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エピローグ2 働く! お兄さん

 ゴーン、ゴーン

 フィレンツェの街に教会の鐘が響く。


「終わった……、みたいだな」

「ええ、兄さん。どこかの誰かがこの”祝福ゲーム”を終わらせたみたい」

「しかも上手い具合にな。見てみろよ」


 ダイダロスが見せたのはスマホのニュースサイト。

 そこに表示されていたのは『ミラノFC 3連勝!』『汚職政治家の裏金の行方!?』『ニューヨークからイタリアへ上陸! パインピザ―ミー新出店!』の記事。

 そこにはいつもと変わらない、いや、いつもの周回とは違うことが表示されていた。

 いつもならそこには大量変死のニュースが表示されているはずだった。


「夢で死んだ人たちが生き返った、ううん、最初から死ななかったことになったみたいね。よかったわ」

「全部、元の木阿弥(モトノモクアミ)ってことだ。ああ、ふりだしに戻るって意味な。どうやったか知らないが大したヤツがいたようだぜ」


 ふたりの手の甲にあった聖痕(スティグマ)

 その最後の1の数字が消えて数時間、世界は日常そのものだった。

 まるで、全てが夢となったみたいに。

 

「兄さんが一目おいたリンゴさんかしら」

「ティアが気に入っているグッドマンかもしれないぜ」

「うーん、彼は名の通りいい人(グッドマン)だけど、頭はイマイチみたいなよね。ま、どっちでもいいけど」

「そうだな。俺たちには関係ないな」

 

 ふたりはそう言って、軽く溜息を吐く。

 それは”祝福ゲーム”の勝利者になれなかった消沈の溜息なのか、それとも平穏な日常が続いていることへの安堵の溜息か。

 それはふたりにしかわからない。


「あと兄さん、気づいてる?」

「何をだ?」

「あたしたちのタイムリープの能力も消えてるわよ」

「マジか!?」


 ティターニアの指摘を受け、ダイダロスは心の中で過去に戻ろうと意識を集中させる。

 だが、何も起きない。

 目の前の愛すべき妹の顔はずっとそこあるまま。


「マジだ!? お前、どうやって気付いた?」

「あたしのスマホにメールが来たの、ほら」


 そこには日本語で、

 

  ──おふたりさんのタイムリープの能力は没収されたで。あと、(あん)ちゃんの方に伝えといて、(みのり)ちゃんはサイコーにヤバイ女や、サイコーにヤバイ女や、そこ重要やけん2回言うで──


 と記されていた。

 差出人は不明。

 だが、ダイダロスは直感的に凛悟じゃないと感じていた。

 

「どいつか知らねぇが、いったいどんな手を使ったんだ? 俺のこの能力はそう簡単に無効化されないように願ったはずなんだだけどよ」

「さあ? でも良かったんじゃない。あのままだとわたしたち詰んでたから」

「詰んでた? どういうことだ?」

「兄さんのタイムリープ発動の条件に自分やわたしが死んだ時ってのがあったでしょ」

「ああ、あった」

「それって寿命で死んだ時も発動しちゃわない? すると何十年後かにまたわたしたちはここ(・・)に戻ってくるわ。何度でも何度でも、永遠に」


 指をクルクル回しティターニアはうんざりした表情を浮かべる。


「ああ、そいつは良くないな。100周くらいはお前と付き合えるが、そのうちうんざりするかもしれねぇ」

「わたしもよ。1万年くらいたつと兄さんの顔も見飽きちゃうわ」

「気が合うな、俺たち」

「兄妹ですもの」

 

 そう言ってふたりは顔を見合わせてフフフと笑う。


「ま、なっちまったものはしょうがねぇ。お前との付き合いも一期一会(イチゴイチエ)でやるさ。一度きりだから大切にやるって意味だ」

「そうね、結局”祝福”で何も得はしなかったけど」

「そうでもないぜ」


 肩を落とすティターニアに向かってダイダロスはニヤリと笑う。


「どういうこと?」

「さっきから俺が日本語の格言を使ってたことに気付いてないか。どうやら夢で覚えた日本語が身についているようだぜ。日本語だけじゃない、中国語、英語、フランス語だってペラペラさ」


 ダイダロスの口から各国の言葉がスラスラと溢れ出す。

 それは何百ものタイムリープの中、飛行機での移動中に学んだ成果。


「どうだ。これだけ語学をマスターしているなら、観光客の相手がいくらでも出来るぜ」

「兄さん! それじゃ!」

「ああ、俺はまっとうに働くぜ!」

「やったわ! わたしの願いが叶ったわ! ”祝福”でも叶うわけないと思ってたのに!」

「ティア、そいつは言い過ぎじゃねぇか」

「それくらい大変なことよ! パインピザがナポリで流行るくらいの!」


 (よろこ)びに震えながらティターニアはありえないことの例えを口にする。


「ひでぇな。ま、お前が喜んでくれるならそれでいいか。でも、その前に俺はやることがある」

「やることって?」

「ローマに行って女と逢う」


 ダイダロスは心の中で思う。

 この”祝福ゲーム”はどこかの誰かがハッピーエンドで終わらせてくれたのだろうと。

 だったら、それに花のひとつでも添えてやるかと。


「女と逢って何する気?」


 ティターニアの語気が少し強くなる。

 だが、それを軽く流しながらダイダロスは言葉を続ける。

 

「決まってるじゃねぇか……、恋のキューピットをするのさ」


 そう言いながらダイダロスは思い浮かべた。

 自分のせいで運命の人と出逢えなくなった女の顔と痛い目にあわされた男の顔を。

 

「うわっ、にあわなーい」


 ティターニアは笑顔でそう言った。

 ダイダロスも「ちげぇねぇ」と笑っていた。

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