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義理の母

「父上、何故あの()がこの屋敷に居るのですか? 別邸に住まわせるのではなかったのですか?」


「アレン……」


 学園が夏休暇に入った事で、グレンの一人息子であるアレンがルヴィダ辺境伯領へと戻って来た。


 グレンが結婚したことは当然息子のアレンも知っている。

 結婚式にもルヴィダ辺境伯家の子息として出席していたのでデリシアの存在も知っている。


 けれどこの結婚に対し最初から反対していたアレンは、王命なのだ、仕方がないのだと言って、グレンがデリシアとの結婚を断らないことに反発していた。


 なのでグレンがデリシアと結婚しても一定の距離を取り、妻ではなくあくまで友好国の客人として扱うと言ったからこそ、アレンは渋々この結婚に頷いたのだ。


 当然、デリシアはルヴィダ辺境伯邸内にある別邸に住み、グレンとは関わらず生活しているとそう思っていた。


 それが屋敷に帰って来てみれば、デリシアは当然顔でグレンの横に立ち、さもこの屋敷の女主人のように振る舞っているではないか。

 約束が違うと怒るアレンの行動はもっともだった。


「あの子もあの子だ! 自分の立場を考えればこの屋敷に住めるわけがないだろう。父上が未だに母上を想っている事は誰だって知っている当たり前のことなんだから!」


「アレン、声を落しなさい、誰かに聞かれたらどうするんだ」


「父上、ここはルヴィダ辺境伯領内なのですよ、誰に聞かれたって構わないじゃないですか!」


 自分が生まれてすぐ母であるアレクシアを亡くしたからか、アレンのアレクシアへの想いはとても強く深い。


 憤る息子アレンを見て 『お父様にそっくりですわね』 と笑ったデリシアの嫌味を思い出し、アレクシアへの執着まで似てしまった息子を目の前にし、グレンはガックリと肩を落とした。


「アレン……デリシアの事は仕方がないんだ……王命だとお前も分かっているだろう?」


 大きなため息を吐き、以前と同じ言葉を吐く父をアレンは睨みつける。


「とにかく、私はあの子をこの家の者だとは認めませんからねっ!」


 思春期特有の反抗期なのか、グレンの言葉を待たずそれだけ言い残すとアレンは部屋を飛び出して行った。


「デリシア様が如何に大人びているのか、アレン様を見ていると分かりますねぇ……まあ、あれが普通でしょうけど……」


 グレンの横、ぼそりと呟いたフランの言葉に苦笑いを返す。


 デリシアに叱られた大人同士、思うことは同じなようだった。







「くそっ、父上もフランもなんで何もしないんだ。あんな子供、さっさと追い出してしまえばいいのに!」


 屋敷の戻って数日。

 父へと向けたアレンの不満は爆発寸前まで来ていた。


 アレンは父の結婚が王命で決められてからずっと怒りが溜まっていた。

 だからこそ父の横でご機嫌に笑うデリシアの存在が我慢ならなかった。


 父が母をずっと愛し、今も一途に想い続けている事を国王も知っているはずだ。

 なのに元敵国の王女との婚姻を力ずくで決めてしまったのだ。

 鬱憤が溜まらない訳がなかった。

 

 それも相手はアレンよりも幼い十二歳の少女。

 リガーテ国では成人しているらしいが、父と並べば娘にしか見えず、それもアレンを苛立たせる原因となっていた。


『アレン、おめでとう、辺境伯爵様が結婚するんだってな、それもリガーテ国の王女様なんだろう、凄いじゃないか』


『すっごい若い王女様らしいじゃないか、辺境伯爵様も喜んでいるんじゃないか、良かったな』


 友人たちの何気ない言葉も、アレンには嫌味にしか聞こえなかった。

 父が今も母を愛している話しは有名なのに、結婚を喜ぶ友人達に憤りを感じた。


 けれど父が『王女を愛するつもりはないから安心をしろ』とそう言ってくれたからこそ、アレンは結婚を我慢出来たのだ。


 形だけの結婚にいずれ王女の方が嫌気がさし、辺境伯領から出て行くだろうと、そう思っていたからこそ、この結婚を受け入れられたともいえる。


「この屋敷の女主人は今だって母上なのに……」


 ついついそんな言葉を呟いてしまう。

 マザコンだって笑われたって気にしない。


 母が自分の命を掛けてまでアレンを産んでくれたことを知っているからこそ、母の事を想い出にしたくはなかったし、姿は見えなくとも心はずっとこの家にあるものだと、そう思っていたかった。


「皆も、なんであの子に従うんだ……」


 デリシアが嫁いできてまだ数ヶ月。

 だというのに屋敷の者達はすっかりデリシアをこの家の女主人にように扱っていた。


 メイド長のグレタを筆頭に、メイド達は皆デリシアに一目置いている。

 デリシア付きのエラに至っては、心酔していると言ってもいいほどデリシアを慕っているように見えた。


 そして厨房の料理人たちも、デリシアと共に楽しそうに料理を作ったりと、すっかりデリシアと打ち解けているように見えた。


 皆もあんなに母上を愛していたのに……


 母上の事など忘れてしまったのだろうか……


 父やフランだってデリシアに気を使い、その顔色を伺っているように見えた。


 父グレンはこの国の英雄だ。


 幾ら相手が他国の王女だったからといって下手に出る必要はない。


 愛するつもりがないのなら、この屋敷の中に置かずさっさとどこかへ追いやってしまえばいいのにと、ついそんなことを思ってしまう。


「全部王命がいけないんだ……」


 アレンだって本当は分かっている。

 デリシアを大切にしなければならない理由を。

 そしてこの王命がどれ程の物かも、本当は分かってはいる。


 けれど母を想う気持ちが強すぎて、それを素直に認めることが出来ないでいた。





「アイツ、何をしているんだ……?」


 デリシアを気にする日々の中、アレンはデリシアがアレクシアの部屋へと入る姿を見かけた。


 図々しく母の部屋に入るデリシアを見て、溜まっていた怒りが湧き上がる。


 自分のせいで母アレクシアが亡くなったと思っているアレンは、母の部屋に入ることが出来ないでいた。

 だからこそ尚更、他人であるデリシアが母親の部屋に入ることが許せなかった。


 部屋の前でデリシアが出てくるのを待つ。


 本当は今すぐにでも部屋の中へ入り「出て行け!」と叫びたいところだが、まだ母の魂が部屋に残されているような気がしてアレンにはそれが出来なかった。


「絶対に僕が追い出してやるからな」


 アレンが呟いたその言葉には、嫉妬と妬みが強く籠っているかの様だった。


 

おはようございます。夢子です。

風邪気味なのか喉が痛く、薬のせいで胃も痛いです。

旅行前なので早く治したいと思います。


いいね、ブクマ、評価など、応援ありがとうございます。

皆様から頂いたパワーで頑張れている毎日です。

m(__)m


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