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3-17.水面下の攻防 逸果 実

 TV会議ソフトが立ちあがりPCにニュースでよく見る有名人の顔が現れる。

 彼女にとって彼は普通ならば雲の上の人。

 だが今は彼女はお互いの立場は対等だと思っていた。

 自分の方がやや上だとも。

 それは奇しくも相手も同じ考えだった。

 いや、相手は自分の方が圧倒的に有利にあると思っていた。

 増長と言ってもいいほどに。


「はろー! 今日はあたしと会ってくれてありがとー! あいしてるー! 結婚してー!」

『……』

 

 KONK-Chu!(コンカッチュ!)のセンターをつとめ、日本ではかなり上位のランクに位置していると自負するアイドル、逸果(いつか)(みのり)はお決まりの台詞を相手に投げる。

 だが、返事はない。


「あれー? ひょっとしてミュートにしちゃっているのかなー? あ、それとも外人さんだからかな? あいらぶゆー! まりっじみー!」

『心配しなくていい。意味はわかっている。この通り僕は日本語も堪能だ』

「さっすが社長さん! あったまいいー! それじゃあ、気を取り直して! あいしてるー! 結婚してー!」


 電波に乗って届けとばかりに放たれる投げキッス。

 だが、会話の相手、エボルトテック社のCEOは手を横にふるだけ。


「あーんもう、社長さんったらノリが悪いぞー!」

『悪いが僕は君の信奉者(ファン)ではないのでね。結婚は断らせてもらうよ。それに僕の懐刀が隣で怖い目をしているからね』

「あら、それじゃあふたりっきりの時だったらどうなの。結婚してくれる? わんもあおせっせ!」

『遠慮しておこう。何をされるかわからないからね』

「ナニしかしないのに」

『なにもしないでいてくれることが僕の望みだ。本題に入ろう。互いに時間は貴重だからね』


 確かに時間は貴重だ。

 (みのり)にとって今日は命運を分けると言ってもいいほどの大コンサート、ドームコンサートが開催される。

 かつてアイドルの到達点として武道館とならびドームコンサートという(いただき)があった。

 今日のドームコンサートは本来の意味のドームコンサートとは東京と福岡という地域の違いはあったが、規模では同等。

 本来ならば、こんな大イベントの前にプライベートな時間なんて与えられない。

 相手が今後の大スポンサーとなるかもしれないエゴルトだから許可されたのだ。


『こちらからの条件は前に伝えた通り。君の”祝福”に対し20億円の対価を払う準備がある。条件は”僕の言う通りに願うこと”、それだけだ。今、その約束をしてくれるだけで1億の前金を払おう。どうかね?』

「あたしと結婚してくれるって言ってくれればいいわよ」

『それはダメだな。後で怖いことになりそうだ。だが、この話に乗らないというのなら、君は怖い目にあうかもしれないよ』

「あたしを殺して”祝福”を奪うってことかしら」

『アンテナが高いな』

「アイドルですから。いつもバリ3よ」


 バリ3はひと昔前の若者言葉でで携帯のアンテナマークが3本立っているという意味。

 これもそういうのを(・・・・・・)喜ぶファン向けに彼女が学んだ言葉だ。


『湊 藤堂から得た情報だな。彼はそこに居るのかい?』

「いないわ。昨日別れたっきりよ」

『よければ彼にもこの条件を伝えてくれないか? 首尾よく彼を説得出来たら、3倍の報酬を約束しよう』

「それは魅力ある話ね。心に留めておくわ」

『それで、返事はどうかな』

「社長さんとは出来れば敵対したくないわね。でも、ちょっと待って欲しいの。コンサートが終わったら会いにいくわ」

「僕は今、口約束だけでもいいと思っているのだが」

「ごめんなさい。ドームコンサートはあたしの夢なの。これが成功するまで待って」


 ふたりの間に数秒の沈黙が流れる。


『残念だ。迎えのヘリを出そう。コンサートが終わったらこちらに来たまえ』

「おじゃまするわ。盛大な歓迎パーティを用意して下さいね」

『ああ、前座からクライマックスのパーティを用意させよう』

「うれしいっ! 好きっ! 結婚して!」

『……』


 沈黙の返事を残して通話は切れた。

 ひとりになって(みのり)は決意を固める。

 これはダメね、やっぱ実力(ちから)でわからせないと、と。

 それは奇しくもふたりとも同じ考えだった。

 

 

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