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1-6.衝突の門 湊 藤堂(みなと とうどう)

「やめて! はなして!」

「はなさへんで! やっとみつけたんや!」

 

 カチャカチャとリュックの缶バッチが音を立て、ふたりはもみ合う。

 祝福者、(みなと) 藤堂(とうどう)

 福岡出身の30歳、独身。

 もし、彼に『趣味は?』と尋ねたなら、『カワイ子ちゃんの! アイドルの追っかけや!』と笑顔で答えるであろう。

 彼の風体(ふうてい)から、それをあえて尋ねる人などいないが。


「その手を放せ」


 藤堂が振り向くと、彼とは対照的な線は細いが筋肉質の男が立っていた。


「センパイ! 助けて!」

「なんやキサン。ええかっこしいか? 関係ないやつはすっこんどき!」


 藤堂の声を聞き流しながら凛悟は蜜子に軽く視線を送る。


「関係はあるさ。おおありだ。可愛い後輩が嫌がっていたら助けるのが普通だ。それに……」

「それになんや?」

「その缶バッチ、アイドルの逸果(いっか) (みのり)のだろ。そんなローカル場末のアイドルのファンはやっぱ低レベルだ。バカが移る、俺と蜜子(みつこ)に近づかないでくれ」


 凛悟はそのアイドルのことは実はよく知らない。

 名前もバッチに書いてあったのを読んだだけだ。

 彼の台詞はでまかせ以外の何ものでもないが、藤堂の手の矛先を変えるには十分だった。


「キサン、ワイのことはどう言ってもええ。ばってん、(みのり)ちゃんを、ワイの純潔の天使を悪く言うのは許さんへん。取り消しや!」


 矛先を変えた手は凛悟の胸倉をつかみ、今にも殴りかかるような勢いで藤堂はくってかかる。


「取り消しどころか追加だ。『ファンはアイドルを映す鏡』とはよく言ったもんだ。お前の品性を見ればわかる。その(みのり)って女は場末から脱却するために枕営業も出来ないビッチ以下のアイドルさ!」


 スマホを手に、さすがにビッチ以下は言い過ぎとばかりに蜜子は眉をひそめる。


「ビッチ以下ちゃー、どーゆーこっちゃー!!」


 語気も荒げ、藤堂が凛悟の顔に拳をぶつけると、凛悟は少しよろめきチラリと蜜子の方を見る。

 撮ってますよーと言わんばかりに蜜子は手を振った。


「キ、キサン、ワイを()めたな!?」

(はま)ったのが悪い。逃げるぞ蜜子」

「ラジャー!」


 息もピッタリ、ふたりは動揺する藤堂を後目に駆け出そうとする。

 そして確信していた、あの体型とリュックでは絶対にこちらの足が速いと。


「ま、まちや!」

「そう言われて」

「待つバカはいませーん」


 ここはかつてふたりが通っていた学園。

 最寄りの交番は把握している。

 勝利を確信したふたりの後ろからゴンッ!という音が聞こえた。

 振り向いたふたりが見たのは土下座のポーズ。

 そして「ワイの負け、降参や。だから話だけでも聞いてな」という懇願(こんがん)の声。


「ワイにはそのお嬢ちゃん、いやお嬢様が必要なんや。お嬢様ならわかるやろ、このポーズの意味が」


 土下座の体勢から左手だけを立て、藤堂はそこへチラチラと視線を送る。

 その左手には指抜きグローブ。

 ふたりは察した。

 グローブの下の数字を。


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