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3-27.想定の想定外 逸果 実

 (みのり)が”本”を受け取った時と同時にホールの扉がパーンと勢いよく開かれた。


「悪りぃな、ちょっとばかり遅刻しちまった」


 なるほど、あれが噂の鈴成(すずなり)凛悟(りんご)ね。

 思ったよりいい男じゃない。

 進入してきた”本”の本来の持ち主を見て(みのり)はそう思う。


「凛悟君、ここは部外者は立入禁止のはずだが」

こういう(・・・・)パーティにはパートナー同伴が基本のはずじゃないのかい。いけないねぇ、招待状の出し忘れは」


 エゴルトの言葉など意に介さず、飄々(ひょうひょう)とうそぶくように凛悟は会場の中心へと足を進める。

 

「センパイ! 待ってました! あなたのパートナーはここですっ!」

「蜜子、今日は一段と綺麗だな。待ってろすぐに行く」

 

 蜜子の下へ歩こうとする凛悟の前に屈強な給仕が立ちふさがる。


「押さえつけろ、丁寧にな」

「イエス、ボス」

 

 一瞬だった。

 給仕が凛悟の袖口を取ったかと思うと、そこから足払いと投げを経て、凛悟はあっという間に床に押さえつけられた。


「イテテ、死んだらどうするってんだ」

「安心したまえ。君に死なれては困るからね。あくまでも丁寧にやらせた。おい、コイツが大声を出しそうになったら黙らせろ」

「ハイ、ボス」

「黙って見てるなら許すってか。こりゃ気前のいいことで」

「この”祝福ゲーム”の最終幕だからな。見物するくらいなら許してやる」

「へいへい、自分の立ち位置くらいわかってますって」

 

 凛悟はそう軽く言い放つと、(みのり)へと頭を動かす。


(みのり)ちゃん、君はわかってないかもしれないから命乞いしとくぜ。俺が死ぬとその”本”も消えるから、うっかり殺さないでくれよな」

「そうなの?」

「そうだ。この”本”の凛悟のページにそう書いてある。彼はこの”本”が交渉材料として手を離れても、自分の命に価値があるようにしていた。ああ見えて抜け目ない男さ」

「そうね、あなたほどじゃないけど。さ、”本”を見せて」

「いいだろう、だが忘れないでくれ、この本の内容は……」

「他言無用でしょ、わかっているわ」

「もし口外したら、その命を代償にさせてもらう。いいかね?」


 エゴルトの視線に給仕遠巻きに見る給仕たち、その手が不自然に懐に入る。


「いいわよ」

 

 だが、そんなもの(・・・・・)ATM(ファン)の命と身体能力を一方的に使える(みのり)にとっては大した脅威ではない。

 あっさりと(みのり)はそれに同意する。


「よろしい、では”本”を渡そう」

「見せてもらうわ」


 ”本”を受け取った(みのり)はそれをじっくりと見る。

 チェックすべきは特定のことを願った時、ペナルティが起こる願い。


 まず(みのり)の目に付いたのは第4の願い。


 第4の願い アナ・ワン

 ── この”祝福”で誰かが他の人の死を願おうとしたなら、その願いを言い終わる前にその人が苦しんで死ぬようにして ──

 

 そして次に止まったのはずっと先、彼女の予想通り、彼の目論見通り、その視線はとあるページに釘付けになっていた。


 第15の願い ケビン・フリーマン

 ── ほかのひとの”しゅくふく”をうばうわるいやつはしんじゃえ ──


 そのページはエゴルトがひと晩かけて捏造(ねつぞう)した部分。

 見たのが凛悟や蜜子、グッドマンであったならそれを見破っていたであろう。

 だが、(みのり)は”本”の実物を見るのは初めてである。

 だから、彼女は迷っていた。 

 この願いは明らかにエゴルト対策と思われる内容、凛悟たちの一派が願っていてもおかしくない、と。

 しかし、彼女はそれを()のみにするほど不用心ではなかった。


「確かに見せてもらったわ。だけど、この”本”が本物である証拠があるのかしら? ジェバンニが一晩でやってくれたものかもしれないわよ」


 ”本”のページをめくりながら(みのり)はエゴルトに問いかける。


「疑り深いね、君は」

「命がかかってますから」


 そう言いながらも(みのり)はこの”本”が本物であると半ば信じていた。

 状況的には正しい。

 この部屋の中には(みのり)が知らなかった”祝福者”がいる。

 花畑 蜜子、アーシー・ヌック、マリア・シスター・クリスト、(ヤン)・ヤングマン、ビジョー・スターガスキー。

 このうち、花畑 蜜子だけは藤堂から情報を得ていたが、他の4人は初対面。

 ”本”に載っている顔写真と部屋の奥に立っている面々は完全に一致。

 しかも生きている(・・・・・)

 その事実が彼女の中の第15の願いの信憑性(しんぴょうせい)を高めていた。


「よろしい。ならばこうしよう。これから後ろにいる僕の協力者に”祝福”を使ってもらう。”本”の情報が自動更新されたなら信じてもらえるかな」

「そうね、そうなったら信じるわ」

「その前に、ひとつ誓って欲しいことがある」

「なにかしら?」

「この”本”に次の願いが浮かび出たたなら、僕や僕の大切なものに危害を加えないで欲しい。傷つけたり邪魔しないと」


 (みのり)は少し考える。

 この申し出は相手からしてみれば当然の要求。

 そして、彼女はエゴルトの意図も薄々と気が付いていた。


「わかったわ。だけどこちらからもひとつ条件を出させて」

「なにかね?」

「その代わり、貴方はあたしが世界のトップスターになることに協力して」

「いいだろう。君を全面的にプロデュースすることを約束しよう」


 エゴルトが伸ばした手を(みのり)は握り返す。

 満足したように彼は笑みを浮かべ、(みのり)が持つ”本”を横からパラリとめくる。

 ふたりが覗き込むような形で”本”は開かれた。

 

「アーシー、話は聞いていたな。君の案に乗ろう。僕の指示した通りに”祝福”を使いたまえ!」

「りょ!」


 少し離れたテーブルのギャルっぽい女性の声が聞こえたかと思うと、”本”に文字が浮かびあがる。

 ”本”は本物みたいねと(みのり)はその内容を把握しようと凝視するが、内容以前の箇所で彼女は驚愕することになる。


 なんなのこれは!?


 その文はこう始まっていた。


 ── 第18(・・)の願い アーシー・ヌック ──

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