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街へのお買い物

「父上、明日シア様と一緒に街へ行ってきます」


 夕食の席、グレンの息子アレンが良い笑顔でそんな事を言ってきた。


「街?」

「はい、街です」


 同じく食事の席に着くデリシアは、穏やかな表情でそれに頷いている。


 すっかり打ち解け仲良くなった二人は、グレンそっちのけで出かける約束をしたらしい。


 愛せないとデリシアに言い切ったグレンとしては、仲間はずれが寂しいだなんて絶対に言うつもりはないが、笑顔で見つめ合う二人を見るとチリチリと胸が痛んだ。


「楽しみですね、シア様」

「ええ、アレンのエスコートを期待しているわね」

「はい、お任せください!」


 キャッキャッと楽し気に話す二人を見れば、チクチクと胃の辺りも痛みを覚えた。


「んんんっ、あー、アレク。幾ら自領の街だと言っても二人だけで出かけるのは危険ではないかなぁ?」


 どうにか外出を阻止できないか?

 そんな思いが浮かび足掻いてみる。


「ああ、父上大丈夫です。大切な女性であるシア様もいらっしゃるのです。当然普段よりも護衛は多めに連れて行きます、安心してください」


 胸を叩き、お任せくださいと誇らしげな顔をする息子(アレン)

 その成長を喜びたいところだが、残念ながら素直に喜べない。


 義母と義息子。

 とてもそう見えない二人の外出は、逢瀬に出かけるような恋人同士のよう。


 フランと目が合い、頷き合う。

 どうにか食い止めよう。

 同じ気持ちでまた頷き合った。


「だが、アレン、お前には休暇中の課題があるだろう……」

「はい、父上、課題はもう終わらせましたので問題ありません。折角の休暇を課題に取られるだなんて勿体ないですからね。残りの時間は全てシア様に使えるように頑張りました」


 毎年課題を最後まで残すアレンの言葉だとは思えず、驚き過ぎて「そうか」と答えるのが精一杯。


 親の心子知らずでドヤ顔の息子に、ニッコリと微笑んだデリシアが声を掛ける。


「まあ、アレン、私の為に頑張ってくれたのね、有難う」

「いえ、当然のことですから」


 デリシアに褒められ照れるアレン。

 第三者が見れば微笑ましい姿だが、グレンとフランの目と目が合う。


『やばいですね』

『やばいよな』


 これまで毎年面倒くさそうに課題をこなしてきたアレン。

 それがたった数日でその課題を終わらせたというのだ、デリシア効果の程度が分かる。


 そう言えば夜遅くまでアレンの部屋の灯りがついているなと思っていたが、必死に勉強を熟していたとは……


 アレンの中のデリシアの存在の大きさに、グレンは怖さを感じる。


 アレンは本当に……


 とそこまで思いかけたが、それは言葉に出さずに飲み込んだ。


 結婚したばかりの幼い新妻と自分の息子が恋に落ちる。

 

 どんなことがあってもそれだけは阻止しなければならない。


 もし王都にまでこの二人の仲が広まってしまったら……


 そう思うと、家族として仲を深めているだろう二人の関係をつい邪推してしまう。


 それは当然フランも一緒だった様で、何とか止めてくださいね! と鋭い目つきで訴えて来た。


「んんんっ、ゴホンッ。あーアレン、シアは元王女だ。市井に出かけても楽しめるとは思えない、買い物がしたいのなら屋敷に商人を呼んだ方が良いんじゃないかな?」


「いえ、父上、シア様が街を見て見たいそうです。自分が生活するルヴィダ辺境伯領を見て回りたいそうです。ねっ、シア様」


「ええ、この地に嫁いできたのですもの、私にはルヴィダ辺境伯領を知る義務がありますわ。それに、見て見たい場所もありますし、アレンと一緒にお出掛けするのも楽しみですもの」


 フフフッと微笑むデリシアと目が合った。


 貴方はまさか自分が言った事を忘れていませんわよね?


 黒水晶のようなデリシアの瞳はグレンにそう問いかけているようで、自由に過ごして良いと初夜の夜に言った手前、出かけるのはダメだとは言い辛い。


 こんな事になるのならば、初夜の夜にあんなことを言わなければよかった。


 デリシアに後悔しないかと言われたが、正直言ってあの夜からずっと後悔ばかり。


 子供だからと侮らず、もっとデリシアのことを尊重するべきだった。


 アレンと仲良く食事をするデリシアを見て、その中に入れない自分だけが家族ではないような気がして、過去の自分を恨みたくなったグレンだった。






「フラン、頼んだぞ」


「……」


 翌朝、デリシアとアレンのお出掛けにフランも同行することになった。


 本当はグレンが一緒に行ってデリシアとアレンの間に割って入りたいところだが、デリシアに誘われていない手前一緒に行きたいとは言い出せない。


 そこでグレンはフランに頼んだ。

 街を案内するならばフラン以上に適役はいない。

 そうデリシアとアレンに伝えれば、二人も納得してくれたようだった。


「まあ、確かに、フランならこの街の隅々まで知っているよね」


「フランさえ良ければ私は一緒でも構わないわよ」


「……」


 フランは張り付けた笑顔のまま無言で頷く。


 主人であるグレンに願われれば断ることはできないし、デリシアとアレンの関係が気になるのも本当のところ、ついて行って見張るには丁度いい。そんな気持ちがあった。


 それに 「宜しくね、フラン」 と意味深な様子で微笑むデリシアが気になるのも本心だ。


 本人にはそんな意図はないのかもしれないが、「アレクシアの大事な場所が消える」と、その言葉を投げかけられてから、フランには思う所があった。


 アレクシアが亡くなってから淡々と過ごしていた毎日の中、デリシアの言葉でフランの心は少しだけ動き出した。


 けれどそれが許せなくて、デリシアとは距離を取りたかった。


 だけど


「ねえ、アレン、グレンにお土産を買って帰りましょう。ラメールのチーズクッキーがグレンは好きでしょう。きっと喜ぶと思うわ」


「流石シア様ですね。父上の好きな洋菓子店なんて僕は知りませんでした。きっと喜びますよ。シア様からのお土産ならばなおさらです」


「フフフッ、じゃあ決まりね」


「はい」


 そんな会話を聞いてしまえば、デリシアへの疑惑は膨れるもので。


 何故グレンの好みを知っているのか。

 何故ルヴィダ辺境伯領の店を知っているのか。


 そんな疑問が湧いてしまう。


(そう言えば、最初から姫様はおかしかった……)


 グレンの好みの菓子を作って見せたこともそうだ。

 スパイスクッキーの事をどうして知っていたのか。


 それに料理人であるチャーリーやアンドレ、それにグレタに対しても、以前から知っているような親しみのある雰囲気を最初から示していた。


「ルヴィダ辺境伯領は聞いていたよりも賑やかだわ。それに街全体が明るくて素敵。辺境の地だとは思えないほど栄えているわね。領主としてのグレンの頑張りが分かる様だわ……」


 婚姻が決まった時点でルヴィダ辺境伯領の事は学んでいたのだろう。

 だからグレンの好みも知っていて何の不思議もない

 

 だけど……

 一体誰に聞いたのか。


 クッキーの好みや、好きな店までどう学んだ?


 そんな疑問がつい脳裏に浮かんでしまう。


「そうだ、私、行きたい場所があるのよ」

「シア様、どこですか?」


 アレンがデリシアに問いかける。

 ルヴィダ辺境伯領内でデリシアが行きたい場所。

 そこはフランも気になるところだ。


「ゼルコヴァの丘。ルヴィダ辺境伯領に来たら、絶対に行きたいと思っていた場所なのよね。フラン、案内を宜しくお願いね」


 ニコリと笑うデリシアに、フランは平静を装いどうにか頷く。


 けれど鼓動は正直で、ドクドクと嫌な音をたてていた。


 ゼルコヴァの丘、それは……


 フランとグレン、そしてアレクシアが幼いころから遊んだ想い出のある場所だったからだ。

こんばんは、夢子です。

本日も読んで頂きありがとうございます。

またブクマ、評価、いいねなど、応援もありがとうございます。励みになっております。


6,7日と旅行に行ってきますので投稿お休みいたします。

8日からまたよろしくお願いいたします。

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