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拳しか勝たん!

作者: みぞれ時雨

みんなロボットは大好きか?

 そうか、ここにいるみんな、ロボットが大好きだろうな

 では、ロボットが使う武器の中では何が好きだ?

『銃』か? 『ソード』か? ふむふむ『波動砲!』『ドリル!!』

 そうか、そうか、だが私はな、

こぶし』が好きだ、大好きだ!


   『拳しか勝たんッ!』





 無限の宇宙、様々な文明が栄える星々

 そんな中の一つ


 この世界には沢山のロボットがいる。それは日常に溶け込む程に、

 街を綺麗にするロボット、荷物を運ぶロボット、人間をおもてなしするロボット

 そんな様々なロボットがいる世界で、僕が一番好きなロボットは・・・

「「「「わぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」

「はじまるぞっ!」

「俺の席確保しておいてくれ~」

「はいはい、店の前で立ち止まらないでねー」

 歓声が上がりざわつき始める街、

 顔を上げる。

 視線の先は高層ビルに取り付けられた巨大モニター

 はじまる!

『カーン』

 街中に大きなゴング音が鳴り響いた。


 巨大モニターに映っているのは、人間の大人サイズの二機のロボット。お互い間合いを図るように、正方形のリングを左右対称の方向へ歩いていく。

 赤いロボットがチャンピオン。機動性重視の伸縮性の高い細めの脚、肩も頭も四角いパーツで構成されている。四角い頭に取り付けられたモノアイが相手の機体を捉える。

 対するチャレンジャーのロボットは輝く青色。脚の形状は太腿、膝、ふくらはぎ、足、と人に近いフォルムのパーツで構成されていて、とてもガッチリしているイメージ。丸みを帯びた小さな頭に丸い肩、細めのアイセンサー二つが緑の光を放っている。

「カッコいい・・・・」

 思わず声を漏らす、初めて見るデザインの機体だ。

 両者のにらみ合いが続く・・・

 と、赤いチャンピオンのロボットが腰の両側についた凹型の物体を両手に持つ。そして凹のへこみ部分に手を装着すると、『カチリ』という音とともに右手の方からは光が伸び、左手側からは光の小さな壁が現れた。

 チャンピオンのいつもの武装だ。

「「「わーーーーっ!」」」

「「「「「勝ったな!」」」」」

 街中に歓声が上がる。

 レーザー兵器とはいつ見ても不思議ですごい!未知へのワクワクが止まらない!!

 対するチャレンジャーの青い機体・・・・立っていた。ただ、チャンピオンの機体に対峙するだけ、なんの武装も取り出さない。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・


 長い沈黙。両者まったく動かない


 ざわつき始める街

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 それでも両者の沈黙が続く。


「何やってんだっ!ロボットのお見合いなんて見ててもつまんねーぞっ!!」

 しびれを切らした誰かが、そんな野次を飛ばした。

 その時、

 もの凄いブレーキ音と、衝突音、そして何かが転がる音

 全てが一瞬だった。

 先に仕掛けたのは青い方、一直線に繰り出されたその拳がバチバチと火花を上げている。

 リングの場外に転がる赤い塊、

 赤いロボットの頭部だった。

 『カンカンカーン』

 決着を告げるゴング、

 一定量以上のパーツが場外に落ちた機体は”敗北”である。

「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」」

「新チャンピオンだっ!?」

「新チャンピオン!、新チャンピオンの誕生だーっ!」

「チャレンジャーマッチ初の下克上だぞーっ!!」

 歓声に包まれる街

 今までにない、武器を使わないロボットの勝利に皆が称賛を送っていた。





「あれから10年か」

 うす暗い部屋の中、一人呟く。

 今でも覚えている。あの試合の結末・・・・・


 チャンピオンを打ち破ったと思われた青い機体は急な猛スピードによる発進、急ブレーキの反動、そして相手に重い拳を打ち込んだ衝撃でオーバヒート。

 結果、チャンピオンの機体の頭が場外についたのが先か、チャレンジャーの機体がオーバヒートで機能を停止したのが先か分からず、試合はドローに。

 一瞬で静まり返った街、今でも覚えている。

 しかも、あの試合はそれだけでは終わらなかった。

 チャレンジャーが実は棄権していた事、観客への払い戻しを恐れて運営が急遽代役を立てていた事、あの機体が即席で作られていた事、そしてあの機体を誰が造ったのか不明な事、後になって次々と出てくる真実、

 その訳の分からない試合で負けたショックか、チャンピオンも引退してしまった。

 皆が歓声を上げ、称賛した試合の何とも言えない結末。


 しかし、私にとってチャンピオンの引退もロボットバトルの裏事情もどうでもいい事であった。そんなことより私は・・・・


 製作者不明の青い機体、その機体から放たれた一撃。あのあと幾人ものロボット技術者があの機体を、あの拳を再現しようとしたが叶わず、ロボットバトルから姿を消していった。

「だが、あれから10年私はついに完成させたのだっ!」

 思わず大声を上げてしまう。そんな私の目の前には、

 青いボディ

 人に近いフォルムのしっかりとした脚

 小さく丸みを帯びた頭

 丸い肩パーツ

 今、目の前に私の思い出のロボットはいる。

 10年、少年だった私の青春全てを捧げ、誰も再現出来なかったロボットを・・・

 否、この機体は急激な加速にも、大きなショックにも耐えられる。私の造ったものは思い出のロボットを超えた完璧な完成品なのだ!

 誰もできなかったあの拳、あの試合、

 それを今日ここで再現する。

 鈍い音とともに大きな扉が開き、舞台を照らす無数の光が視界を一気に白く染める。

 そう、ここは


『カーン』

 試合開始のゴングが鳴る。あの時と同じ様に、

 ただ違うのは、これはチャレンジャーマッチではなく、チャンピオンに至る為の通常大会、その第一回戦に過ぎないという事。

 そしてこれが私の初試合であり、最初の一撃となる!

 コンソールパネルに手を置く、ショートカット化された指示パターンが並ぶ中から『拳』と書かれたものを押す。


『カンカンカーン』

 決着を告げるゴングが鳴った。

 リングの上、そこには


 ・・・・・両の腕から煙を上げる青い機体、

 腕には無数の赤く焼き切れた穴、もう攻撃する手段はない。

「おじさんさ~」

 コンソールパネルのスピーカーから声が聞こえる。対面にいる学生服姿の髪の短い少年が通信で話かけてきているようだ。

「その機体って10年前の伝説のモノマネ?」

 少年は楽しそうな声で言う。

「あ・・・・」

「今更時代遅れ過ぎるよそんな機体、やろうとしてた事もわかりやす過ぎだし、だいたい奥の手は最後に取っておかなくちゃ」

 こちらが答えるのを待たず、わかった様な言葉を並べる少年。そして、

「それに今は銃の時代だからさ。」

 そう言い捨てると無傷の黒い機体と共に去っていった。

「時代遅れ・・・・銃の時代・・・・・・」

 私の捧げた青春時代。今それを謳歌しているであろう少年に、

 私は一瞬で惨敗した。

 10年、ただひたすら10年間黙々と、この時の為に、この機体を・・・・

 目の前のリングには無残な姿で立ち尽くす青いロボット、私はただそれを見ている事しかできなかった。




 3年後


 眩い無数の光、

 正方形のリング、

 そこには青い機体が立っていた。

 私は再びここに帰ってきた。ある方法を利用して、

 ”チャレンジャーマッチ”

 チャンピオンは年に一度、チャレンジャーの挑戦を受けなくてはいけない決まりがある。そして誰の挑戦を受けるかはチャンピオンが選ぶことができる。

「まさか”おじさん”が挑戦状を出してくるとは思ってもみなかったよ」

 コンソール越しに聞こえる声の主は、3年前まだただの学生だった、

「いや~、助かっちゃったよ、今年のチャレンジャー枠は楽させてもらえちゃって」

 チャンピオンの少年。

「私も嬉しいよ、君がチャンピオンになってくれていて」

 コンソール越しにそう返すと、対面で私の言葉に眉を吊り上げるチャンピオンの顔が見えた。

 ”噓つけ”と言わんばかりの表情でこちらを見ている。

 だが、実際私の言葉に嘘偽りはない。何故なら、

 チャンピオンがチャレンジャーマッチで選ぶのは大体確実に勝てそうな相手、つまり一度は勝ったことのある相手だ。それがコテンパンに心折れるような負け方をさせた相手なら尚更、

「今回は何秒持つんだろうね”おじさん”」

 選んで貰える。

 これは引退した赤い機体のチャンピオンが昨年出した自伝に書かれていた。その結果、訳の分からない機体に実質負けて引退した事まで赤裸々に。

 リングを見て、思わず笑みがこぼれそうになるのを堪える。

 少年の時見たあの場所、今度は本当に立っている。青い機体と共に、

「ありがとう、この機会をくれて」

 改めてお礼を言う。

 するとチャンピオンは顔を背けて「チッ」と舌打ちをくれた。

「まもなくゴングです」

 はじまる!

『カーン』

 試合開始のゴングが鳴る。あの時と同じ様に、

 コンソールパネルには行動パターンをショートカット化したものがずらりと並ぶ。

 まずは相手の動きを窺う。

 ボタンを押すと青い機体が右へと歩き出す。だがチャンピオンの黒い機体は、ヘッドパーツについたモノアイだけが後を追った。あの試合とは違う・・・チャンピオンの機体をみる。

 改めてよく見ると、チャンピオンの機体は全体的に長方形の腕と脚、円柱を横にした型の関節と、あまり特徴のない少し古めの人型ロボットだった。ただ頭の形だけはテンガロンハットの様な形をしている。凄い拘りだ。

 前回、相手の機体をちゃんと把握しなかった事を反省しつつ

 さて、

 更に別のボタンを押す。

 すると青い機体は足の側面のローラーを降ろし、チャンピオンの黒い機体に向かって急発進した。

「おじさん、ワンパターンすぎるよっ」

 嬉しそうなチャンピオンの声がコンソール越しに響く。

 だがそれは聞き流す。狙うは一瞬・・・・・・・

 今だ!

 引き金にかかっている黒い指が動く瞬間、またボタンを押す。

 青い機体の上半身、その左右を無数の光が通り過ぎていった。

 青い機体は上半身だけを横に向け、光の弾丸をかわしていた。下半身は未だに正面を向いたまま黒い機体に向かっている。

 やっぱりか

 今まで何度もチャンピオンの試合は見てきた。そしてその殆どは相手の武器を速攻で破壊、戦意を喪失させるという戦法だった。

 ワンパターンだから通じた。

「今度こそ叩き込む!」

 思わず声に出す。ボタンを押す手にも熱がこもる。

 だが、チャンピオンも一瞬虚を突かれただけで、すぐに銃口を青いボディに向けてきた。

 銃口が光る。

「なっ!」

 短く声を上げたのはチャンピオン。

 光はまたも通り過ぎていく、今度は狙った胴体自体がそこにはなかった。あるのは向かってくる下半身だけ。

 黒い機体が銃を下半身に向けて構える。

 その刹那、

 大きな衝撃音、巻き上がる土煙、

 会場が騒然とする。

「ありえない・・・・」

 チャンピオンがこぼす。

「こんな事の為にあんなギミックを組むなんてありえないっ!」

 コンソール越しにチャンピオンの叫びが反響する。そんな中、土煙から何かが飛び出した。

 チャンピオンの黒い機体だ。

 徐々に土煙が晴れていく・・・そこには青い機体と地面に穿たれた大きな穴。リングの強固な床は砕かれ、下の土が剥き出しになっていた。

「どんな破壊力だよっ!」

「あのリングって壊せるのかよっ!」

 会場のテンションが上がる。

「そのパンチの為だけに上半身を捻じったり、射出したり、ありえなさすぎるっ!」

 そんな中、声を荒げるチャンピオン。

 咄嗟に攻撃を止め避けさせた事は称賛するが、今その声に構うつもりはない。

 コンソール越しの叫びに構わず更にボタンを押す。

 土煙に紛れて上下ドッキング済の機体は、再度黒い機体に向けて急発進する。黒い機体もそれに反応する様に構える。

 流石に油断はしないか、

 チャンピオンの方を一瞥し、すぐリングの上に視線を戻す。

 その間も凄い勢いで青い機体が黒い機体へと迫る。青い機体が腕を引いた、拳の射程だ!

 リングが揺れた。重い踏み込みと、打ち出された右の拳の衝撃波で、

 しかし、その拳の先に黒い機体の姿はなかった。

 黒い機体は青い機体の踏み込みに合わせてあえて前進、そして拳が繰り出されると同時に身を捻り、放たれた拳、腕の外側へとかわした。そして機体の側面同士を擦りながら背面へと回り、

「チェックメイト」

 チャンピオンの声と共に黒い銃口が光った。

 ・・・・・・

 しかし光はまた空を飛んでいた。

 青い機体の上半身の射出。

 だが、チャンピオンはそれに合わせる様に黒い機体の右腕を上に、そして左腕を目の前の青い脚へと向けさせる。

 流石に二度は通用しない。

 次の瞬間

 地面には黒い機体が転がっている・・・・・

 一瞬の出来事だった。


 チャンピオンが右腕を上げさせた時、青い上半身は前回よりもかなり低く飛んでいた。そして上を通るように低く飛んだ青い上半身は黒い右腕を掴んだ。引っ張られた黒い機体はバランスを崩しつつ発砲、しかしその光は上半身に当たる事はなく、また下半身に届く事はなかった。

 その隙に青い下半身だけが器用に身を捻る、そして綺麗な回し蹴りが黒い機体の右脚に炸裂したのだ。

「これ本当に下克上あるんじゃねっ!」

「今度こそ初下克上くるかっ!」

 ダウンする黒い機体を見て会場のテンションは更にあがり、次々に下克上の言葉があふれ出す。

 そして、その言葉はチャンピオンを焦らせた様だ。

 銃口をこちらに向け、すぐに起き上がらせようと脚の力だけで無理やり起き上がらせた機体は左右によろついた。右の膝関節辺りで一瞬火花が散る。

 それでもチャンピオンは素早い手つきでコンソールパネルを叩きつづける・・・・・銃口をこちらに向けたまま黒い機体は徐々にバランスを取り戻していった。

 そしてすぐに歩き出す黒い機体、

 一歩、二歩、三歩、

 銃口はこちらに向けたまま後退りで、

 にらみ合う青と黒・・・・

 七、八、九っ!

 今だ!

 一番加速が乗る距離、青いボディが急発進する!

 それを見てすかさず黒い機体は青のボディ目掛け発砲する。

 光る銃口、何度も何度も光を放つ。

 直進する青いボディ、

 ・・・・・・・・・

 直進は止まらない!

 無数の光は青いボディに届く事なくかき消されていったのだ。

 拳が黒い頭へと伸びる。



 爆発音と閃光



 何が起きたのか、あまりの爆音と眩しさに会場の客たちも理解できない。

 理解していたのは二人だけ、下にいる双方のロボットの持ち主だけ。


 チャンピオンは拳の当たる瞬間、右手と持っていた銃で頭を庇わせた。

 右手だけならば、頭もろとも粉々になったのかもしれない。しかし、チャンピオンの使っていた銃はレーザー兵器、その中には膨大なエネルギーが凝縮されている。そして、それが破壊されるような事があれば・・・・


 高質量のエネルギー爆発で互いの機体は吹き飛ばされ、また距離をとる形になる。

 閃光が晴れて映し出される機体。黒い機体は塗装があちこち剥がれ、元の灰色の金属色が剥き出しになっていた。右腕は肘から下が殆どボロボロの悲惨な状態だ。

 そして青の機体は・・・・

 殴りかかった左手が無くなっていた。しかし、それ以外にこれといって破損は見当たらなかった。

「あんた一体なんなんだよ・・・・」

 チャンピオンが言葉を漏らす。

「こんなもの・・・・一体どうやって」

 その視線は一点を見ている。

 黒い機体の腰から伸びた紐の様な物、その先の尖った部分で貫かれた青い拳。中で高速回転している物がバチバチと激しく火花を上げていたが、少しして沈黙した。

「これってここに使われている物じゃないかっ!こんなのどうやって作ったんだよっ!」

 チャンピオンが声を荒げて言うこれとは、私達の前に存在している光の壁、それを発生させている機械の事だろう。

 その機械は私達と観客を守る為、どんな物理的衝撃もエネルギー質量もかき消してしまう壁を張っている。

 そう、確かに私は彼の銃に対抗する為、この技術を研究していた。結果的に物理的衝撃に対してまでは再現出来なかったが、

「こんな国家機密級の技術を、こんなロボットに・・・・」

 悔しそうにチャンピオンが唇を噛む、その姿に技術者として思うところはあった。

 だがこの手を晒して失ってしまった以上、もうこちらにも余裕はない・・・・・

 

 次で決めるしかない!


「チャンピオン!」

 私は声を上げるとともに拳を天にかかげる。

「私は拳が大好きだっ!」

 虚を突かれ静まる会場、そしてチャンピオン、

「次の一撃、この拳で決める!」

 それでも続ける。私のこれまで、全てを込めて、


「拳しか勝たん!」


 言い切った。

 私の前方には、リングの上で同じく右の拳を天に掲げた青い相棒がいる。

 勝利宣言である!



「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」」

「やれーっ!やっちまえチャレンジャーっ!」

「決めろーっ!13年前の拳っ!」

「逃げるなよチャンピオンっ!」

 会場のテンションが最高潮に達した!

 あの思い出の日の、いや、それ以上に、

 視線をリングに戻す。対峙する青と黒、

「・・・てみろよ」

 これで最後

「こっちは後は当てるだけなんだっ!やってみろよーーーーーーっ!」

 チャンピオンとの決着だ!

 激高するチャンピオンを見てすぐパネルに手を添える。

 距離は少し離れ過ぎているが・・・・・いける。

 押すボタンは”リミッター解除”

 その時光が通り過ぎた、だがもうそこに青い機体の姿はない。

 今まで見せていた以上の加速、例え光の弾速であろうと、それを撃つ機体の動きが追いつかなければ当てる事は出来ない。ましてその銃が1丁なら尚更、

 左右に微妙な蛇行をしながら青い機体がどんどん近づく、

 あと少し、拳の射程、

 その時、黒い機体が横に走り出そうとする。

 すかさず青い機体が下に垂れていた物を踏みつけた。

 黒い機体の腰から伸びる紐がピンと張り、バランスを崩しそうになる。

 紐を踏みつけたまま青い機体が腕を引く、

 黒い機体は腰のパーツをパージし、体勢を整え青い機体に向き直る。

 しかしもう至近距離!

 さっきの様に前に踏み出すのか・・・・

 いや踏み出せない。黒い機体の右膝関節が火花をあげ、一瞬よろついた。

 黒い機体のモノアイが、今にも拳を繰り出そうとしている青い機体を捉えた。

 次の瞬間、

 もの凄い量の光が青い機体を包み込んでいた。それは黒い機体のモノアイから放出されている大出力のレーザーだった。


 そして、光の柱が天に昇った。



 ・・・・・・・・・・

 訪れる静寂

 リングの場外に転がる黒い塊、

 黒いロボットの頭部だった。

『カンカンカーン』

「「「「「「「「「「わあああああああああああっ!」」」」」」」」」」

「やりやがった、やりやがったぞ!」

「13年前の決着だーーーーっ!」

 様々な歓声があがる。

 モニターには大きな”新チャンピオン”の文字、

 そして拳を天に掲げる青く輝く機体。

「なんで・・・・」

 膝をつく元チャンピオン。

「レーザーが・・・・なんでそんな凄いものを作っておいて、あれなら最初から・・・・・」

 少年の叫びが歓声の中に消えていく。

「奥の手は最後に取っておくものだから」

 コンソール越しに答える

 私の言葉に少年はハッとしたように顔をあげた。


 最後の瞬間、私の機体は黒い機体のモノアイレーザーに一瞬で焼かれた。そして蒸発した表面塗装の中から、青く輝くボディが姿を現した。その輝くボディは大出力レーザーを天に向かって弾き、


 その拳を黒い機体の頭部に叩き込んだのだ。


「確かに私は時代を見ず、ただ昔の、あの時見た感動の瞬間だけを追い求めていた。でもそれでは勝てないと君が教えてくれた・・・・受け入れるのに時間はかかったがね」

「・・・・」

「でもやっぱり変えられない物もあったんだ。あの拳の、あの感動の、その先を見たいという夢を」

「夢・・・・」

「だから、私はどんな手を使ってでもこの勝ち方をしたかったんだ」

 今度こそ、初めて”拳”でチャンピオンを勝ち取った者が現れた。

 その事に歓声と称賛が降り注ぐ。

 私があの時見たかった光景がここにある。

 でも今はそれだけじゃない!

 決着により、リング囲う光の壁が消える。

 さて・・・行くかっ!

 リングの上にあがり、青い相棒の横に立つ。高らかに拳を掲げる相棒の横に。

 息を吸う。さあチャンピオンとして、その先を・・・・言葉を吐き出す!


「みんなロボットは大好きか?」

 大勢の声が返ってくる。

「そうか、ここにいるみんな、ロボットが大好きだろうな

 では、ロボットが使う武器の中では何が好きだ?」

 様々な声が聞こえる。

「『銃』か? 『ソード』か? ふむふむ『波動砲!』『ドリル!!』

 そうか、そうか、だが私はな、

こぶし』が好きだ、大好きだ!」

 この言葉に会場が沸き上がる。

 さぁ始めよう、

「さぁかかってくるがいい。私のこの拳を砕きに、自分の自慢の武器を引き下げて」

 私の新しい夢。それは、あの時の私と同じ様に試合に感動し、夢を持った者たちが、

「私は誰の挑戦でも受ける、例えどんな相手であろうと」

 私の夢を追い越していくこと、だからその時まで、

「”拳しか勝たんッ!”」







 エピローグ


 あの戦いから数年、私の夢を越える者は未だ現れていない・・・・

 顔をあげる。

 視線の先は高層ビルに取り付けられた巨大モニター。

 全ての始まり、あの試合、あの機体・・・

 私がチャンピオンになった時、あの輝く青い機体を作った人はどこかで見てくれていたのだろうか。

 結局、私がチャンピオンになった後も、その人物の影すら見当たらなかった。

 もし叶うのであれば会ってみたい、そしてぶつけてみたい。

 私の青い”拳”が届くのか

 

 

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