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デリシアとアレン

「貴女はいったい、母上の部屋で何をしていたんですか!」


 デリシアがエラと共にアレクシアの部屋の掃除を済ませ扉から出ると、義理の息子となったアレンが待ち構えていた。


 怒りを露にするアレンの顔を見て、デリシアの口元が緩む。


 グレンとアレンは本当によく似ていて困った親子だ。


 それは可愛くもあり彼らの長所でもあるが、戦争が無くなった時代を迎える今、貴族としては弱点であり欠点としかならない。


 だからこそデリシアがルヴィダ辺境伯領へと嫁いできたのだが、素直な彼らはそれが理解できないようだ。


 子犬の様なアレンの可愛さに思わず「フフッ」と笑ったデリシアを見て、アレンの怒りは益々強いものになる。


 馬鹿にされている。


 それも自分より幼い少女に。


 普段であればどうにか気持ちを落ち着かせることが出来たであろうアレンは、これまで溜まっていた怒りのせいで我を忘れてしまった。


「僕は、貴女を家族だとは認めていない! ましてや貴女を母上だなんて思うことは一生無理だからなっ!」


「まあ! ウフフフ……」


「わ、笑うな!」


 馬鹿にしたわけではないのだが、グレンとアレンが余りにも似たことを言うのでデリシアは思わず笑ってしまった。


 それがアレンの癇に障ったのだろう。


 吠えるようにデリシアを注意するアレンは、キャンキャンと可愛く鳴いて威嚇する子犬の様だった。


「私、別に貴方に家族だと認めてもらう必要はないのですけど?」


「なっ!」


 可愛らしく首を傾げて答えるデリシアは、年上の青年であるアレンの怒りなど全く何とも思っていない様で、怯えも恐怖も顔には浮かんでいない。


 それどころか新しい玩具でも目にしたかのように、その黒水晶のような瞳が楽し気に揺れている。


「私とグレンの結婚は両国の陛下が決めたもの。それを認めない貴方はつまり両国の国王陛下よりも偉いという事なのかしら? それともルヴィダ辺境伯家の子息というのは、自分の思い通りに物事を動かせる神の様な存在なのかしら? ねえ、アレン様?」


「くっ、へ、陛下の名を出すだなんて不敬だぞ!」


「あら、不敬なのは陛下方が決めた結婚を認めない貴方の方じゃなくって?」


「……っ!」


 デリシアの言葉にアレンは言葉を詰まらせる。

 自分よりも幼い少女だ。少し脅せばこの屋敷から出て行くか、帰りたいと国へでも逃げ出すだろうと思っていたアレンだったけれど、堂々と言い返すデリシアの様子にただ黙るしかない。


「そもそも貴方は私がグレンの事を好きで、陛下に王女の権限を使って我儘を言って嫁いできたとでも思っているのではないかしら?」


 疑問を浮かべ首を傾げるデリシアをアレンはギッと睨む。


 アレンにとってグレンは偉大な父であり、尊敬し目標とする男性でもあるのだ、馬鹿にされる様な言い方に益々腹が立つ。


 グレンはこの国の英雄でもあり、老若男女問わず人気があるルヴィダ辺境伯爵なのだ。


 父グレンはアレンの誇りでもあったし、自慢の父親でもある。


 だからこそデリシアがこの結婚を望み、両国の友好を利用しグレンの妻の座を手に入れた。

 そう思っていた。


 そうでなければまだ幼いデリシアがルヴィダ辺境伯領へと望んで嫁いでくる理由が思い当たらなかったからだ。


 年齢を理由に結婚を断れば、国で可愛がられている王女ならば回避できたはずだ。


 それをしなかった理由は、デリシア自身がグレンに興味があったから。


 アレンはそうとしか思えなかった。



「この結婚は貴女が望んだものなんだろう!」


「いいえ、両国の友好の為、陛下から嘆願されたことです。私の意志など関係ありません」


「でも父上は英雄だ。剣技だけじゃない、見た目だって良いと周りも認めている!」


「この国で英雄であるということは、つまりは私の国では嫌われ者ですわよね? それにどんなに見た目が良くとも、私から見ればグレンはただのおじさんですわ。それに貴方という大きなこぶ付きでもありますもの。王女にとって良い条件の男性はもっといたでしょうねぇ?」


「……っ!」


 アレンが何を言っても、悪びれることも無く怖がることも無く、デリシアは淡々と言い返してくる。


 その上グレンとの結婚が王命であったからこそ受け入れられたものだと言われ、アレンは密かにショックを受ける。


 学園では友人たちもグレンに対し憧れを持っていた。


 同級生の女子生徒たちだってグレンの事を話題に出せば、頬を染めるほど人気者だった。


 けれどデリシアの言う通り、リガーテ国内でそれが通用するはずはない。


 アレンだってリガーテ国の英雄に良い感情を持てるかと言えば、答えはNOに決まっている。


 その事をハッキリ理解させられたアレンは俯くしかない。


 理不尽な王命による自分の苛立ちを、自分より幼いデリシアにあててしまった。


 彼女は望まない結婚を受け入れ敵国に嫁ぎ、その上で笑顔を保っているのに……


 自分の苛立ちをそんな彼女にぶつけてしまった……


 男として情けなくて仕方がない。


 これど素直に謝れるほど、アレンの心はまだ成長していなかった。



「僕は……それでも……母上以外を、自分の母親だとは、認められない……」


 アレンがどうにか絞り出して出た言葉がそれだった。


 未だに母親離れが出来ない情けない男のようで少し恥ずかしいが、たとえ笑われたとしても、それがアレンの本心なので訂正する気にはなれなかった。


「あら、そんなの当たり前でしょう?」

「えっ……?」


 俯いていたアレンはデリシアの朗らかな声色に思わず顔を上げる。

 目の前にいるデリシアはとても優しそうに微笑んでいて、アレンの言った言葉など全く気にもしていないようだった。


「貴方のお母様はこの世でアレクシア一人よ。私は王命によってグレンと結婚はしたけれど、貴方のお母様に成り代わって貴方の母親になろうだなんて思ってもいないし、グレンに妻として愛され様だなんて、そんな事も思っていないわ」

「えっ……だけど……」


 愛されない妻だなんて、それで本当にいいのか。

 アレンの母親だと認められれば、この先アレンに婚約者や妻が出来ようとも、デリシアの地位を脅かすことは無い。


 このルヴィダ辺境伯領の地で盤石の地位を手に入れるためには、グレンやアレンからの愛情を欲するのは当然のこと。


 驚くアレンの前、デリシアは年頃の少女のようにクスクスと可愛らしく笑い出した。


「ウフフ、そんなに驚かなくても良いでしょう? アレンはグレンにもよく似ているけれど、アレクシアにもそっくりね。その驚いた顔がとても良く似ているわ」

「は、母上に?」


 何を言っているんだ? とアレンの眉根に皺が寄る。


 年齢的に考えても、他国に住んでいたことを考えても、デリシアがアレクシアに会った事がある訳はなく。そっくりだと言われても懐疑的な物しか浮かんでこない。


 その様子を見てデリシアは益々楽しげに笑い出した。


「ウフフ、良いわ、アレン。貴方の無礼を許して上げる。でも一つだけ条件があるわ」

「条件?」


「そう、これから私とゆっくりお話をしましょう。私の部屋で二人きりでね……」

「それは……」


 父親の妻となった女性(少女)と二人きりになる。


 それはアレンにだってどういう誤解を生むか分かっている。


 けれど恋愛感情抜きでデリシアに惹かれているのも正直な気持ちで。


 もっと深く話してみたい、何故母上の事を知っているようなそぶりをみせるのか聞いてみたい。


 と、当然そんな欲が湧いてくる。


「私の秘密。アレクシアの子であるアレンになら、特別に話しても良いのよ……どうするかは貴方が決めて……」


 ニコっと微笑まれ、デリシアに手を差し出された。


 大好きな母であるアレクシアの子供にだけならと言われれば、アレンに断る理由など無く。当然その手を取るしかない。


「じゃあ、二人きりでゆっくりお話しをしましょうか、アレン……」


 デリシアの甘く可愛らしい誘惑に、アレンは頷いたのだった。


 

こんばんは、夢子です。

今日も読んで頂きありがとうございます。

またブクマ、評価、いいねなど、応援もありがとうございます。

励みになっております。


アレンをアレクと打ってしまっている所があればご指摘ください。

気を付けているのですが……(;'∀')

名前が似すぎなんですよね!

決めたの誰だ!

私だよ。

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