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魔法に掛けられて

「シア様、朝食を終えたら一緒に庭へ行きませんか? 裏庭の花壇が見ごろだと庭師に聞きました。是非シア様と一緒に美しい花々が見たいです。私の為にお時間を取って頂けませんか?」


「あら、アレン、お誘いありがとう。私も庭の花が丁度気になっていたから嬉しいわ。それに貴方がエスコートしてくれるんでしょう? とっても頼もしいわ」


「勿論です! 父上ほどではありませんが、僕だって剣を嗜んでいます。エスコート兼護衛も引き受けさせていただきますので、シア様、安心してくださいね!」


「まあ、それは心強いわね。アレン、宜しくね」


「はい!」


 目の前で交わされるアレンとデリシアの会話を聞いて、朝食中のグレンはポロリとカトラリーを落してしまう。


 それも当然で、つい昨日まであれ程デリシアを嫌っていたアレンは、まるで人が変わったかのようにデリシアに愛想を振りまき、別人と化している。


 新しいカトラリーをグレンに届けたフランも驚きを隠せない様で、落したはずのフォークではなく、ナイフをグレンの席に持って来たので、何も話さなくとも動揺が見て取れた。


「そうねぇ、アレン、折角だから東屋でお茶でもしましょうか? アンドレにお願いしてお茶菓子を準備してもらいましょう」


「いいですね! 少し外は暑いですから冷たい飲み物も頼みましょう。シア様とのお茶会、とっても楽しみになりました!」


「ウフフ、私もよ」


 グレンが突っ込む間もなく、二人の間で話はずんずん進んでいく。


 自分の後妻であるデリシアが、息子のアレンと仲良くなることは普通ならば喜ぶべきところだが、そこは残念ながら素直に喜べない。


 デリシアはリガーテ国では成人を迎えたと言っても、キリエ国ではまだ子供。

 十二歳になったばかりの少女だ、とてもじゃないがアレンの母には見えるはずもない。


 そして息子のアレンは十四歳。

 デリシアがグレンの妻だと知らない者から見れば、デリシアとアレンこそが恋人か婚約者同士のようで、間違いが起きそうなほどに危険な関係に見えた。






「グレン様、姫様に自由にしていい、恋人も作って良いと言いましたが……まさかその筆頭候補がアレン様だとは……両国間の友好関係に亀裂が入りそうな大事件に発展しそうな問題ですよねぇー」


「フラン……」


「客観的に見ても姫様とアレン様の方がお似合いで健全な関係に見えますからねぇー。これは本当にあり得ない話ではないですよ、グレン様、どうするんですか?」


「……」


 フランの心配は当然グレンも考えた物で、仲良く手を繋ぎ庭を歩くデリシアとアレンは初々しい恋人同士のようで、デリシアの小生意気な中身を知らなければ、お似合いだとグレンだってそう思った事だろう。


「姫様はともかく、あの様子のアレン様なら、姫様と結婚したいといずれ言い出しそうですよねぇー」


「……」


 朝の様子を見ても、そして今庭を歩く様子を見ても、デリシアはアレンに対し子犬を可愛がる程度の様子に見えるが、息子のアレンはすっかりデリシアに夢中になっているようで、昨日とは違う意味で頭が痛い。


 反抗期真っ盛りの息子に 「デリシアとの付き合い方を考えろ」 と伝えても、素直に聞き入れるとは思えず、返って意固地になってデリシアとの関係を深めようとする未来しかグレンには思い描けなかった。


「アレンは一体どうしたんだ……昨日までは普通の息子だったのに……」


「きっと姫様が何かしたんでしょうねぇー。そうでなければアレン様の態度があれ程変わるとは考えられませんし……そう考えるとデリシア様って、本当に底知れない恐ろしさを持つ姫君ですよねぇー……」


「……そうだな……」


 そしてそんな相手がグレンの妻なのだ。


 頭が痛いどころの話ではなく、寿命が縮みそうなほどの心労だ。


 デリシアにはどうやっても勝てない。

 メイドの件でハッキリそれを植え付けられたような気がする。


 その上あの思春期真っただ中のアレンを、たった一日で手名付けた手腕。


 デリシアがもっと早くリガーテ国で男として生まれて居たら……

 きっと名軍師として名をはせていただろう。


 そしてこの国は、デリシアの手に落ちていた。


 庭で戯れる兄と妹の様なアレンとデリシアを見ながら、グレンはそんな考えに至ったのだった。





「父上、お話しとは何でしょうか? これからシア様と一緒に本を読む予定なので、手短にお願いしますね」


 面倒くさそうな様子でグレンの部屋にやって来たアレンの手には一冊の本があり、これからデリシアと一緒に本を読むのだと言っていることが本当だと分かる。


 先程まで一緒に東屋で過ごしていたにもかかわらず、昼食も仲良く一緒に摂っていた二人。


 そして今度は一緒に本を読んで過ごすのだという。


 アレンのデリシアへの執着具合には危険な香りしかしなかった。



「んんっ、ゴホンッ。あーアレン、シアと楽しく過ごすのは良いが、学園の勉強は大丈夫なのか? ルヴィダ辺境伯家の子息として、あまりにも成績が悪いようでは恥ずかしいぞ」


「当然です。父上、僕は勉学も剣術も真剣に取り組んでおります。それにあれ程素晴らしいデリシア様と家族になったのですから、恥かしい成績など取る気はありません。今以上の成果を来年は上げて見せますよ、お任せください」


「そ、そうか……」


「はい、当然です!」


 気合を入れる息子を見て、フランと自然と目が合った。


『グレン様、何とかしないと』

『そんな事は分かっている』

 

 目と目でそんな会話をし、お互い頷き合う。

 グレンの目の前で誇らしげに胸を張るアレンは、デリシアの事を心から尊敬し愛していることが分る。それも危険なほどに。


「あー、アレン、デリシアの事なんだが……」


「はい」


 グレンからデリシアの名を聞くと、急にアレンがハッとした様子を見せた。


 もしかして言わなくとも伝わったか? 


 そんな淡い期待を持ったが、グレンの予想は当然裏切られた。


 アレンはバッと勢い良く頭を下げると 「申し訳ありませんでした!」 と何故か謝って来た。


 謝るということはもしかしてすでに手遅れか?


 嫌な予感がしてフランとまた目が合う。


 そんな大人たちの思惑をよそに、アレンは真面目顔を向けて来た。


「父上、昨日はデリシア様との結婚を認めないなどと、馬鹿な事を言って申し訳ありませんでした!」


「アレン?」


「デリシア様は僕が想像できない程に素晴らしい方でした。昨日の自分を殴ってやりたいぐらい、僕は反省しています。この結婚を決めて下さった陛下方にも謝らせて頂きたいぐらいです。本当に馬鹿なことを言って申し訳ありませんでした!」


「い……いや……気にしてない……ぞ……」


「有難うございます!」


 ニッコリと笑いスッキリした顔で 「シア様は素晴らしい方です」 とデリシアを絶賛するアレン。


 一体どんな魔法を使ったのかとデリシアに問いかけたいほど、アレンの昨日までの憂いは消えていて、グレンはデリシアに対し恐怖を感じるほどだった。


「父上、お話はそれだけでしょうか?」


「ん、あ、ああ……そうだな……」


「でしたらこれで失礼します。デリシア様をお待たせしていますからね、急いで向かわないと」


「あ、ああ、うん、そうだな、早く行ってあげなさい」


「はい、有難うございます! 父上、デリシア様とは仲良くしますので安心してくださいね。ではこれで私は失礼いたします! フランも、父上もお仕頑張ってください」


 ウキウキした様子で部屋を出て行くアレンを見送りながら、グレンは深いため息を吐く。


 今のところ兄妹の様な付き合いに見えるが、これから先益々仲良くなればどうなるかは分からない。


 それに今は少年と少女だが、あと数年もすれば立派な若者になる二人。


 恋が芽生えても可笑しくない可能性はあるわけで、グレンの頭痛と胃痛は酷くなるばかり。


 この先どうすればいいのか分からなくなる程だった。


「まさか自分の息子が間男になりそうだとは……」

「フラン、冗談でも止めてくれ……」


 いつも通りのフランのジョークを、今のグレンは笑うことが出来ない。


 痛む頭と胃を押さえながら執務机の上に突っ伏し、また大きなため息を吐いたのだった。

おはようございます、夢子です。

いつも応援ありがとうございます。

ブクマ、評価、いいねなど、応援有難く思っております。


アレンとデリシアは仲良くなりました。

良かった良かった。

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