ひとりと、もうひとりのわたし
教室の後ろの席で、陽は、頭をかきながら笑っていた。
「いや〜、さっきの発表、めっちゃ噛んじゃったなぁ…」
友達は笑ってくれたけど、自分の中には、もやっとした塊が残っていた。
家に帰ると、ふと鏡を見る。
そこには、どこかうつむいてる自分が映っていた。
そのとき、心の奥で声がした。
「また、やっちゃったって思ってる?」
声の主は、陽自身。でも、どこか少しだけ年上の、やさしいもうひとりの自分だった。
陽は、鏡の中のその声に問いかける。
「どうして、あとから恥ずかしくなるんだろう?」
するとその声が言った。
「それだけ本気だったから。恥ずかしさって、まじめに向き合った証拠だよ」
陽はしばらく黙ってから、ぽつりとこぼした。
「失敗した自分を、笑ってごまかすクセがあるんだ」
「うん。でも、その“笑い”は、自分を守ろうとしてるんでしょ。えらいよ」
その夜、陽は自分のノートを開いて、ページのすみにこう書いた。
『今日のわたし:がんばった。
噛んだ。照れた。笑った。全部、ちゃんと生きてた証。』
次の日、陽はまた教室に向かう。
何かやらかしても、笑われても、きっと大丈夫。
なぜなら、どんな自分とも――
もう、少しずつ仲良くなっていける気がしていたから。