも恋をしているって言い切ることはできない」
「まあ、近からず遠からずと言ったところだな」
マスターが意味深な発言をしたような気がするけど、それってどういうこと?
「じゃあとっておきの情報を教えておきますね。今僕はカラスの影武者として働いています。表向きは僕がカラスなんです。僕の名前にカラスが入ってますからね。なんで表向きなのか。それはカラスの正体は誰にも明かしちゃいけないからなんです。これが天宮先輩が恋というものがどんなものか辿り着く最大のヒントです」
つまりそれってカラスの正体を暴けってことよね?それが恋の答えに辿り着くの?
「今宵はかなり面白い夜だったな。お嬢さん、依頼抜きでこの店にたまにでいいから来てくれ。お嬢さんの成長を見てみたくなった。とりあえずこの話はここまでだ。キャットを呼んできてやってくれ」
「はい!」
なんだかよく分からないけどスッキリした気分になれた。マスターの言うように成長できたってことなのかな?
※
Side???
ロウタイドで蓮奈が恋する覚悟について語っていた頃、山奥の建物内で二人の男が戦いを繰り広げていた。
パン!パキン!
中国の裏社会の最強の掃除人と呼ばれるスコーピオンが銃を撃てば、カラスが銃を撃ちスコーピオンの銃弾を弾いて相殺する。
(あいつが俺の弾を相殺しているってのは分かる。だがそれはどう考えても不可能に近い。それなのに!)
スコーピオンとカラスはじっとしながら撃ち合っている訳ではない。隙となる死角へと移動しながら撃っているのにもかかわらず、スコーピオンの弾がカラスに届くことはないのだ。
「どうした、スコーピオン。もう終わりかい?」
「おかしい。なぜそんなにも正確に俺の弾を相殺できるんだ?」
「それがおかしいと思っている間は僕からしたら格下だ。じゃあそろそろ僕から攻撃するとしようか」
パン!
カラスは明後日の方向に銃を撃った。スコーピオンには意味が分からなかったが数瞬で何をされたのか理解した。
「うがっ!」
足を撃たれたのである。
パン!
先ほどと同じようにスコーピオンのいる場所とは違う場所を撃った。そして数舜で同じように今度は別の足を撃たれた。
「ぐわっ!」
「はい、これでもう自由に移動はできないね。中国最強、どんなものかと思ったけど、この程度か」
(くそっ!こうなったらあいつが近づいたところを……)
スコーピオンはサソリである。サソリは毒を持つ。彼は本当にピンチに陥った時のみ、毒で相手を殺すという必殺技を持っている。それ故スコーピオンというコードネームで呼ばれるのだ。
「ああ、どうやら俺の負けのようだ。さっさと煮る焼くなりすればいい」
(さあ、近づいてくるんだ。そうすればまだ逆転できる!)
しかし、カラスは全く近づこうとはしない。
(なぜだ!?なぜ近づいてこない!?もしや俺が毒を持っていることを知っているのか!?いや!そんなはずはない!あいつは俺のことは知っているわけがない!)
焦るスコーピオン。それを見たカラスは憐みの目で彼を見つめた。
「かわいそうに。さっき足を撃ったと同時に君の隠しポケットに入っているものを撃ったというのに気がつかないなんて」
ハッとしたスコーピオンは隠しポケットの毒が漏れ出ていることに気づき、毒が空気中に放たれたことを悟った。
「その毒に対して免疫はないだろう?自分の策で死ぬなんてかわいそうに。ちなみにだけど僕に毒は効かないよ。幼少より訓練を受けているからね」
「くっ……そ……」
薄れ行く意識の中でスコーピオンは圧倒的な力の差を感じながら死んでいくのであった。
「さあ、窓を開けて換気しないと。警察が来て毒で死んじゃったらどうしようもないからね」
※
昨日の夜はとてもいい時間を過ごせた。それにマスターに言われたように自分が成長できたような気がしてる。ふふふっ!まだまだ私は成長できるんだって思うとやる気が出てきたわ!
「君島さ~ん!今夜一緒に飲みに行こうよ~」
「いい加減セクハラで訴えますよ!?行きません!」
「ほげぇ!」
それに比べて成長しない男ね、粕男は。でもそんな粕男のことを気になってる自分がいる。これまでは否定していたけど、今はちゃんと受け止められている。と同時に粕男に何か違和感があるのよね。それが分からない。
「蓮奈~!また振られちまったよ~!慰めてくれよ~!」
「はいはい、残念でしたねー。次はもっといい女の子を誘いなさい。私みたいな、ね」
粕男が口を開けて固まっている。何そのマヌケ面。
「蓮奈大丈夫か!?何か変な物でも食べたのか!?」
「何?いきなりどうしたのよ?」
「今まで慰めて~なんて言っても相手にしてくれなかったじゃ~ん!それが急にどうしたんだよ~?」
いつものやりとり。粕男がふざけてそれに対応する。そもそもこのやりとり自体に違和感を感じる。なぜかしら?今までこんなこと感じたことなかったのに……。
「ねえ粕男。あんた何か隠してる?しかもずっとずっと長い間」
その瞬間、粕男があの慈愛に満ちた目で微笑んだ。
「さあ、どうだろうね~!今日もやけ酒か~!」
またはぐらかしながらどっかへと消えていった。今ここではっきりした。普段ふざけてる粕男も気になってるけど、私は今あの微笑んだ粕男にときめいているんだってことに。私の知らない粕男が確実にいる。粕男、あなた一体何を隠してるの?
※
ここは葛原一家が住む家。鹿鴉雄)の祖父である虎太郎とその妻の絹江、父である鷹司とその妻の優美が家族会議を開いていた。
「二人にはまた苦労をかけさせることになるが、儂と鷹司は現役復帰しようと思っておる。いいか?」
「あんたは言い出したら聞かないからねえ。もう何十年あんたに付き合ってきたと思ってるんだい?今さら迷惑が一つや二つ増えたってあたしゃ構わないよ。優美ちゃんはどうなんだい?」
「何か理由があって現役復帰しようとしていると思うんです。鷹司さん、理由を教えてもらえる?」
「この間中国のマフィアを潰しただろう?その時にまだまだやれるなって思ったのが一つ。もう一つは葛原の分家が敵側につくことが豹一郎の情報で分かったからだ」
「葛原の分家ってお義父さんの弟さんですよね?九州を拠点にしている……」
「そうじゃよ優美さん。あのバカが東原建設と組んで天宮商事を潰そうとしている。流石に鹿鴉雄一人じゃ大変じゃろう?」
「本家と分家が争うことになるとはねえ。となると一家総出で迎え撃った方がいいんじゃないのかい?」
「ああ、でも母さんと優美はこれまで通りでいいんだ。裏稼業の人間じゃないからな。ただ今回は美鶴と雀朱も参戦してもらうつもりだ」
美鶴は美月のことだ。雀朱とは普段は涼美と名乗っている美月と双子の姉妹である。二人とも現在は大学4年生で就活中の身である。と言っても天宮商事に就職することは決まっているのだが。
「あの子達、大丈夫かしら?鹿鴉雄と比べるのはいけないけど実戦経験はまだまだよ?」
「安心せい。血の掟があるから死ぬことはない。それに葛原の家に生まれた以上、戦うことは運命じゃ。避けられぬ」
「問題は分家の方がどう出てくるのかだ。叔父さんは周りを巻き込む癖があるからな。天宮商事の社員全員が危険に晒される可能性も考慮しておかないとな」
「そういうことでしばらくは鹿鴉雄も家から会社に通ってもらうことにする」
「鹿鴉雄が帰ってくるのね!あの子には小さい頃から苦労させてばっかりだから帰ってきたらいっぱい甘やかしてあげないと」
※
私はいつも会社へは電車を使って通勤している。天宮家の令嬢だから専用の車を用意してもらうこともできるんだけど、私自身が特別扱いされたくないと思っているからこれまで車を使ったことはない。
「おはよう蓮奈。久しぶりに朝が一緒になれたな」
「おはようお父さん。そうだね、ずっと忙しかったから仕方ないわよ」
「それで蓮奈。聞いたが裏社会に足を踏み入れたみたいだな」
え?もうそんなことがお父さんの耳に入っているの?
「うん。本当はダメなことなのかもしれないけど、裏社会と関わることになっちゃった。ごめんなさい」
「謝ることはない。むしろ謝るのは私の方だ。色々巻き込んでしまい申し訳ない。それで、だ。今日からしばらく会社と家の移動は車でするようにしなさい」
今まで私の自主性を尊重してくれたお父さんがそういうことを言うのは珍しい。ということは何か私関連のことがあったとみていいわね。
「また何かに巻き込まれそうなのね?」
「相変わらず蓮奈は察しがいいな。そうなんだ。今回は蓮奈だけじゃない。天宮商事が狙われ兼ねないかもしれないんだ」
「えっ!?そんな大掛かりなことになってるの!?裏社会が堂々と表舞台に出てくるなんてことあるの?」
「正直なところ分からないんだ。ただ、蓮奈が狙われていることだけは確実だ。だからしばらくは身の安全を考えて車で移動してくれ。運転手は腕利きを用意してもらってある」
「分かったわ。でも今まで私何度も狙われてて車なんてこと言われなかったのに急にどうして?」
「それはこれまでカラスが蓮奈のことをずっと護ってくれていたからね。でもどうやら今回の相手は一筋縄ではいかないらしい。だからこういうことになったんだ」
ん?おかしい……。だって私が一人っ子だってことはずっと前から分かってたことでしょ?となると私は私が命を狙われていると気づく前からずっと狙われていた可能性があったって考えられるもんね。それをずっとカラスが護ってくれていた?
「ねえお父さん、カラスの護衛の依頼っていつから始まったの?」
「北斗商事が裏でコソコソとし始めた頃だよ」
それだとつい最近ってことになるわよね……。でもお父さんは「ずっと」って言っていた……。どういうことかは分からないけど、一つだけ分かったわね。
「お父さんはカラスの正体を知ってる?」
「いや、私は知らない。あくまで依頼して護衛をしてもらっているだけだからね。裏社会の存在は知っていても誰がどうとかは明かしてもらえないからな」
やっぱり。お父さんは私に嘘をついている。本当はカラスの正体を知ってるんだ。知らなかったら「ずっと」なんて言葉出ないもの。
本当は問い詰めたいけど多分はぐらかされる。カラスの正体は自分で暴かないといけないのは変わらないみたいだけど、少し正体に近づけたと思う。
「じゃあそろそろ時間だから車で出勤するね。お父さんも気をつけてね」
「ああ、ありがとう」
家を出るとすでに車が手配されていた。
「おはようございます天宮先輩!今日から運転手としてよろしくお願いします!」
運転手はまさかの昴君だった。確かに腕利きの運転手ね。
「おはよう昴君!今度は私の運転手として動いてくれるのね」
「はい!カラスにドライビングテクは鍛えられていますから。確実に会社まで、そしてご自宅までお届けいたします!」
「それじゃあしばらくよろしくね!」
※
Side???
「ちっ!早速守備が厚くなってやがる!出端を挫かれるとは」
「やはり本家。そう簡単にはやらせてもらえそうにないな」
「よし、作戦の練り直しだ!長老に報告しろ!」
長老と呼ばれた男——葛原虎太郎の弟であり、未だに現役として九州を拠点に活動している葛原象次郎を中心とする葛原分家は一族を除く下っ端も入れれば600名近い集団だ。
下っ端であれば手厚くなった守備網であっても突撃したであろう。しかし、ただの裏社会の組織ではない。下っ端であっても相当の訓練を積んでいる。もはや軍隊と言っても差し支えないくらいに統率のとれた集団である。
その集団が本家に牙を向いた。つまりそれだけの覚悟をもって本家を潰さんとしている。果たして葛原本家はどのようにして葛原分家に立ち向かうのであろうか。
お読みいただきありがとうございました。
自分の連載スタイルは一区切りがついたらしばらく間を開けてから再スタートとしています。
第1章が終わりましたら、少しお時間をいただき、第2章をスタートさせたいと思います。
引き続き、第1章よろしくお願いいたします。




