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エピローグ1 罪がふたりを別つまで

 ロサンゼルス時間3月31日の午後、この”祝福ゲーム”が始まった時刻。ロスにあるエボルトテック社の執務室でエゴルト・エボルトは意識を取り戻した。


「ハッ、ハッ、ハァアッァァー」


 息が荒い、悪夢で目が覚めたように。

 彼の脳裏に残っていたものは夢で体験した屈辱と苦痛。

 しかし彼はわかっている。

 あれ(・・)が夢ではなかったことを。

 

「FUCK! よくもやってくれたな! 鈴成凛悟(すずなりりんご)め!」


 最後に受けた屈辱の怒りのままエゴルトは目の前のモニターに拳を叩きつける。

 モニターにヒビが入りモニターは光を失った。

 怒りはそれでも収まらない、エゴルトはもう一発と拳を振り上げる。

 だが、その拳がピタッと止まった。


「なんだ!? この姿は!?」

 

 暗転した画面に映り込んだ己の姿。

 それは初老にさしかかった皺のある顔ではなく、精彩に満ちた若い頃の姿だった。

 思わず彼はクローゼットの扉を開け、鏡で自分の姿を確かめる。

 

「は、はははははっ、そうか! そうだったのか! 奪われた”祝福”はふたつ。それだけでは僕の願いまでは排除出来なかったということか! はははははっ」


 第19の願いで叶えさせた、エゴルトに永遠の若さと健康、それに事故や事件で決して傷つかないという願い。

 僕はそれに夢でも無効化されないという付帯事項を付けておいた。

 おそらく凛悟は死んだ人間を生き返らせることには成功したのだろう、そして傷は夢にすることでなかった事にした。

 だが僕のこれ(・・)を除くまでは至らなかったことか。

 当然だ、ふたつの願い、それに湊藤堂(みなととうどう)の”最恵国待遇”というのもあったな、それだけで僕の願いを無効にするなんて出来るわけがない。

 もっとも、無効に出来ないようにしておいたのだがね。

 この僕がしてやられたのは確かだが、これ(・・)があれば彼らに復讐(リベンジ)するのはたやすい。

 なにせ、エボルトテック社の買収資金も夢になってしまったのだから。

 さあ、”祝福ゲーム”の延長戦といこうか。

 これから始まる復讐劇、その策を思案しながらエゴルトは高く笑う。


 コン、コン


「失礼します」


 執務室のドアがノックされエゴルトの返事も待たずにその扉が開かれる。

 そこからは憔悴(しょうすい)しきった顔のレイニィが現れた。


「CEO、その姿は……、やはり夢ではなかったのですね。夢であればいいと思っていましたが」


 エゴルトの若い姿、それは彼女を夢から()ますのに十分だった。

 百年の恋からも。

 

「レイニィ、君も生き返っていたのか。嬉しいよ」


 彼女を迎えようと手を広げるエゴルトに向けられたのは銃口。

 そして怒りを宿した視線だった。


「約束しましたよね! ゼッタイに殺すと!!」


 パンッ


 銃口が火を噴き凶弾がエゴルトを襲う。

 だが、それは彼には命中することなく強化ガラスの窓に傷をつけるだけだった。


 パンッ、パンッ、パンッ


 レイニィにとってこの距離なら外すことはまずありえない。

 だが、何発撃ってもその弾の軌道はエゴルトを捉えることはなかった。


「無駄だよ。僕は絶対に傷つかない。”祝福”の加護があるからね」

「そうであっても絶対に殺す!!」


 誰もが恐怖に震えるような激しい感情が込められた声、それをエゴルトは涼風のように聞き流す。


「やれやれ、凛悟たちへの復讐の前にやらなければならないことが多くて困る。レイニィ、まずは君からだ」


 エゴルトはサイドテーブルから銃を取り出すと、それをレイニィに向かって撃つ。

 パンパンパンと3発。

 胸と腕と足を撃ち抜かれ、鮮血が彼女を紅く染める。

 だがそれでも彼女は約束(・・)を守ろうと銃を向け続ける。


「無駄だと言っているのがわからないのかね。ああ、わかっていても止められないのか。哀れな女だな、君は」


 少し芝居がかったような視線を向け、エゴルトはトドメとばかりにさらに銃弾を彼女へと放つ。


「絶対に! ゼッタイに!!」


 パンッ、パンッと2発の銃声が執務室に響き、レイニィは膝を着く。

 そして、エゴルトも。

 レイニィの銃弾はエゴルトの胸の急所を見事にとらえていた。


「ど、どういうことだ。僕は無敵になったはず……」


 状況を理解しようと思案するエゴルトの頭に、さらに一発の銃弾が撃ち込まれる。

 彼が最期に見たものは、鏡に映る己の皺のある元の姿だった。

 

「言いましたよね、絶対に殺すと。あと、こうも誓いました……」


 胸と口から血を流し、レイニィは這いずりながら倒れたエゴルトへと近づく。

 パンッと最後の銃声が執務室に響き渡り、


「どこまでもいっしょにいるとも」


 エゴルトの身体に重なるようにレイニィは倒れた。



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