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【完結】その言葉後悔いたしませんか?  作者: 夢子


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20/23

デリシアの能力

 リガーテ国の妾妃の娘として生まれたデリシアは、リガーテ国の王族が持つ黒髪、黒目という希少な特徴の両方を持って生まれたため、正妃の子供と同じ待遇を受けることが出来た。


 リガーテ国では昔から言い伝えがあり、黒髪、黒目の王族が生まれれば国が栄えるとそう言われていた。


 そもそも初代の国王が黒髪、黒目を持っていたためそんな言い伝えがあるのだが、そのお陰でデリシアが何不自由なく育ててもらえたことは幸運だった。


 周りの者が黒髪、黒目を持つデリシアを蝶よ花よと大事に育てる中、デリシアは怠慢にも我儘にもならず、常に冷静で一歩前を歩いているような恐ろしさも持っていた。


 デリシアは幼いころから子供らしくない子供であり 『流石、黒()の子』 と称えられ、皆に敬われていた。



「あーたはだーれ?」


 そんなデリシアが言葉を覚え、最初に言った言葉はそれだった。


 近くに居た乳母はてっきり自分のことを聞かれたのだと思い、名を答え内心デリシアが一歳になる前に喋り出したことに喜んだが、デリシアの黒水晶のような瞳は目の前にいる乳母を見ていた訳では無かった。


 リガーテ国の祖はシャーマンのような力があり、他の者に見えないものが見えていたと言われている。


 つまりその血を色濃く受け継いだデリシアは、他の者に見えない何かが見えていて、子供らしくないのもその力の影響を受けているからだった。


 そんなデリシアは当然すぐに自分と他人の違いに気がついた。


 皆、デリシアが見聞きするものが見えないし、デリシアが感じるものが分からない。


 それは孤独な子供生活を送るには十分な理由になったが、デリシアには心強い(味方)がいた。


「あれくちあ」


『可愛い私のデリシア』


 デリシアの周りには沢山の霊的存在があったけれど、アレクシアだけは特別だった。


 生まれてからずっとアレクシアはデリシアの傍にいて、常に言葉を交わし、本当の母や姉よりも愛情深くデリシアを愛してくれた。


 アレクシアは霊とかそう言った存在ではなくデリシアの魂の一部だと、幼くともデリシアは強くアレクシアとの繋がりを感じていた。


 そしてその繋がりはデリシアが成長しても変わらなかった。


 いや、成長したからこそ、その絆を強く実感できたとも言えた。

 

「アレクシアはきっと本当は私の中に入る魂の一部だったのだと思うわ。私には貴女だけが他の()と違って見えるの。他の彼らは全て儚くって、私が触ると消えてしまうでしょう。けれどアレクシアは違う。私が触れると貴女は輝くのだから……」


 勉学に励み様々な知識を身につけたデリシアは、アレクシアの存在を自分の守護霊のような物だと位置づけた。


 デリシアとアレクシアは縁もゆかりもない存在だけれど、魂に強い繋がりを感じ、自分自身の分身に近い存在だと感じる。


 デリシアとアレクシア、彼女たちが見る夢はいつも同じで、そして触れ合えばお互いの想いを共有できて、まるで魂を分けた双子以上の存在、自分の片割れ、そんな言葉がピッタリな存在だった。


 だからこそデリシアは、アレクシアの心の奥にある想いに気がついた。


 アレクシアが心の奥底に閉まってある記憶に、成長して力を付けたデリシアは触れることが出来たのだ。


「アレクシア、アレンって分かるかしら?」


『ア、レン……?』


 アレクシアの中にある、強い記憶の名を問いかける。


 アレクシアはその名を聞いた途端動きが止まり、表情も動かなくなった。


 何かに気づいたそんな感じで、無意識に胸を押えている。


「じゃあ、グレンは? グレンは分かるかしら?」


『グレン……?』


 いつも笑顔でデリシアの傍にいたアレクシアの瞳に涙が浮かんだ。


 グレン、アレンと名を何度も呼ぶアレクシアが何を思い出したのかは分からないが、はらはらと流れ落ちる涙には強い思いがあり、デリシアにも心の痛みが伝わってくる。


 急に部屋の床にポタポタと涙が落ちたからか、デリシアの独り言が気持ち悪かったからか、その現象に驚いたメイドが悲鳴を上げてデリシアの部屋から出て行ったが、デリシアはそんな事は気にならなかった。


「アレクシア、大丈夫よ、大丈夫。私が貴女の想いを必ず叶えてあげる……」


 恐ろしい存在だと誰に思われたとしても、アレクシアの想いを叶えてあげたい。


 そんな使命の様なものが心の中に生まれ、デリシアは決意を固めた。




「お父様、お話しがございます」


 アレクシアの深い想いを知ったデリシアは、生まれて初めて黒髪、黒目の特権を使い、国王ではない自分の父親に会いに行った。


 普段から周りに畏敬の念を向けられることが多いデリシアは、出来るだけ王族という権威を振りかざしたくはなかった。


 けれど忙しい国王に対し 「お父様に会いたい」 と、そんな娘の我儘で時間を作らせ会ってもらうことにした。


 その上周囲には使用人も護衛もおかず二人きり。


 デリシアがただの妾妃の娘であったならば通らなかった我儘だ。


 黒髪、黒目だったからこそ叶った我儘だと言える。


「お父様、私を見ていてください」


 そこで生まれて初めてデリシアは本気の力を使った。


 普段は誰にも見えないアレクシアの姿が、デリシアの力によって父親にも見えたのだ。


「お父様、ルヴィダ辺境伯領へ嫁ぐのは私です。彼女の導きがこの国へ平和をもたらすでしょう。長き戦争によってキリエ国とリガーテ国は他国から弱っていると目を付けられている。重要なあの地を守るためには私の力が必要です。どうか両国の平和の為に私をルヴィダ辺境伯領へ送り込んで下さい」


 ルヴィダ辺境伯領はとても重要な地だ。


 キリエ国とリガーテ国を繋ぐ地でもあるが、それだけではない。


 多くの資源があり、あれだけの戦争があっても豊かで肥えている土地。


 そんな場所を狙うものは多くいる。


 近隣の国々は様子を伺っているはずだ。


 キリエ国とリガーテ国の争いだって、元をたどればルヴィダの地の取り合いだったと歴史が語っている。


 そんな場所にこそデリシアの様な存在は相応しい。


 デリシアは黒髪、黒目の持ち主として父親にそう告げたのだ。


 父親に拒否権など無い。


 黒神としての力はそれ程だった。




 そこからはとんとん拍子で物事は進んだ。


 本来グレンの相手は国王の妹が相応しいと会議でそう話されていた。


 けれど黒神からのお告げがあったと国王にそう言われれば誰も反対などしない。


 ルヴィダの地を守る事こそ、リガーテ国の発展に繋がる。


 そのお告げに対し反対する者など誰もいなかった。





 そして遂にデリシアはグレンの下へ嫁ぐこととなった。


 結婚式の日、グレンとアレンの姿を見てアレクシアは微笑み、自分の過去を全て思い出した。


 そして繋がっているデリシアも、当然アレクシアの記憶を把握する。


 だからこそグレンに会えば懐かしいという感情が生まれ、アレンに会えば愛おしさが溢れ、ルヴィダの地に足を踏み入れれば、この地を守りたいと強く願った。


「リガーテ国の王女、デリシア・リガーテですわ」


「……キリエ国ルヴィダ辺境伯、グレン・ルヴィダです……」


 けれど楽しみにしていたグレンとの結婚式は最低最悪だった。


 式の間中グレンはずっとむっつりとしていて、デリシアの顔など一度も見ない。


 アレクシアのことを伝えよう。


 ルヴィダ辺境伯領への自分の想いを伝えよう。


 そう思っていたデリシアに、初夜の夜、グレンはあり得ない言葉を吐いたのだ。


『夫として貴女の望むことは出来るだけ叶えよう。だが貴女を妻として、女性として愛することは出来ない』


 この人は馬鹿なの?

 どれだけ世間知らずなの?


 グレンへの期待値が高かっただけにその言葉を聞いて失望した。


 戦争が終わり気が緩んでいるのか?

 それともグレンの頭の中は色恋しかないのか?

 自分がモテる男だと自惚れているのか?


 女性として愛して欲しいなどと言ってもいないデリシアに、愛人を作ってもいいなど上から目線で物事を話すグレン。


 その上 『君の望みを叶える』 などと、貴族として言質を取られたら困ることを簡単に口にする。


 呆れるデリシアの横、アレクシアでさえ頭を抱えている。


 騎士でもありながら扉の外で聞き耳を立てている存在に気付きもしない。


 この人は迂闊すぎる。


 どうやったらここまで間抜けになれるのか。

  

 けれど隣に立つアレクシアが、心の中でどう思っているかはデリシアにはすぐに分かった。


 今も消えないグレンへの愛とグレンからの愛に喜んでいる。


 だったら尚更貴族としての駆け引きが出来ないグレンを躾直さなければならないだろう。


 それこそがデリシアの役目だ。


 ニッコリと笑いグレンと向き合ったデリシアは、この瞬間ルヴィダ辺境伯領の改革を決意した。




 屋敷の掌握は思った以上に簡単だった。


 デリシアにはアレクシアと言う強い味方がいるのだ。仕草や言葉に彼女の面影があるデリシアは、すんなりと皆に好かれた。


 そして後妻を狙うメイドたちの存在は、グレンにお灸を据える良いキッカケになった。


 このままではルヴィダ辺境伯領は危険だと、流石にあのグレンにも伝わっただろう。


 そう思っていたけれど、グレンはモジモジとするばかり、まったくもってハッキリしない。


 デリシアに謝り許しを請えば済むことなのに、プライドがあるからかそれが出来ない。

 息子のアレンの方がよっぽど素直だった。


 グレンは本当に手がかかる、困った()だった。



「はぁー、アレクシアの趣味を疑うわ。グレンの一体どこが良かったの?」


 呆れるデリシアの前、アレクシアはクスリと可愛く笑う。


『確かにグレンはちょっとお馬鹿さんだけど……嘘が付けない、真っ直ぐで素敵な人なのよ。彼の側にいると心が温かくなるの。だからお願い、シア、もう少し彼のことを見守っていてあげて』


 アレクシアの言う通り、グレンは真っ直ぐで良い男だ。


 けれど領主としては落第点。


 武力でなく知力で領地を守る時代を迎える今、単細胞な彼では不安しかない。


 でもアレクシアと繋がるデリシアの中に、確かにグレンからの温かい気持ちが流れてくる。


(あれ程愛して貰えたら……)


 デリシアとアレクシアは繋がっているのだ、そう思ってしまうのも当然で、デリシアはグレンが白旗を上げるまで待つことにした。


「デリシア、すまなかった」


 そして今日やっと頭を下げたグレンに対し、デリシアは自分の持つ力を解放したのだった。

こんばんは、夢子です。

今日も読んで下さりありがとうございます。

またブクマ、評価、いいねなど、応援もありがとうございます。


デリシアがグレンをどう思っていたのか、そしてアレクシアとの繋がりが分かる回です。

楽しんで頂けると幸いです。

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