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デリシアの怒り

「デリシア……君は一体……」


 グレンはそこまで言いかけて言葉に詰まる。


 自分が一体何を言いたいのか、聞きたいのか分からなくなったからだ。


 疑問は沢山ある。


 デリシアは一体何者なのか。


 リガーテ国の王女であることは間違いない。


 けれどそれだけでは説明できない何かがデリシアにはある。



 デリシアは何故アレクシアを知っていて、何故そんなにも彼女の為に怒るのか。



 年齢的にも会ったことなど無い2人。


 接点などあり得る訳がない。


 だからこそ、もしかしたらデリシアはアレクシアの生まれ変わりなのではないか。


 そんなあり得ない期待がグレンの中で湧いてしまう。


 けれどそれをグレンは言葉に出来なかった。


 今、目の前で冷めた怒りを露わにするデリシアに対し何を言ったところで、グレンの言葉を肯定することなどないだろう。


 ましてやグレンが信頼し、良かれと思ってデリシアに付けたメイドが問題を起こしたばかり。


 その上、グレンは自分の妻となったデリシアを全く信用しなかったのだ。


 デリシアが悪いと最初から決めつけていた。


 最低最悪の夫だと証明したような物だ。


 答えをもらおうなど都合が良すぎることはグレンにだって分かった。


 グレンの中で色々な想いが交差する中、グレンが一番言葉を詰まらせた理由はデリシアに 『違う』 と否定されることを恐れているからかもしれなかった。


 アレクシアを今もまだ愛し続けるグレンにとって、生まれ変わりという微かな希望を、デリシア本人に否定されることから逃げたかった。


 情けないと分かっていても、微かな希望を打ち砕かれる恐怖がグレンから言葉を奪っていた。




「グレン、貴方はこの結婚の理由を本当の意味で理解していないわ」


 キッと睨まれデリシアにバカだと遠回しに言われるグレン。

 今回の件が無ければ 「何を」 と怒っていたところだろうが、今の状況では言い返す事も出来ない。


「陛下が何故貴方と私の結婚を王命としたのか……貴方はもう少し深く考えた方が良いわ。その単細胞な頭を使ってね」


 ツンとした態度でグレンに嫌味をぶつけるデリシア。

 無いと分かっていても、今のグレンにはデリシアとアレクシアが重なって見えてしまう。

 だからなのか、単細胞だとハッキリ言われても怒りを感じない。


 きっと罵倒され罵られたとしても、今のグレンは嬉しいと感じてしまうだろう。


「グレン、私は確かに十二歳の少女よ。けれどリガーテ国では成人した立派な淑女なの、子供だと侮って馬鹿にするのもいい加減やめて頂戴。私からみたら貴族の策略にまんまと騙される貴方の方がよっぽど子供のようで頼りなく見えるわよ」


「俺が……子供……?」


「そうよ、体が大きな子供だわ」


 自分の息子より幼い少女に子供だと言われれば、流石にグレンも胸に刺さるものがあった。


 だが行儀見習いと後妻候補の区別も付けられず、相手の思惑にも気付かなかったグレンに言える事は何もない。


 確かに脳筋だと自覚はあるが、それなりに領地経営を熟している自覚があったグレン。

 けれど自分の娘ともいえる年齢のデリシアに指摘されれば、そのショックはひとしおで、ガクリと肩を落としてしまう。


 そんなグレンの後ろ、フッとフランが笑いを溢す音が聞こえた。


 フランのやつとグレンがイラつきを覚えていると、デリシアの冷め切った瞳が今度はフランへと向いた。


「フラン、笑っているけれど、私、貴方にも怒っているのよ」


 デリシアに睨まれてもフランはどこ吹く風 「それは申し訳ありません」 と笑顔のまま頭を下げる。

 貴女の怒りなど可愛いものだと、軽く受け止めているのがその態度で分かる。


 子供扱いをやめないフランに対し、デリシアはふーと小さくため息を吐くと 「貴方もやっぱり理解していないのね」 と残念な者を見る目になった。


「フラン、貴方はこの辺境伯領は不動の立場だと舐めてかかっているでしょう?」


「……いいえ、そんなことはございません」


「彼女たちの行動も、フラン、貴方は分かっていたのではなくって?」


「いえ、そんなことはございません……」


 先程までのデリシアを侮ったような笑みとは違い、フランは貼り付けたような笑みを浮かべる。


 どこまでキアラたちのことを掴んでいたかは分からないが、フランらしくないその余裕のない笑顔が答えだと言う事だろう。


 キアラ達の行動を分かっていて見逃していた。


 それはつまりデリシアが何をされても気に留める気も無かったという事で、フランが心の中でデリシアをどう思っているのか、グレンも今更ながら分かった気がした。


「フラン、貴方、ヤル気が無いのは自由だけれど、このままの状態でいればアレクシアの大事な場所が消えてしまうわよ、それでも良いの?」


「……」


 笑顔のままフランは何も答えない。

 長年の付き合いから 「新参者の貴女に何が分かる?」 とそう言いたいのを我慢しているようにグレンには見えた。


「はぁー、グレンもフランも、もう少し物事を深く考えて欲しいわね……とても貴族紳士とは思えないレベルよ」


「「……」」


「素直なだけ本当の子供の方がまだましかもしれないわね……責任重大だわ……」


「「……」」


 デリシアはそう言い残すと、部屋の隅で控えていたエラを連れて部屋を出て行った。


 その幼い顔には困った子供を見るような表情が浮かんでおり、まるでグレンやフランこそが子供だと言われているようで、残されたグレンとフランは共に押し黙ったまま、返す言葉が浮かばなかった。


 デリシア様、貴女は一体何者なのですか?


 そんな疑問を言葉に出来ないまま、グレンもフランも動けずにいたのだった。





「父上、ただいま戻りました」


 学園の夏休暇が始まり、グレンとアレクシアの子であるアレンがルヴィダ辺境伯領の屋敷に戻って来た。


 年齢はデリシアより二つ上の十四歳。


 グレンとデリシアの結婚式には参加はしていたが、学園もあり未成年でもある事からデリシアとはきちんと挨拶もせず、軽い挨拶だけで済ませていたため、ジックリ顔を合わせるのは初めてとなる。


 少し会わないうちにすっかり大人っぽくなったアレンはグレンの背に大分近づき男らしくなったように思う。


 見た目はグレンそっくりともいえるアレンだが、その蜜色の瞳だけはアレクシアのそれと全く同じものだった。


「アレン良く戻ったな」


 グレンは馬車から降りて来た愛息子をぎゅっと抱きしめる。

 あと数年もすれば手の中に納められなくなるだろう、そう感じるほどアレンの成長は大きなものだった。


 グレンはアレンを離すと、傍にいるデリシアへと視線を送る。


「あー、アレン、彼女が私の妻になったデリシアだ」


「アレン様、初めまして、リガーテ国から参りましたデリシアですわ。どうぞよろしくお願い致しますわね」


 ニッコリと微笑み義理の息子となったアレンへと挨拶をするデリシア。

 先日見せた氷の妖精のような冷たさはそこにはなく、普段通りの春の精のような可愛らしい少女そのものだった。


「……どうも……」


 アレンは父グレンへと見せていた笑顔を消し、面倒くさそうに頭を少しだけ下げる。

 その余りにも不敬な態度にデリシアは笑みを深めた。


「まあ、ウフフ、アレン様は本当にお父様にそっくりですわね」


 デリシアのその言葉が褒め言葉ではなく嫌味であると流石にグレンにも分かった。


 親子そろって大馬鹿者。


 そう指摘されているのが分かり、楽し気にクスクスと笑うデリシアの横、グレンはグッと喉を鳴らしたのだった。

夢子です。

いつも読んで頂き有難うございます。

ブクマ、良いねなど、応援も有難うございます。

心に響いております。


7月、8月はちょっと忙しく、まだ掲載前の連載を書いている途中ですが、こちらを先に仕上げようと決めました。先日フライングを目にした皆さま、大変失礼いたしました。忘れて下さい。


取りあえず先ずは『後悔』を完結まで頑張ります。

宜しくお願い致します。

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