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ぼくは君の特効薬(横読みマンガ原作)

作者: 風戸輝斗

縦読みマンガを想定してつくった原作脚本になります。

■登場人物:

 小春日和(こはるび・のどか/男/高校二年生)

・父親に地球を征服するよう命じられて一年前から地球で暮らしている宇宙人。

人と容姿の違いはほとんどないが、身体能力が異様に高かったり、超能力(物体を触れずに動かす。動物と意思疎通する。など)が使えたりする。

が、普段は力を隠して普通の男子高校生を装っている。

・つながりに飢え、無自覚に友だちを欲している。

・自身の纏う微粒子が微熱症候群の唯一の抗体であると自覚していない。


 水津羽波(みづ・はなみ/女/高校二年生)

・微熱症候群を患う少女。二歳の頃から罹患しており、今年で命を落とすだろうと医師から宣告されている。

生活の大部分に制限がかかっているが、笑顔を絶やさず前向きに過ごしている。

が、それは虚勢。誰にもバレずにこっそり泣いているから気づかれていないだけである。

・人生最後の一年は、全力で青春を謳歌したい思っている。


■補足説明:

 微熱症候群→極少数の人間が患っている未知の病。365日、37.5℃前後の微熱に侵される。

       治療法は見つかっておらず、罹患者は生活の大部分を制限される。

       感染してから15年以上生きた人間は観測されていない。


■第1錠:お薬契約


>01

  桜が咲き乱れる並木道を歩く和。

和(M)「春がやってきた」


楽しそうに雑談する生徒が脇を通りすぎる。


前を歩く生徒の背中に視線を向ける和。(口元だけをアップ)


 しかし、なにも言うことなく口を閉じる。


>02-03

○学校

新学期で沸き立つ生徒と和の孤独が対比になる構図をやや大きめのコマで。

  見開きの半分くらいを使うイメージ。

和(M)「地球で迎える二度目の春だ」


  クラス分け名簿の前にたくさんの生徒がいる。

クラス分け名簿から人が捌けるのを待つ和。

和(M)「ぼくはお父さんに地球を征服するよう命じられて去年の春に地球にやってきた」


  周囲の生徒から怪訝なまなざしを向けられるも動じない。

和(M)「地球でいうところの宇宙人だ」


  人が捌けたところで名簿を確認しにいく。

和(M)「もっとも、誰にも気づかれていないけれど」


  二年三組の名簿で、『小春日和』という名前を確認する。


  生徒玄関に足を進めようとすると、背後から「また同じクラスだね」と声がする。


 >04-05


  振り返ると、ふたりの女生徒が「やったねー」と談笑している。


  なんとも言えない顔をする和。

和(M)「友だち、か」


  その姿を少し眺めたのちに、玄関で靴を履き替える。


  無表情のまま廊下を歩く和。


  と、窓の外で親鳥がカラスから必死に小鳥を守っている姿が目につく。


誰も自分に注目していないことを確認し、手を伸ばす和。


瞳が輝く。


>06-07


  和の力で硬直するカラス。


  カラスが目を向けた先では、眉間に小皺を寄せる和がいる。


  怯えるカラス。

テロップ「やめろ」


颯爽と空を駆けていく。


  頬を少しだけ緩め、和は再び足を進める。


  二年三組と書かれたプレートのアップ。


  教室に入ると、既に喧騒に包み込まれている。


  きょろきょろして黒板に貼られた席順表を発見する。


確認すると、窓際の列の最奥。


  隣の席の子が『水津羽波』という名前をあることを確認する。


  振り返る和。


>08-09


  和の隣の席には、羽波が座っている。


羽波をアップ。


  違和感を覚える和。

和(M)「どこかで見たことあるような…」


  机の前につくと、ちらりと羽波が見つめてくる。


  こくりと和が頭を下げたタイミングと、和が口を「あ」の形にするタイミングが重なる。


  椅子に腰かけ、ふぅと息をつく和。


  ふっと羽波の顔がほころぶ。


>10-11


羽波「おはよ、お隣さんっ」

  びくっと、大きく肩を揺らす和。


  和が振り返ると、羽波が微笑んでいる。


羽波「ははっ、そんな驚くことないじゃん」


  なにか言いたげに少しだけ口を開く和。


和「…お」

羽波「ん?」


和「……おはようございます?」


  ぽかんと口を開けて。


  ぷふっ、と堪えきれないように噴き出す羽波。


羽波「ははは、なんで敬語なのさ」

和「…えと」


羽波「しかも疑問形!」

和「(少し恥ずかしそうな表情)」


>12-13


和(M)「同級生とあいさつを交わすのはこれがはじめてのことだった」

和(M)「ぼくには家族も友人もいない」


お腹を抱えて笑う羽波。

和(M)「だから――嬉しかった」

和「も、もう一回」


羽波「ん」


和「もう一回。やり直させてほしい」


羽波「あいさつを?」

和「うん」


  少し考え込む姿を見せて。


いたずらっぽく微笑む羽波。


羽波「あいさつは一日一回までだからね。今日はだめかな」

和「…そっか」

  しょんぼりと俯く和。


羽波「だから」


>14-15


羽波「また明日」


  顔を上げる和。


笑みを浮かべる羽波と視線が交わる。


羽波「わたしは水津羽波みづ・はなみ。君はなんていうの?」

和「…小春日和こはるび・のどか

羽波「あ、『のどか』って言うんだ」


  珍しい名前だねぇと驚いた顔をする羽波。


羽波「てっきり『小春日和こはるびより』って名字で先生が名前忘れてるんじゃないかと思ってたよ~」


  あははと笑う羽波。


釣られて、和の頬が少し和らぐ。


  羽波をアップ。

羽波(M)「覚えてないのかな?」


>16-17


教師「じゃあ、自己紹介はじめるぞ」


  出席番号順に自己紹介が行われていく。


  和の順番が巡ってくる。


和「小春日和です。趣味は小鳥とじゃれあうことです。よろしくお願いします」


  クラスメイトの反応がイマイチのなか、羽波だけが「おっかし~」と声を殺して笑っている。


羽波「水津羽波って言います。『微熱症候群』のせいで、去年はほとんど学校に来ることができませんでした」


和「え」


羽波「あ、微熱症候群だからって変に特別扱いしないでね?」


羽波「今年こそは普通の女子高生として青春を謳歌できるようがんばるつもりです。みんなよろしくね! あ、質問ある人どんどんどうぞ!」


 「罹ってる人はじめて見たけど案外普通なんだなぁ」と和の前の席の生徒がつぶやく。


>18-19


羽波「今日はなんだか調子がいいんだ。…あ、死亡フラグとかじゃないよ?」

和(M)「微熱症候群――ごく少数の人間が患っているとされる原因不明の病だ」


羽波「感染はしないんだって。だからばい菌扱いしないでね」

和(M)「微熱症候群を患う人は年中37.5℃前後の微熱に侵されて生活の大部分を制限される」


羽波「行きたいねえ修学旅行。わたし、人生で一度も修学旅行に行ったことないんだ」

和(M)「そして、例外なく発症してから15年以内に心身が疲弊して息絶える」


  笑顔を振りまく羽波を見つめる和。

和(M)「無理してるのかな」


  羽波が席に戻ってくる。

羽波「というわけだから。小春日くんも変に気を使ったりしないように」


和「…努力はするよ」

羽波「うん、それでいい」


  クラスメイトの自己紹介に大袈裟に反応する羽波を見つめる和。


  うつむく。

和(M)「なに同情してるんだぼくは…。人でもないくせに」


>20-21


  放課後になり、ざわつく教室。


羽波「ごめん。カラオケとかはちょっとお医者さんに自重するよう言われてて」

  クラスメイトからの遊びの誘いを申し訳なさそうに断る羽波。


  手を振って羽波の元から離れていく女生徒たち。


  教室前方に男子生徒の集団ができている。


が、和に誘いがかかる気配はない。


羽波「行かなくていいの?」

和「うん。ぼくはみんなとは違うから」

羽波「?」


羽波「じゃあどうしてそんなに羨ましそうな顔してるの?」


  小さく口を開く和。


和「…どうしてだろうね」


  男子生徒のひとりが視線を向けているが、気づかずに和は背を向ける。


  羽波はその視線に気づき、口角を釣りあげる。


>22-23


羽波「…見つけちゃった」

和「なにを?」


羽波「こっちの話。じゃあね、また明日っ」

和「うん」


  軽快な足取りで廊下を駆けていく羽波。


和(M)「すごく元気な子に見えるんだけどな」


  ひとりぼっちで帰路をたどり。


  ひとりぼっちで夕食を食べ。

 

  ひとりぼっちでお風呂に浸かり。


  ひとりぼっちで勉強し、読書し


  ひとりぼっちでベッドで寝つく和。


和「…寂しいな」


>24-25


○教室

 羽波「おっはよー小春日くん!」

 和「…おはよ」


 羽波「どうしたの元気なくない?」

 和「そういう水津さんは今日も元気いっぱいだね」


 羽波「うん。なんだか昨日からすごく調子が良くてね。…ってわたしの名前呼んだのはじめてじゃない?」

 和「言われてみればそうかも」


 羽波「じゃあ今日は『友だち記念日』だねっ」

 和「友だち記念日?」

 羽波「そ。友だち記念日!」


リュックから日記帳を取り出し、ペンを走らせる羽波。


ページを和に見せてくる。


 羽波「毎日が記念日なら毎日を特別に感じられると思うんだ。どう名案だと思わない?」


 和「…そうだね」

少し頬を緩める和。


 羽波「ふふ。小春日くんって意外とわかりやすいんだね」

  嬉しそうな羽波。


>26-27


 羽波「おっはよー小春日くん!」

 和(M)「翌日も水津さんはぼくにあいさつしてきた」


  机を向けあってお弁当を食べる和と羽波。

和「まったく体調を崩す気配がないね」

羽波「ねー。三日連続は最長記録だよ。さては微熱症候群完治してたりして」

和「それなら願ったり叶ったりだけど」

和(M)「あいさつだけじゃなく、ご飯をいっしょに食べたり」


  図書館で勉強する和と羽波。

和「勉強する気ないでしょ?」

羽波「このマンガ途中までしか読んでなかったんだよね~」

和(M)「放課後の図書館で駄弁ったり」


  桜が咲き乱れる並木道を歩く和と羽波。

和「普段はどうやって帰ってるの?」

羽波「学校前に停まるバスで帰ってる。わたし、実は通学路を歩くの今日がはじめてなんだ」


  足を止める和。

和「どうしてぼくにそこまで構うの?」


  ぴたっと足を止める羽波。


  振り返って、いたずらっぽく笑う。


羽波「さぁ? どうしてでしょう?」


  再び、足を進めはじめる羽波。


  羽波の後ろ姿を見て、和は小さくため息をつく。

和(M)「理由を聞いて、お礼を言いたかっただけなんだけど」


「明日から三連休だね」という羽波に、「そうだね」と相槌を打って歩く和。


>28-29


  空席をアップ。


教師「先日体調が悪化したらしく、水津はしばらく入院することになった」


  目を見開く和。


  隣の席を見る。


羽波『おっはよー小春日くん!』

  いつも通りあいさつをしてくる羽波のフラッシュバック。


和(M)「…大丈夫。すぐ戻ってくるに決まってる」


  羽波の笑顔がフラッシュバックする。


和(M)「だって、あんなにも元気いっぱいだったじゃないか」


>30-31


  羽波の席は空席のまま。和は頬杖をついて窓の外を眺めている。

教師オフ「であるからして――」

和(M)「水津さんが入院してから三日が経とうとしていた」


  ひとりぼっちでお弁当を食べる和。

和(M)「ひとりぼっちの生活には慣れている」

  羽波と弁当を食べた思い出のフラッシュバック。


  ひとりぼっちで図書館で勉強する和。

和(M)「だから水津さんがいなくたってへっちゃらなはず」

  羽波と勉強した思い出のフラッシュバック。


  ひとりぼっちで桜の雨が降る帰路をたどる和。

和(M)「へっちゃらなはずで…」

  羽波と並んで帰った思い出のフラッシュバック。


  足を止める和。


  瞳を涙で潤ませる和。

和「いきなりいなくなるなんてあんまりじゃないか…」


  スマホを取り出し、LINEを開く。


羽波『え、LINEやってないの!? はぁ~ほんとにいたんだそんな子』

  先週、和が羽波と交わした会話のフラッシュバック。


  たったひとりだけ登録された『水津羽波』の連絡先をしばし眺め。


覚悟を決めたようにタップ。


  すぐに相手が応じる。


羽波オフ「…小春日くん?」


>32-33


○病室

  患者着で、手首には点滴の管がつながれた姿の羽波。

羽波「なになに、わたしのことそんなに気にかけてくれてたの?」


和「…体調はどう?」

羽波「変わらないなぁ小春日くんは?」


  羽波がぽんぽんとベッドを叩く。


ベッドに腰掛ける和。


隣り合って並び沈黙するふたり。


羽波「隠してたけどさ、わたし今年いっぱいで死んじゃうみたいなんだ」

和「っ⁉」


羽波「微熱症候群が発症したのが二歳の頃。で、今年でちょうど15年目」


羽波「最後の年だから、多少調子が悪くてもやりたいこと全部やろうと思ってた」


羽波「ずっと憧れてた青春を満喫しようと思ってた」

  羽波の視線が和に向く。


羽波「けど、駄目だったみたい」

  いつも通りの笑顔を振りまく羽波。


  和のアップ。


瞳の端から一筋の涙がこぼれる。


>34-35


羽波「わたしのためにそこまで悲しんでくれるんだね」

和「…だって」


羽波「去年の入学式の日、助けてくれてありがとう」


羽波「あの日、朝から調子が悪かったのに入学式だから絶対行くんだって、お父さんとお母さんに無理言って参加させてもらったんだ」


羽波「あのとき、小春日くんが肩を貸してくれなかったらわたしは入学式に参加できなかったよ」


  ふらつく羽波に肩を貸す和の過去回想。

和(M)「あのときの…」

  羽波の話で記憶が蘇り、ハッとした顔になる和。


羽波「遅くなっちゃったけどありがとう」


羽波「恩返ししようと思ってね、お節介かもしれないけど、小春日くんの友だち作りの手伝いをしようと思って毎日いっしょに過ごしてたんだ」

和「ぼくのために…」


羽波「小春日くんのいいところをたくさん見つけて、それをみんなに伝えようと計画してたんだけど…はは、失敗だね」


羽波「わたしひとりじゃ物足りないよね。ごめんね、しっかり恩返しできなくて」

オフ「そんなことない」


>36-37


和「ありがとうを伝えたいのはぼくの方だよ」

  羽波の両こぶしを包み込む和。


羽波「ちょ、ちょっと、小春日くん…」

  顔を赤らめる羽波。

和「水津さんのおかげで、楽しい毎日を過ごせた」


和「ぼくはずっとひとりきりだったから、誰かといっしょにご飯を食べたり、勉強したり、同じ帰り道をたどったり」


和「そんな何気ない時間が、ありふれた青春が、すごくすごく楽しかったんだ」

羽波「小春日くん…」

和「だから生きることを諦めないで。水津さんならきっと微熱症候群なんかに負けずに何年も生きられる」


和「早く元気になって戻って来てよ。青春を謳歌するんでしょ?」

羽波「…うん。ありがとう」

  ほんのり涙を浮かべて微笑む羽波。


羽波「あ、お熱チェックの時間だ」


医療用体温計を額に当てる羽波。


羽波「あれ?」


>38-39


 36.4℃を示す医療用体温計。

羽波オフ「熱が引いてる…」


羽波「もう下がらないだろうって言われてたのにどうして…」


ハッと顔をあげて、勢いよく和を振り返る羽波。


羽波「もしかして小春日くんがわたしの特効薬なんじゃない?」

和「特効薬?」


羽波「だって偶然にしてはできすぎてるよ。始業式の日も、学校で過ごしてたときも、今も、小春日くんが側にいるときは、決まってわたしは元気になる」

和「た、たしかに…」

和(M)「微熱症候群が悪化したのは、ぼくと三日間会えなかったから?」


羽波「これは結ぶしかないね」


和も見慣れた日記帳を手に取り、すらすらとペンを走らせる羽波。


 「できた!」と声をあげて和にページを見せてくる。


>38-39


羽波「小春日くん、わたしと『お薬契約』を結んでくれませんか?」


  呆気にとられる和。


  吹き出す。


和「はは、水津さんは変わってるなぁ」

羽波「小春日くんが笑ってる…」


  羽波から日記帳を借り、すらすらと文字を躍らせる和。


  患者氏名と受領日の下に、『小春日和』と書かれている。


和「水津さん、ぼくと『特効薬兼お友だち』になってくれませんか?」


  面食らった顔をする羽波。


にっこりと笑みを浮かべる。


羽波「もちろんっ。末長くお願いします」


>40


教室に入るなり、小さく口を開ける和。


笑みを携えて席に向かい、「おはよう」と声をかける。


羽波「おっはよー小春日くん!」

  元気いっぱい元通りの羽波。


羽波「えへへ、やっぱり小春日くんが側にいると調子がいいなぁ」


  鞄から日記帳を取り出す羽波。


  やりたいことがたくさん書かれた日記帳を見せてくる。

羽波「これからいっしょに青春しようねっ」


                                  ―FIN―


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