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【完結】その言葉後悔いたしませんか?  作者: 夢子


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6/23

メイドの訴え

「おい、君、何かあったのか?」


 執務室へ向かう途中、顔色の悪いメイドを見かけグレンはそう声を掛けた。


「だ、旦那様……実は、私、奥様に虐げられているんです」


「デリシアに?」

  

 驚くグレンに対し、顔色が悪いままメイドは泣き出しそうな様子で頷いて見せる。


 本来メイドが直接主人に声を掛けるなどあってはならないことだが、彼女はメイドの中でも特別だった。


 彼女の名はキアラ・レンドル。


 グレンの知り合いであるレンドル男爵家から行儀見習いを頼まれ預かっている男爵令嬢であり。

 本来メイドになる必要のない男爵家の跡取りだった。


 当然この問題を放置するわけにもいかず、詳しい話を彼女から聞くため執務室へとキアラを連れて行く。

 彼女は自家のメイドであっても男爵から預かっている大事な令嬢だ。

 たとえ相手がグレンの妻デリシアであっても、問題を放置することは出来なかった。


 未婚の令嬢との話合いの為、二人きりになるわけにもいかずフランを呼び同席させる。

 気まずい話だからか、フランが部屋にいることを一瞬キアラは戸惑っていたようだが、グレンの補佐であるフランに話しを聞いてもらうことも大事だと悟ったからか、怯える様子でありながらもデリシアから受けている扱いをゆっくりと話し出した。


「……奥様は自分のお気に入りのメイドであるエラだけを可愛がっていて、私達の話など全く聞いて下さらないのです……」


 王女であるデリシアに付けたメイドは複数人いる。

 その中でもメインとなる四人は、メイド長のグレタと共に相談して決めた。


 主軸となるのがこの男爵令嬢であるキアラ。

 身元がしっかりとした貴族令嬢であり、仕事ぶりも真面目でちゃんとしているとメイド長が太鼓判を押す女性だった。


 ただしキアラは行儀見習いの真っ最中。

 いずれ男爵家を継ぐため辺境伯家を辞める可能性がある。


 なので長くデリシアについて貰えるであろうメイドもグレタと相談して決めた。


 一人は伯爵家出身の女性。

 実家は裕福ではなく六女という事で結婚先を準備できなかったからと、メイドとなりこの辺境伯家に勤めている女性。


 そしてもう一人も当然貴族令嬢で、こちらは子爵家の令嬢。

 やはり子だくさんの家の出で、平民と結婚するよりは貴族家で働きたいと言い辺境伯家で働きだした女性だった。


 そして最後にデリシアに贔屓されていると言われているエラだ。

 新人の為デリシア付きにするのは大分心配だったが、デリシアとは歳が近く話しやすいだろうとメイド長に大抜擢されたメイドである。


 平民出身の為本来ならばデリシアと言葉を交わす事など叶わないはずなのだが、人懐っこい性格だからとその朗らかさで選ばれたメイドだった。


「奥様は平民出身のエラだけを傍に置くのです。あの子は素直というか……奥様の仰ることは何でも聞く子なので……」


 つまりはデリシアにとってエラは何でも言うことを聞く奴隷扱いなのだろう。

 ためらいがちに話をするキアラの様子を見ればそんな事を想像するのは簡単だった。


 だが屋敷内で自由に過ごして良いと言ったのはグレンである。

 気に入ったメイドをデリシアがどう扱おうが口をはさむ権利はグレンには無い。

 それにデリシアは辺境伯夫人であり、元王女でもある。

 平民に何をしようとこの国の法律では問題になることは無いのだった。


 それに、デリシアはまだ十二歳の幼い少女だ。

 そんな彼女がたった一人で故郷を離れこの辺境伯家に嫁いできた。なので少しの我儘や癇癪があっても仕方がないと思えた。


 内々に軽く注意をして終わらせよう。


 フランと目配せをしそんな考えでいると、キアラが「そ、それに」と戸惑った様子で話し出した。


「私、暴力も振るわれていて……」


「暴力? あのデリシアがか?」


 年齢より大人びていて落ち着きのあるデリシアの事を思い浮かべる。

 お気に入りのメイドを優遇するということならまだ想像ができるが、グレンの不躾な言葉にも怒ることもなく、余裕顔で受け流し嫌味を返すほどのデリシアとメイドへの暴力が結びつかず、グレンの顔に疑問が浮かぶ。


「あの、直接的な暴力では無くて、グラスを投げられたり、お茶を掛けられたりするだけなのですが……」

 

 夜会でも時折女性が問題を起こすことがある。

 あの大人しい女性が? そう言われる貴族令嬢が気に入らない相手に対しワインを掛けたり、茶会でも呼んだ相手をあからさまに無視したりと、そんなことがあるのだと聞くことは辺境の地に住むグレンでもあった。


 女は男に見せる顔と同姓に見せる顔が違うのだ。


 誰に言われたかは忘れたが、そんな事はグレンだってよく知っているため、これまで後妻をと進められても乗り気にならずこれまで断って来た。


 (アレクシア)以外を娶る気になれなかったのが正直な理由だが、貴族女性の持つ裏の顔というのが苦手だったのも大きな理由の一つにはなった。


 デリシアは元王女だ。

 そう言った面でも王族らしさがあるのかもしれない。


 気に入ったメイドを可愛がり、その他を冷遇する。


 あり得ないことではないのだろうが、グレンの心は何故かショックを受けていた。


 取り繕うことなくグレンに嫌味を返し、直接勝負を挑むような様子を見せるデリシア。


 彼女には二面性や非道さや理不尽さなどないと勝手にそう思っていただけに、受けるダメージが大きすぎた。いつの間にかグレンはデリシアに多少なりとも期待していたようだ。


 それに、アレクシアに似ている。


 そんな事を思っていただけに、裏切ったようなデリシアに対して怒りを感じていた。


「分かった、こちらでもデリシアの様子を見て判断する。出来るだけ公平に決断を下すので安心して待っていて欲しい」


「ありがとうございます! 旦那様!」


 キアラはこれまでデリシアの行いに耐えていたからか、目に涙を潤ませお礼を言ってきた。

 一般的な貴族令嬢にとって、元王女であるデリシアからの攻撃は相当堪えるものがあったのだろう。




「フランどう思う」


 キアラが部屋から出て行くとグレンは信頼する側近に声を掛けた。

 元敵国の王女の行いにフランも思うことがあるのか、その表情はいつになく真剣だ。


「そうですね、少し探ってみるしかないでしょうね」


 ただ真実を突き付けてもあのデリシアならば上手くはぐらかすだろう。

 そう考えデリシアの様子を調べてみることにした。

 すると確かにエラだけを傍に置き、エラだけを優遇している姿が伺えた。


「メイド長、キアラからの話は聞いているか?」


 メイド長であるグレタに問い合わせてみればキアラからの訴えと共に、デリシア付きの他二人のメイドからも同じ様な訴えがあったことを聞かされた。


「それと、奥様がカップやグラスを割ってしまったと、何度か申し立てがございまして」


 グレタの言葉にフランと視線を合わせる。

 どうやら暴力の方も本当のようだ。


 あのデリシアが? という僅かな希望がグレンの中から消えて行く。

 気のせいであって欲しい。

 そう心の中で願っていたが、どうやらその想いもむなしく消えるしかないようだった。


「分かった。次に何かあったらデリシアに厳しく注意をしよう……」


 デリシアとグレンはまだ結婚したばかり。

 両国間の関係を考えれば今すぐの離婚は適切ではない。


 だがこのまま屋敷の中でデリシアの我儘な行動を放置することは出来ない。

 別邸に住まわせ大人しくさせるか、最悪王都の屋敷に住まわせ、辺境伯家には関わらせないお飾りの妻だと周りに宣言するしかなくなるだろう。


「まったく、王命による結婚の最低な結果の代表だな」


 独り事を呟いたグレンの言葉を、出来る従者のフランは聞こえないふりをしてくれたようだった。

 

おはようございます。

いつも応援ありがとうございます。

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別作品

家政婦ソフィアとエルフなご主人様

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夢子

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